45 / 317
第2章 帝国騒乱 編
29.3人の守護者
しおりを挟む
マクスウェル辺境伯軍とバアル帝国の戦争初日は、マクスウェル辺境伯軍の圧倒的な勝利に終わった。
日が暮れるとともに帝国軍は陣地に引き上げていった。夜襲に備えて見張りを置いているが、体勢を立て直したいのは帝国の方である。おそらく、今夜のところは戦いは起こらないだろう。
「さて、それじゃあ、今日一日の報告会といこうか」
戦いが終わったのを見計らい、要塞中央にある司令室に各部署の担当者を集めて軍議を開いた。集まってくれた責任者達の顔には疲労と緊張の色が浮かんでいるが、表情に暗さは見られない。
「誰からでもいいから報告をしてもらおうか。ここは戦場だ。立場や形式は気にしなくていい」
「では、私から」
最初に口を開いたのは北側の城壁を守っていたサーム・シルフィスである。
「北側の城壁に異常はありません。帝国第2軍団は朝から日暮れまでしつこく攻めてきましたが、手加減をした状態でも余裕でしたよ。毒や火薬も使わずに済みました」
「南側。同じく問題なーし。近衛騎士団の連中、帝国最精鋭なんて言われてるくせに大したことはなかったぜ。正直、暴れ足りない」
サームに続いて、ラッド・イフリータも報告をする。南の城壁を守っていた悪友は両手を頭の後ろに回して足をテーブルの上に乗せるという、貴族の子弟とは思えないような態度をとっている。
「帝国軍って思ったよりも弱いんだな。俺も本気を出さなくても楽勝だったぜ?」
「そうですね。攻城兵器の扱いもお粗末でしたし、拍子抜けでしたよ。随分と練度が低いように見えましたけど、彼らは本気でこの要塞を落とすつもりなのでしょうか?」
「別に連中が弱いわけじゃないさ。たんなる適材適所ってだけだな」
そもそも、帝国第2軍団はずっと北方の遊牧民と戦っていた。テントを使って移動しながら生活している遊牧民達は決まった町や城を持っていないため、第2軍団の兵士達は城攻めを経験したことがほとんどなかった。
それは近衛騎士団も同様である。近衛騎士団はあくまでも王宮と帝都周辺の防衛を職務としている。敵国に攻め込むことはまるで想定しておらず、攻城兵器など触れたこともないだろう。
「第2軍団は騎兵を使っての野戦、近衛騎士団は帝都を守る防衛戦に長けている。奴らに城攻めなんてさせていることがそもそもの間違いなんだよ」
帝国の3つの軍団による数任せの侵略を誰が提案したのかはわからないが、明らかに今回の侵攻は悪手である。もしも3つの軍団の統制がとれており、お互いの長所を生かすような戦いをしていれば、恐るべき強さを持った軍勢となっただろう。
しかし、いがみ合ってお互いの力を引き下げた状態で落とせるほど、このブリテン要塞は脆くはない。
「なるほど、道理で弱いわけです」
「うげー、つまんねー! 若殿! そっちと代わってくれよー!」
「はは、ダメだな。俺は前回の戦争でベイオーク・ザガンを討ち取ったおかげで、第1軍団から恐れられているからな。俺がいた方が連中を威圧できる」
「ちぇー! つまんねー!」
ラッドはテーブルに乗せた足をバタバタと上下させる。仮にも主家の跡継ぎの前での無礼すぎる態度にサームが眉をつり上げた。
「ラッド、場をわきまえろ! 若殿の御前だぞ!」
「いいじゃん、形式とかいらねーってさっき言ってたじゃねえか!」
「それとこれとは関係ないでしょうが! 貴方は仮にもイフリータ子爵家の跡継ぎなんですよ! 少しは態度を・・・」
「もういい、サーム。これに何言っても無駄だ」
俺は肩をすくめて二人の口論を止めに入る。いまだ不満そうに頬を膨らませるラッドと、そんな無礼な友人を睨みつけるサーム。二人を交互に見て、牙をむいて笑う。
「ラッド。心配しなくても、戦の終わりにはお前に花を持たせてやろう。だから、今はちゃんと抑えて戦えよ?」
「ちぇー、約束だぜ? 今はお預けしといてやるよ」
この戦いが始まる前、俺はラッドとサームに一つの指示を出していた。
『城壁を敵に抜かれてはならない。しかし、できる限り手加減をして戦うこと』
北壁と南壁にも毒や火薬を用意しているが、二人には追い詰められるまでは使わないように言い含めてある。
