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第2章 帝国騒乱 編
27.戦上手な卑怯者
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そして、朝がやってきた。
要塞の中で兵士達が慌ただしく動き始める。同様に、要塞を包囲する帝国軍からも喧噪の音が聞こえてくる。
「さて、それでは開戦の挨拶といこうか」
俺は東側の城壁へと登り、眼下に帝国第1軍団を見下ろした。
隣には昨日、帝国から送られてきた降伏勧告の使者の姿があった。使者は手を縛られて、両脇をマクスウェル家の兵士に押さえつけられている。
俺は腰から剣を抜いて、帝国軍に見せつけるように朝日が昇る天へと掲げる。
「悪く思うな・・・って言っても無理だよな。これも戦の作法だ。迷わずに逝け」
「・・・呪われろ。マクスウェルの鬼子め」
「はっ、お疲れさん!」
怨嗟の言葉を吐き捨てる使者の首を、一刀のもとに斬り飛ばす。残された胴体を城壁の下へと蹴り落として、首を拾い上げて帝国軍へと見せつける。
『オオオオオオオオオオオオオオッ‼』
同胞を目の前で殺された帝国軍から怒号が上がった。槍と大盾で武装した兵士達が要塞に向けて進軍を始める。東側の第1軍団が動き出したのを見て、北側の第2軍団、南側の近衛騎士団も動き出した。
「さあ、やろうか! 天下分け目の大戦の始まりだ!」
万を超える軍勢を城壁から見下ろして、俺は唇を釣り上げて笑った。
『うおおおおおおおおおおおおおおっ‼』
俺の声に応えて、要塞の中から獣の遠吠えのような雄叫びが響き渡った。
ブリテン要塞東壁にて、帝国第1軍団の兵士達が城壁に向けて殺到する。
「梯子を持て! 要塞の中に突入するぞ!」
「はっ!」
部隊長の指示に従って、長い梯子を持った兵士達が地面を蹴って駆けていく。
そんな兵士達に城壁の上から矢が放たれる。雨のように降り注ぐ矢を帝国兵は大楯をかざして防ぐが、防ぎきれなかった矢の何本かが帝国兵の肩や足に突き刺さる。
「かっ・・・!」
「ぐっ・・・大丈夫か!?」
「無事な者は作業を続けろ! お前ら、早く起きないと矢の的に・・・」
矢を受けて倒れている帝国兵に仲間の兵士が呼びかけるが、すぐに異変に気がついた。
「あっ・・・がっ・・・かはっ、かっ・・・」
「おい!? どうした!?」
「・・・息が・・・かっ・・・」
「まさか・・・毒か!?」
手足に矢を受けた兵士達が首を掻きむしり、泡を吹いて地面の上で痙攣する。矢尻に毒が塗ってあることに気がついたときにはもう遅い。さらなる矢の雨が帝国兵の頭上へと降り注ぐ。
「ぎゃあああああああっ!」
「ひっ・・・あっ・・・いや、だ・・・」
「くそっ! マクスウェル、卑怯だぞ!」
帝国兵が次々と毒に倒れていく。倒れた仲間を助け起こそうとする兵士にも、絶え間なく降り注ぐ矢が襲いかかる。
「戦争に卑怯も何もないだろう。5倍の兵数で攻めてきておいて勝手なことを言うなよ」
阿鼻叫喚の地獄となった城壁の外を見下ろしながら、俺はさらに攻撃の指示を出す。
「遠慮はいらない。どんどん撃て! 今日は俺のおごりだ! 遠路はるばるお越しいただいた帝国の皆さんに、腹いっぱい毒の飯をごちそうしてやれ!」
『おお!』
城壁にいる兵士達が手元の水瓶に矢の先を付けて、帝国兵へと撃ち放つ。城壁に等間隔に並べられた大量の水瓶は全て毒の水で満たされている。大量の毒水は万の兵を毒殺できるだけの量があった。
「あのクソババアの贈り物が役立っているのが忌々しいが・・・使える物は親だって利用してやるさ」
膨大な毒の出所は、俺の母親であるグレイスからの贈り物である。
王都でエキドナ・サンダーバードを通じて受け取った「シーヒュドラの胆石」は、水につけることで毒の成分が溶けだして大量の毒水を生成することができる。箱一杯の毒石は万の兵を毒殺するのに十分な量があった。
