俺もクズだが悪いのはお前らだ!

レオナール D

文字の大きさ
上 下
55 / 317
第2章 帝国騒乱 編

39.動き出した怠惰と最後の切り札

しおりを挟む
side グリード・バアル

「ぐあああああああああッ!?」

 切り裂かれた胸からボタボタと血が流れ落ちる。私は床に膝をついて両手で胸元を抑えた。

「ちく、しょおおおおおっ! ディンギル・マクスウェル! ぜ、絶対に殺してやる! ぶち殺してやるぞおおおおおおッ!!」

 斬られる瞬間に転移したおかげで傷口は深くない。しかし、こんなふうにケガをさせられるのは生まれて初めてのことで、私の頭はディンギル・マクスウェルへの憎悪で真っ赤になって口から怨嗟の言葉があふれ出た。
 先ほど使った【天翔翼靴ヘルメス】は転移能力を持つ魔具で、過去に行ったことがある場所に一瞬で移動することができる。私が管理する領地の税収の半分を費やしてようやく購入したもので、そのおかげで辛くも窮地を脱することができた。

 転移した場所は帝都にある私の執務室である。
 私は這うようにして自分の机へとにじり寄り、引き出しから【薬品魔具ポーション】を取り出して一息にあおった。

「んぐっ、んぐっ・・・・・・ふう、くそっ、まさかこんな事になるなんて。ルクセリアを拉致しただけで飽き足らず高貴な私への暴虐まで。万死に値しますよ・・・!」

 薬のおかげで徐々に痛みが引いてきて、頭の中がクリアになっていく。
 ディンギル・マクスウェルはもちろん殺す。ルクセリアは取り戻して妻にする。今回は愚かなラーズの暴走によって敗北してしまったが、本来であれば下賤な田舎貴族ごときに次期皇帝である私が後れをとるわけがない。

「私がマクスウェルごときに負けるなんてあっていいわけがありません。そうだ、間違いは取り消さなければ・・・幸いにもラーズは生死不明の状態ですし、あいつを死んだことにして今のうちに皇帝の座についてしまえば・・・」

 皇帝になってしまえば帝国の全軍の指揮を得られる。第1軍団と第2軍団は壊滅的な打撃を受けているが、後詰めの鎮護兵はいくらか残されている。第3軍団も無傷でいるだろうし、まだまだ帝国は戦うことができる。

「そうと決まればすぐに行動に移さなくてはいけませんね・・・くくっ、覚えていなさい。ディンギル・マクスウェル。すぐにまた攻め込んで、今度こそ滅ぼしてやります」

 私は傷が治ったのを確認して執務室を後にした。宮廷内はなぜか慌ただしい雰囲気に包まれている。私は首を傾げつつ、走り回っている役人に声をかけた。

「そこの君、待ちなさい!」

「はっ、えっ? グリード殿下!? 遠征に出ておられたのでは・・・」

「さっき帰ったところです。そんなことより、ラーズ兄上がマクスウェル家との戦いで戦死してしまいまして、遺憾ながら国をまとめるために私が皇帝となって・・・」

「ちょうどよかった! 大変なことになりました!」

 私の言葉を遮り役人が叫ぶ。

「大変なこと? 何のことです?」

 まさかもうブリテン要塞の敗北の知らせが届いたのだろうか? 疑問に思って尋ねると、役人の口から予想外の言葉が放たれた。

「謀反です! 第3皇子スロウス殿下が第3軍団を引き連れて帝国に反逆を起こしました!」

「なっ!? 馬鹿な!」

 私は身体をのけぞらせて叫ぶ。
 弟のスロウスは怠惰を絵に描いた男であり、野心など欠片も持たない男である。次期皇帝の継承戦には参加しているものの、実際にはたんなる数合わせで皇帝となれる立場ではない。

「すでにスロウス殿下は帝都を包囲しています! 近衛騎士団が対処していますが、サラザール騎士団長も不在ですし、長くは持ちません!」

「馬鹿な! 帝都を守るのに十分な兵力は残しているはずです!」

 確かに帝都警護を担っている近衛騎士団の主力はブリテン要塞に遠征に出ているが、十分な量の鎮護兵は残している。第3軍団が総力で攻め込んできたとしても一月は持ちこたえられるはずだ。

