俺もクズだが悪いのはお前らだ!

レオナール D

文字の大きさ
上 下
40 / 317
第2章 帝国騒乱 編

24.勝利の条件

しおりを挟む

 帝国からの宣戦布告を受けて、俺はマクスウェル家の領軍を率いてブリテン要塞へと入った。
    5年ぶりに入城する要塞は、帝国のかつてなく大規模な侵攻に備えて物々しい雰囲気に包まれている。

 事前に開かれた軍議により、東方辺境貴族の連合軍七千のうち五千を俺が指揮することが決まっていた。残り二千は親父が指揮して、マクスウェル辺境伯領の領都アヴァロンに詰めている。

「実質的にはこの要塞での戦いが決戦。俺達が敗北した時点でランペルージ王国はお終いだな」

 いまだ混乱を脱していない王家に帝国と戦う力はない。他の辺境伯の救援も望めないだろう。これがランペルージ王国とバアル帝国の決戦といってもいい。

「もっとも、帝国もこれだけの戦力を動員して敗北したら、もう立て直すことは出来ないだろうな。王国が滅ぶか帝国が滅ぶか、二者択一の最終決戦だ」

「よっしゃああああああ! 燃えるぜ!」

「まさに歴史的大戦ですね。よもや我々が歴史の転換点に立っているとは・・・」

 俺の説明に雄々しく叫んだのは、昔なじみの友人であるラッド・イフリータ。もう一人の男はサーム・シルフィスである。
 二人とも5年前の帝国との戦いで俺と共に戦ってくれた戦友であり、同い年の悪友だった。

「この3人が揃うのも久しぶりだな。5年前の戦いを思い出す」

「おうよ! 5年前みたいに帝国をギタギタに叩きのめしてやろうぜ!」

 ラッドが拳を鳴らして雄々しく笑う。頼もしい友人の姿に、俺の表情も緩んでしまう。

「こちらは五千。敵はたしか五万と喧伝していましたね」

「ああ、だいぶ数を盛ってるみたいで、実際は三万弱ほどだな」

「なるほど。それでもこちらの5倍以上ですか。厳しい戦いになりそうですね。

 一方のサームはあくまでも冷静な態度を崩すことなく、自分が置かれている状況を冷静に分析している。

 帝国に潜入した『鋼牙』からの情報により、帝国軍は第1軍団が六千、第2軍団が一万、近衛騎士団が五千、義勇兵が六千ほどだと報告を受けている。国の四方を敵を囲まれた状態でよくもまあ掻き集めたものである。

「無策で勝てる状況ではないと思いますが・・・どうされるおつもりですか、若殿」

「もちろん、策は用意してるさ。これでもかってぐらい卑怯なやつをな」

 俺は唇を釣り上げて笑った。
 世の中には、正々堂々と戦わなければ勝っても意味がない――などと口にする者がいる。しかし、そういう奴らはきっと心から護りたい物がないのだろう。
 本当に護りたいものがあるのなら、どんな手を使ってでも勝つ。どれだけ汚名を着ても、悪に堕ちることになっても、譲れないものがあるのなら手段を選ばずに勝ちに行くべきなのだ。

「若様、お待たせしたのである」

「ああ」

 背後から声をかけられ、振り向くと見慣れた暗殺者の姿があった。サクヤの兄のオボロである。

「連れてきてくれたか。オボロ」

「うむ、我ら『鋼牙忍軍』の中から死番となるものを連れてきたのである」

 オボロの後ろには、オボロと同じ黒づくめに身を包んだ男が2人立っている。一人は60を過ぎているだろう髭面の男。もう一方は40歳ほどの痩せ身の男だ。

「二人とも悪いな。お前らにはこの戦争で死んでもらうことになる。恨むなとは言わないが、お前らの家族には出来る限りの恩賞を渡すと約束する」

「構わないとも。私は肝の病に侵されて長くはないからな。最後に死に花を咲かせるとしよう」

「自分は女房と子供に先立たれて、自害を考えていたところです。名誉ある死に場所を与えていただけて幸運です」

「そうか・・・ありがとう。お前達の死は無駄にはしない」

 俺は心からのお礼の言葉を言って、二人に頭を下げた。二人とも笑って頷いて、与えられた任務を果たすために姿を消した。

「ディンギル様! こちらの荷物も運び終わりました!」

『鋼牙』の密偵と入れ違いに、要塞の警備をしている若い兵士が報告を持ってきた。俺の待ち望んでいた報告だ。

「火薬の詰まった壺、それに水瓶、どちらも十分に用意しています!」

「結構、これであとは必要なものは・・・」

「これかい? 主殿」

 兵士の後ろからすたすたと軽い足取りで歩いてきたのは俺の愛人&用心棒のシャナ・サラザールだった。シャナは白い指先一通の手紙をはさんでおり、俺に手渡してくる。

「ルクセリア様からのラブレターだ。貴方のお望み通りに書いてもらった」

「結構、とても結構。これで必要なものは全てそろったな」

 俺は会心の笑みを浮かべた。

 歴戦の兵士5000と頼りになる戦友。死ぬ覚悟を決めた密偵。大量の火薬と水瓶。そして――勝利の女神のラブレター。
 これで帝国軍を打ち倒す準備が整った。

「さあ、勝たせてもらおう。徹底的に潰してやるぞ。帝国軍!」

 久しぶりの戦場。それも経験したことがない大戦。これで昂ぶらなければ男じゃない。
 俺は業火のように燃え上がる心を必死に押さえつけながら、帝国がある東の空を睨みつけた。
しおりを挟む
感想 1,043

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

高身長お姉さん達に囲まれてると思ったらここは貞操逆転世界でした。〜どうやら元の世界には帰れないので、今を謳歌しようと思います〜

水国 水
恋愛
ある日、阿宮 海(あみや かい)はバイト先から自転車で家へ帰っていた。 その時、快晴で雲一つ無い空が急変し、突如、周囲に濃い霧に包まれる。 危険を感じた阿宮は自転車を押して帰ることにした。そして徒歩で歩き、喉も乾いてきた時、運良く喫茶店の看板を発見する。 彼は霧が晴れるまでそこで休憩しようと思い、扉を開く。そこには女性の店員が一人居るだけだった。 初めは男装だと考えていた女性の店員、阿宮と会話していくうちに彼が男性だということに気がついた。そして同時に阿宮も世界の常識がおかしいことに気がつく。 そして話していくうちに貞操逆転世界へ転移してしまったことを知る。 警察へ連れて行かれ、戸籍がないことも発覚し、家もない状況。先が不安ではあるが、戻れないだろうと考え新たな世界で生きていくことを決意した。 これはひょんなことから貞操逆転世界に転移してしまった阿宮が高身長女子と関わり、関係を深めながら貞操逆転世界を謳歌する話。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

チートな嫁たちに囲まれて異世界で暮らしています

もぶぞう
ファンタジー
森でナギサを拾ってくれたのはダークエルフの女性だった。 使命が有る訳でも無い男が強い嫁を増やしながら異世界で暮らす話です(予定)。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

嵌められたオッサン冒険者、Sランクモンスター(幼体)に懐かれたので、その力で復讐しようと思います

ゆさま
ファンタジー
美少女パーティーにオヤジ狩りの標的にされ、生死の境をさまよっていたら、Sランクモンスターに懐かれてしまった、ベテランオッサン冒険者のお話。 懐いたモンスターが成長し、美女に擬態できるようになって迫ってきます。どうするオッサン!?

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。