俺もクズだが悪いのはお前らだ!

レオナール D

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第2章 帝国騒乱 編

29.3人の守護者

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 マクスウェル辺境伯軍とバアル帝国の戦争初日は、マクスウェル辺境伯軍の圧倒的な勝利に終わった。
 日が暮れるとともに帝国軍は陣地に引き上げていった。夜襲に備えて見張りを置いているが、体勢を立て直したいのは帝国の方である。おそらく、今夜のところは戦いは起こらないだろう。

「さて、それじゃあ、今日一日の報告会といこうか」

 戦いが終わったのを見計らい、要塞中央にある司令室に各部署の担当者を集めて軍議を開いた。集まってくれた責任者達の顔には疲労と緊張の色が浮かんでいるが、表情に暗さは見られない。

「誰からでもいいから報告をしてもらおうか。ここは戦場だ。立場や形式は気にしなくていい」

「では、私から」

 最初に口を開いたのは北側の城壁を守っていたサーム・シルフィスである。

「北側の城壁に異常はありません。帝国第2軍団は朝から日暮れまでしつこく攻めてきましたが、手加減をした状態でも余裕でしたよ。毒や火薬も使わずに済みました」

「南側。同じく問題なーし。近衛騎士団の連中、帝国最精鋭なんて言われてるくせに大したことはなかったぜ。正直、暴れ足りない」

 サームに続いて、ラッド・イフリータも報告をする。南の城壁を守っていた悪友は両手を頭の後ろに回して足をテーブルの上に乗せるという、貴族の子弟とは思えないような態度をとっている。

「帝国軍って思ったよりも弱いんだな。俺も本気を出さなくても楽勝だったぜ?」

「そうですね。攻城兵器の扱いもお粗末でしたし、拍子抜けでしたよ。随分と練度が低いように見えましたけど、彼らは本気でこの要塞を落とすつもりなのでしょうか?」

「別に連中が弱いわけじゃないさ。たんなる適材適所ってだけだな」

 そもそも、帝国第2軍団はずっと北方の遊牧民と戦っていた。テントを使って移動しながら生活している遊牧民達は決まった町や城を持っていないため、第2軍団の兵士達は城攻めを経験したことがほとんどなかった。
 それは近衛騎士団も同様である。近衛騎士団はあくまでも王宮と帝都周辺の防衛を職務としている。敵国に攻め込むことはまるで想定しておらず、攻城兵器など触れたこともないだろう。

「第2軍団は騎兵を使っての野戦、近衛騎士団は帝都を守る防衛戦に長けている。奴らに城攻めなんてさせていることがそもそもの間違いなんだよ」

 帝国の3つの軍団による数任せの侵略を誰が提案したのかはわからないが、明らかに今回の侵攻は悪手である。もしも3つの軍団の統制がとれており、お互いの長所を生かすような戦いをしていれば、恐るべき強さを持った軍勢となっただろう。
 しかし、いがみ合ってお互いの力を引き下げた状態で落とせるほど、このブリテン要塞は脆くはない。

「なるほど、道理で弱いわけです」

「うげー、つまんねー! 若殿! そっちと代わってくれよー!」

「はは、ダメだな。俺は前回の戦争でベイオーク・ザガンを討ち取ったおかげで、第1軍団から恐れられているからな。俺がいた方が連中を威圧できる」

「ちぇー! つまんねー!」

 ラッドはテーブルに乗せた足をバタバタと上下させる。仮にも主家の跡継ぎの前での無礼すぎる態度にサームが眉をつり上げた。

「ラッド、場をわきまえろ! 若殿の御前だぞ!」

「いいじゃん、形式とかいらねーってさっき言ってたじゃねえか!」

「それとこれとは関係ないでしょうが! 貴方は仮にもイフリータ子爵家の跡継ぎなんですよ! 少しは態度を・・・」

「もういい、サーム。これに何言っても無駄だ」

 俺は肩をすくめて二人の口論を止めに入る。いまだ不満そうに頬を膨らませるラッドと、そんな無礼な友人を睨みつけるサーム。二人を交互に見て、牙をむいて笑う。

「ラッド。心配しなくても、戦の終わりにはお前に花を持たせてやろう。だから、今はちゃんと抑えて戦えよ?」

「ちぇー、約束だぜ? 今はお預けしといてやるよ」

 この戦いが始まる前、俺はラッドとサームに一つの指示を出していた。

『城壁を敵に抜かれてはならない。しかし、できる限り手加減をして戦うこと』

 北壁と南壁にも毒や火薬を用意しているが、二人には追い詰められるまでは使わないように言い含めてある。
 二人が手加減をしろという奇妙な指示を忠実に遂行してくれたおかげで、練りに練った策略を帝国軍に仕掛けることができるだろう。

「頼りにしてるぞ。二人とも。明日からは敵もからめ手を混ぜてくるだろうし、心してかかってくれよな」

「承知しました、若殿」

「任せとけよ。手加減しつつボコボコに叩きのめしてやる」

「はははっ、期待してる」

 頼もしい友人に笑いかけて、俺は他の担当者の報告に耳を傾けた。
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