「い、いえ、敵は第3軍団だけではなく煌王朝の兵士もいるようです」

「なっ!?」

 煌王朝は帝国の東方に国境を接する国で、スロウスと第3軍団が戦っているはずの敵国である。

「国を売ったのですか!? あの売国奴め・・・!」

 私はギリギリと奥歯を噛みしめて唸る。
 まさかスロウスが敵国と内通しているとは思わなかった。完全にあの怠惰な弟を見くびっていた。

「スロウス殿下はおとなしく帝都を明け渡すのであれば、兵士も民も命を助けるとおっしゃっています。いっそのこと門を開けて・・・」

「いけません!」

 私はとっさに叫んだ。仮にスロウスが帝都の人々を殺すつもりがなかったとしても、帝位継承のライバルである自分のことを生かしておくとは思えない。

(この私があの愚かな弟に捕らわれて公開処刑されるなんてあってはならない! しかし・・・どうすれば)

 第3軍団だけであれば持ちこたえられるかもしれないが、煌王朝の援軍までいるとなれば話は別だ。
 何か、この状況を一発逆転する方法が・・・

「あるじゃないですか・・・! そうだ、王宮にはあれがあった!」

「で、殿下!?」

「スロウスは私が対処します! 他の者達にもそう伝えてください!」

 私は役人にそう言いつけて王宮の廊下を駆けだした。普段、あまり運動をしないせいで肺が悲鳴を上げている。全力疾走をするなんて子供の時以来だ。

「は、は、はっ・・・はははっ、そうだ! 私は皇帝になる男です! だったら、皇帝だけが使うことを許された秘宝だって使ってもいいはず!」

 私は王宮の中心にある建物の中に入っていった。それは代々の皇帝の亡骸が葬られている「王墓」である。
 白い大理石でできた王墓の中を進んでいくと、最奥に初代皇帝の墓石があった。

「くっ、ふ、ふふふっ、ふはははっ、後悔させてやる。スロウスも、ディンギル・マクスウェルも、俺に逆らった者達を皆殺しにしてやる・・・!」

 初代皇帝であるゼブル・バアルの墓石には、拳大の大きさの透明な宝玉が嵌めこまれている。私は懐から取り出したナイフで手の平を斬り、滲みだした血を宝玉に押し当てた。すると、私の血液が宝玉に染み込んで透明な宝玉が真っ赤に染まっていく。

 ゴゴゴゴゴゴゴッ・・・・・・

 轟音と共に王宮の床が激しく揺れる。大理石で出来た王墓の建物の壁が衝撃で崩れていく。

「ははは、はははははははっ! やはり私は皇帝になるべき男だ! 初代皇帝が、世界が、神が私を祝福している!」

 私が起動させたのは代々の皇帝に受け継がれている魔具だった。
 初代皇帝から「帝国が滅亡の危機に瀕するときまで決して使うことは許されない」と言い伝えられている世界最強、最大の魔具である。

「起動せよ【雷帝神槌ゼウス】! 私がお前の主、バアル帝国の皇帝だ!」

 私の帝位を阻む者すべてを討ち滅ぼす、地上最強の魔法兵器が解き放たれた。
しおりを挟む
感想 1,043

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

高身長お姉さん達に囲まれてると思ったらここは貞操逆転世界でした。〜どうやら元の世界には帰れないので、今を謳歌しようと思います〜

水国 水
恋愛
ある日、阿宮 海(あみや かい)はバイト先から自転車で家へ帰っていた。 その時、快晴で雲一つ無い空が急変し、突如、周囲に濃い霧に包まれる。 危険を感じた阿宮は自転車を押して帰ることにした。そして徒歩で歩き、喉も乾いてきた時、運良く喫茶店の看板を発見する。 彼は霧が晴れるまでそこで休憩しようと思い、扉を開く。そこには女性の店員が一人居るだけだった。 初めは男装だと考えていた女性の店員、阿宮と会話していくうちに彼が男性だということに気がついた。そして同時に阿宮も世界の常識がおかしいことに気がつく。 そして話していくうちに貞操逆転世界へ転移してしまったことを知る。 警察へ連れて行かれ、戸籍がないことも発覚し、家もない状況。先が不安ではあるが、戻れないだろうと考え新たな世界で生きていくことを決意した。 これはひょんなことから貞操逆転世界に転移してしまった阿宮が高身長女子と関わり、関係を深めながら貞操逆転世界を謳歌する話。

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

チートな嫁たちに囲まれて異世界で暮らしています

もぶぞう
ファンタジー
森でナギサを拾ってくれたのはダークエルフの女性だった。 使命が有る訳でも無い男が強い嫁を増やしながら異世界で暮らす話です(予定)。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。