「・・・この剣といい、毒の石といい、あの母親からのプレゼントが要点要所で役立っているのが無性におっかないな・・・どっかで見てんのかあのババア」
思い返してみれば、自分の愛剣『無敵鋼鉄』も母親から贈られたものである。これがなければ、5年前の戦争でベイオーク・ザガンに殺されていただろう。
「持つべきものはクソババア・・・考えただけでも腹が立つな」
鬱憤を晴らすように、俺は手槍の先端を毒につけて帝国兵に向けて投擲する。放たれた槍は右往左往する兵士達に指示を出していた将兵の胸に突き刺さり、鎧を突き抜けて背中まで貫通する。
「おっと、毒を塗る必要はなかったな。ん、あれは・・・?」
帝国兵が頭上に大楯をかざして矢を防ぎながら、破城槌を城壁に向けて運んでいる。マクスウェル兵が狙って矢を撃つが、大楯に弾かれて止めることができない。破城槌はそのままの勢いで城壁へと叩きつけられた。
「若様! 破城槌が・・・」
「許す。アレを投げ落とせ」
「承知しました!」
俺の許可を得たマクスウェル兵が足元の木箱から陶器の壺を取り出した。火種のランプを使って壺の先端から飛び出ている紐へと着火する。
「くらえ!」
マクスウェル兵が火の点いた壺を城壁から投げ落とす。壺は破城槌を持った帝国兵の足元へと落ちて、地面に衝突した瞬間、黒煙を上げて爆発する。
ドオオオオオオオオン!
「うわあああああああああっ!?」
「か、火薬だっ!」
「目が、目があああああああ!」
帝国兵が破城槌を投げ出して、城壁に背を向けて逃げ出していく。その背中へと毒の矢が突き刺さる。
「うむ、やはり花火は良いな。見ていて童心に返る気がする!」
「若様! あれを!」
「ん?」
マクスウェル兵が指さす方向を見ると、四つの車輪がついた攻城櫓が数台、帝国の陣地から城壁に向かって進んでくる。
俺は牙をむいて笑い、右手を頭上へと掲げた。
「構わん! 吹き飛ばせ!」
『はっ!』
マクスウェル兵達は火薬の詰まった壺――焙烙玉に火を点けて、次々と攻城櫓に向けて投げつけた。
立て続けに戦場に破裂音が鳴り響き、黒煙が空へと昇った。
要塞の中で兵士達が慌ただしく動き始める。同様に、要塞を包囲する帝国軍からも喧噪の音が聞こえてくる。
「さて、それでは開戦の挨拶といこうか」
俺は東側の城壁へと登り、眼下に帝国第1軍団を見下ろした。
隣には昨日、帝国から送られてきた降伏勧告の使者の姿があった。使者は手を縛られて、両脇をマクスウェル家の兵士に押さえつけられている。
俺は腰から剣を抜いて、帝国軍に見せつけるように朝日が昇る天へと掲げる。
「悪く思うな・・・って言っても無理だよな。これも戦の作法だ。迷わずに逝け」
「・・・呪われろ。マクスウェルの鬼子め」
「はっ、お疲れさん!」
怨嗟の言葉を吐き捨てる使者の首を、一刀のもとに斬り飛ばす。残された胴体を城壁の下へと蹴り落として、首を拾い上げて帝国軍へと見せつける。
『オオオオオオオオオオオオオオッ‼』
同胞を目の前で殺された帝国軍から怒号が上がった。槍と大盾で武装した兵士達が要塞に向けて進軍を始める。東側の第1軍団が動き出したのを見て、北側の第2軍団、南側の近衛騎士団も動き出した。
「さあ、やろうか! 天下分け目の大戦の始まりだ!」
万を超える軍勢を城壁から見下ろして、俺は唇を釣り上げて笑った。
『うおおおおおおおおおおおおおおっ‼』
俺の声に応えて、要塞の中から獣の遠吠えのような雄叫びが響き渡った。
ブリテン要塞東壁にて、帝国第1軍団の兵士達が城壁に向けて殺到する。
「梯子を持て! 要塞の中に突入するぞ!」
「はっ!」
部隊長の指示に従って、長い梯子を持った兵士達が地面を蹴って駆けていく。
そんな兵士達に城壁の上から矢が放たれる。雨のように降り注ぐ矢を帝国兵は大楯をかざして防ぐが、防ぎきれなかった矢の何本かが帝国兵の肩や足に突き刺さる。
「かっ・・・!」
「ぐっ・・・大丈夫か!?」
「無事な者は作業を続けろ! お前ら、早く起きないと矢の的に・・・」