二人が手加減をしろという奇妙な指示を忠実に遂行してくれたおかげで、練りに練った策略を帝国軍に仕掛けることができるだろう。
「頼りにしてるぞ。二人とも。明日からは敵もからめ手を混ぜてくるだろうし、心してかかってくれよな」
「承知しました、若殿」
「任せとけよ。手加減しつつボコボコに叩きのめしてやる」
「はははっ、期待してる」
頼もしい友人に笑いかけて、俺は他の担当者の報告に耳を傾けた。
日が暮れるとともに帝国軍は陣地に引き上げていった。夜襲に備えて見張りを置いているが、体勢を立て直したいのは帝国の方である。おそらく、今夜のところは戦いは起こらないだろう。
「さて、それじゃあ、今日一日の報告会といこうか」
戦いが終わったのを見計らい、要塞中央にある司令室に各部署の担当者を集めて軍議を開いた。集まってくれた責任者達の顔には疲労と緊張の色が浮かんでいるが、表情に暗さは見られない。
「誰からでもいいから報告をしてもらおうか。ここは戦場だ。立場や形式は気にしなくていい」
「では、私から」
最初に口を開いたのは北側の城壁を守っていたサーム・シルフィスである。
「北側の城壁に異常はありません。帝国第2軍団は朝から日暮れまでしつこく攻めてきましたが、手加減をした状態でも余裕でしたよ。毒や火薬も使わずに済みました」
「南側。同じく問題なーし。近衛騎士団の連中、帝国最精鋭なんて言われてるくせに大したことはなかったぜ。正直、暴れ足りない」
サームに続いて、ラッド・イフリータも報告をする。南の城壁を守っていた悪友は両手を頭の後ろに回して足をテーブルの上に乗せるという、貴族の子弟とは思えないような態度をとっている。
「帝国軍って思ったよりも弱いんだな。俺も本気を出さなくても楽勝だったぜ?」
「そうですね。攻城兵器の扱いもお粗末でしたし、拍子抜けでしたよ。随分と練度が低いように見えましたけど、彼らは本気でこの要塞を落とすつもりなのでしょうか?」
「別に連中が弱いわけじゃないさ。たんなる適材適所ってだけだな」
そもそも、帝国第2軍団はずっと北方の遊牧民と戦っていた。テントを使って移動しながら生活している遊牧民達は決まった町や城を持っていないため、第2軍団の兵士達は城攻めを経験したことがほとんどなかった。
それは近衛騎士団も同様である。近衛騎士団はあくまでも王宮と帝都周辺の防衛を職務としている。敵国に攻め込むことはまるで想定しておらず、攻城兵器など触れたこともないだろう。
「第2軍団は騎兵を使っての野戦、近衛騎士団は帝都を守る防衛戦に長けている。奴らに城攻めなんてさせていることがそもそもの間違いなんだよ」
帝国の3つの軍団による数任せの侵略を誰が提案したのかはわからないが、明らかに今回の侵攻は悪手である。もしも3つの軍団の統制がとれており、お互いの長所を生かすような戦いをしていれば、恐るべき強さを持った軍勢となっただろう。
しかし、いがみ合ってお互いの力を引き下げた状態で落とせるほど、このブリテン要塞は脆くはない。
「なるほど、道理で弱いわけです」
「うげー、つまんねー! 若殿! そっちと代わってくれよー!」
「はは、ダメだな。俺は前回の戦争でベイオーク・ザガンを討ち取ったおかげで、第1軍団から恐れられているからな。俺がいた方が連中を威圧できる」
「ちぇー! つまんねー!」
ラッドはテーブルに乗せた足をバタバタと上下させる。仮にも主家の跡継ぎの前での無礼すぎる態度にサームが眉をつり上げた。
「ラッド、場をわきまえろ! 若殿の御前だぞ!」
「いいじゃん、形式とかいらねーってさっき言ってたじゃねえか!」
「それとこれとは関係ないでしょうが! 貴方は仮にもイフリータ子爵家の跡継ぎなんですよ! 少しは態度を・・・」
「もういい、サーム。これに何言っても無駄だ」
俺は肩をすくめて二人の口論を止めに入る。いまだ不満そうに頬を膨らませるラッドと、そんな無礼な友人を睨みつけるサーム。二人を交互に見て、牙をむいて笑う。
「ラッド。心配しなくても、戦の終わりにはお前に花を持たせてやろう。だから、今はちゃんと抑えて戦えよ?」
「ちぇー、約束だぜ? 今はお預けしといてやるよ」
この戦いが始まる前、俺はラッドとサームに一つの指示を出していた。
『城壁を敵に抜かれてはならない。しかし、できる限り手加減をして戦うこと』
北壁と南壁にも毒や火薬を用意しているが、二人には追い詰められるまでは使わないように言い含めてある。
二人が手加減をしろという奇妙な指示を忠実に遂行してくれたおかげで、練りに練った策略を帝国軍に仕掛けることができるだろう。
「頼りにしてるぞ。二人とも。明日からは敵もからめ手を混ぜてくるだろうし、心してかかってくれよな」
「承知しました、若殿」
「任せとけよ。手加減しつつボコボコに叩きのめしてやる」
「はははっ、期待してる」
頼もしい友人に笑いかけて、俺は他の担当者の報告に耳を傾けた。
5
お気に入りに追加
6,111
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

高身長お姉さん達に囲まれてると思ったらここは貞操逆転世界でした。〜どうやら元の世界には帰れないので、今を謳歌しようと思います〜
水国 水
恋愛
ある日、阿宮 海(あみや かい)はバイト先から自転車で家へ帰っていた。
その時、快晴で雲一つ無い空が急変し、突如、周囲に濃い霧に包まれる。
危険を感じた阿宮は自転車を押して帰ることにした。そして徒歩で歩き、喉も乾いてきた時、運良く喫茶店の看板を発見する。
彼は霧が晴れるまでそこで休憩しようと思い、扉を開く。そこには女性の店員が一人居るだけだった。
初めは男装だと考えていた女性の店員、阿宮と会話していくうちに彼が男性だということに気がついた。そして同時に阿宮も世界の常識がおかしいことに気がつく。
そして話していくうちに貞操逆転世界へ転移してしまったことを知る。
警察へ連れて行かれ、戸籍がないことも発覚し、家もない状況。先が不安ではあるが、戻れないだろうと考え新たな世界で生きていくことを決意した。
これはひょんなことから貞操逆転世界に転移してしまった阿宮が高身長女子と関わり、関係を深めながら貞操逆転世界を謳歌する話。
間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ
ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。
間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。
多分不具合だとおもう。
召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。
そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます
◇
四巻が販売されました!
今日から四巻の範囲がレンタルとなります
書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
コミカライズもスタートしています
毎月最初の金曜日に更新です
お楽しみください!
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

チートな嫁たちに囲まれて異世界で暮らしています
もぶぞう
ファンタジー
森でナギサを拾ってくれたのはダークエルフの女性だった。
使命が有る訳でも無い男が強い嫁を増やしながら異世界で暮らす話です(予定)。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する
美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」
御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。
ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。
✳︎不定期更新です。
21/12/17 1巻発売!
22/05/25 2巻発売!
コミカライズ決定!
20/11/19 HOTランキング1位
ありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。