矢を受けて倒れている帝国兵に仲間の兵士が呼びかけるが、すぐに異変に気がついた。
「あっ・・・がっ・・・かはっ、かっ・・・」
「おい!? どうした!?」
「・・・息が・・・かっ・・・」
「まさか・・・毒か!?」
手足に矢を受けた兵士達が首を掻きむしり、泡を吹いて地面の上で痙攣する。矢尻に毒が塗ってあることに気がついたときにはもう遅い。さらなる矢の雨が帝国兵の頭上へと降り注ぐ。
「ぎゃあああああああっ!」
「ひっ・・・あっ・・・いや、だ・・・」
「くそっ! マクスウェル、卑怯だぞ!」
帝国兵が次々と毒に倒れていく。倒れた仲間を助け起こそうとする兵士にも、絶え間なく降り注ぐ矢が襲いかかる。
「戦争に卑怯も何もないだろう。5倍の兵数で攻めてきておいて勝手なことを言うなよ」
阿鼻叫喚の地獄となった城壁の外を見下ろしながら、俺はさらに攻撃の指示を出す。
「遠慮はいらない。どんどん撃て! 今日は俺のおごりだ! 遠路はるばるお越しいただいた帝国の皆さんに、腹いっぱい毒の飯をごちそうしてやれ!」
『おお!』
城壁にいる兵士達が手元の水瓶に矢の先を付けて、帝国兵へと撃ち放つ。城壁に等間隔に並べられた大量の水瓶は全て毒の水で満たされている。大量の毒水は万の兵を毒殺できるだけの量があった。
「あのクソババアの贈り物が役立っているのが忌々しいが・・・使える物は親だって利用してやるさ」
膨大な毒の出所は、俺の母親であるグレイスからの贈り物である。
王都でエキドナ・サンダーバードを通じて受け取った「シーヒュドラの胆石」は、水につけることで毒の成分が溶けだして大量の毒水を生成することができる。箱一杯の毒石は万の兵を毒殺するのに十分な量があった。
「・・・この剣といい、毒の石といい、あの母親からのプレゼントが要点要所で役立っているのが無性におっかないな・・・どっかで見てんのかあのババア」
思い返してみれば、自分の愛剣『無敵鋼鉄』も母親から贈られたものである。これがなければ、5年前の戦争でベイオーク・ザガンに殺されていただろう。
「持つべきものはクソババア・・・考えただけでも腹が立つな」
鬱憤を晴らすように、俺は手槍の先端を毒につけて帝国兵に向けて投擲する。放たれた槍は右往左往する兵士達に指示を出していた将兵の胸に突き刺さり、鎧を突き抜けて背中まで貫通する。
「おっと、毒を塗る必要はなかったな。ん、あれは・・・?」
帝国兵が頭上に大楯をかざして矢を防ぎながら、破城槌を城壁に向けて運んでいる。マクスウェル兵が狙って矢を撃つが、大楯に弾かれて止めることができない。破城槌はそのままの勢いで城壁へと叩きつけられた。
「若様! 破城槌が・・・」
「許す。アレを投げ落とせ」
「承知しました!」
俺の許可を得たマクスウェル兵が足元の木箱から陶器の壺を取り出した。火種のランプを使って壺の先端から飛び出ている紐へと着火する。
「くらえ!」
マクスウェル兵が火の点いた壺を城壁から投げ落とす。壺は破城槌を持った帝国兵の足元へと落ちて、地面に衝突した瞬間、黒煙を上げて爆発する。
ドオオオオオオオオン!
「うわあああああああああっ!?」
「か、火薬だっ!」
「目が、目があああああああ!」
帝国兵が破城槌を投げ出して、城壁に背を向けて逃げ出していく。その背中へと毒の矢が突き刺さる。
「うむ、やはり花火は良いな。見ていて童心に返る気がする!」
「若様! あれを!」
「ん?」
マクスウェル兵が指さす方向を見ると、四つの車輪がついた攻城櫓が数台、帝国の陣地から城壁に向かって進んでくる。
俺は牙をむいて笑い、右手を頭上へと掲げた。
「構わん! 吹き飛ばせ!」
『はっ!』
マクスウェル兵達は火薬の詰まった壺――焙烙玉に火を点けて、次々と攻城櫓に向けて投げつけた。
立て続けに戦場に破裂音が鳴り響き、黒煙が空へと昇った。
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