36 / 317
第2章 帝国騒乱 編
20.下衆は知ってあえて踊る
しおりを挟む
本日、2話目の更新になります。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
side グリード・バアル
「よくも、まあ。私の前に顔を出せたものですね」
「・・・このたびは、グリード殿下にもご迷惑をおかけいたしました」
跪き、恐縮したように頭を下げる男のことを睨みつけた。
スノウ・ハルファスと名乗ったこの男は、兄であるラーズ・バアルの副官の騎士である。
当然ながら、ルクセリアをマクスウェルに送り込むことについても事前に知っていたはずだ。ひょっとしたら、この男が提案したことかもしれない。
私は目の前の男を斬り捨てたくなる衝動を必死になってこらえた。
「それで、何の用ですか?」
つまらない要件だったら、この世でもっとも無残な死を与えてやる。そんな意思を込めて尋ねると、ハルファスが神妙な面持ちで答える。
「グリード殿下。私は殿下の願いを叶えるために、この場に参りました」
「願い? ルクセリアのことを言っているのでしたら許しませんよ。貴方達が彼女を敵国に送りつけておいて、何をぬけぬけと・・・」
「いいえ、そちらではありません。貴方が皇帝になるための方法を進言に参りました」
ハルファスの言葉を聞いて、私は眉をひそめた。
「貴方ごときが私を皇帝にすると? 面白いですね。聞いてあげましょう」
「はっ、我々第1軍団は、近々、近衛騎士団と連携してマクスウェル辺境伯領に攻め込む予定です。そこにグリード殿下と第2軍団にもご助力いただきたい」
「ほう、兄を皇帝にする手伝いを知ろと? ふざけた提案ですね」
私が揶揄するように言うと、ハルファスが顔を伏せたまま首を横に振る。
「確かに、そのままランペルージ王国が滅んでしまえば、皇帝陛下の遺言を達成させたラーズ殿下が次期皇帝となってしまいます。しかし、それは王国が滅びるまでラーズ殿下が生きていればの話です」
「・・・・・・」
私は少し考えて、ハルファスの意図を察した。
「・・・つまり、帝国の連合部隊によってマクスウェルを滅ぼす。そして、その混乱に乗じて兄上を殺害する――という事ですか?」
「さすがはグリード殿下。話が速くて助かります」
「ふっ、お世辞はいりませんよ。私が兄上よりも優秀なのは自明のことですから」
しかし、と私は言葉をつなげる。目の前の男が言いたいことは理解できたが、どうしても納得がいかないことがある。
「スノウ・ハルファス、といいましたね? 貴方は兄の騎士だったはずです。その貴方が、どうして兄の命を奪ってまで私を皇帝にしようとするのですか?」
質問をすると、ハルファスが顔を歪ませる。怒り、嘆き、悔しさ、様々な感情が若い騎士の表情に浮かぶ。
「・・・ラーズ殿下は、5年前のマクスウェル家との戦いで、我が兄、アイス・ハルファスを見殺しにしました。ハルファス家は敗戦の責任をとらされ、「双翼」とまで呼ばれた兄の名誉も地に堕ちました」
「つまり、兄の敵討ちのためということですか?」
「・・・・・・」
ハルファスが無言で首肯する。
(なるほど、兄を見殺しにしたラーズ。兄を殺害したマクスウェル。両者を同時に始末できる一石二鳥の策略ですね。知将アイス・ハルファスの弟というのもメッキではないようですね)
私は唇を歪ませて、笑みの形を作る。
(ルクセリアを利用したことは許せませんが、この策には乗る価値がある。ラーズさえ消えてしまえば、そもそも王国などどうでもよいのです。ルクセリアを取り戻してそのまま妻に・・・万が一、拒まれたら)
戦争の混乱に乗じて、王宮の地下牢にでも監禁してやればいい。
美しいドレスで着飾ったルクセリアも愛らしいが、虜囚の服を着て泥にまみれている彼女の姿も見てみたい。
「いいでしょう。貴方の策に乗ってあげましょう。わかっているとは思いますが、裏切ったらどうなるか・・・」
「心得ております。我が生涯の忠誠をグリード殿下に・・・」
跪く騎士の瞳に浮かぶ憎悪の炎。
それを眺めながら、私はルクセリアを連れ帰った後の生活に思いを馳せた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
side グリード・バアル
「よくも、まあ。私の前に顔を出せたものですね」
「・・・このたびは、グリード殿下にもご迷惑をおかけいたしました」
跪き、恐縮したように頭を下げる男のことを睨みつけた。
スノウ・ハルファスと名乗ったこの男は、兄であるラーズ・バアルの副官の騎士である。
当然ながら、ルクセリアをマクスウェルに送り込むことについても事前に知っていたはずだ。ひょっとしたら、この男が提案したことかもしれない。
私は目の前の男を斬り捨てたくなる衝動を必死になってこらえた。
「それで、何の用ですか?」
つまらない要件だったら、この世でもっとも無残な死を与えてやる。そんな意思を込めて尋ねると、ハルファスが神妙な面持ちで答える。
「グリード殿下。私は殿下の願いを叶えるために、この場に参りました」
「願い? ルクセリアのことを言っているのでしたら許しませんよ。貴方達が彼女を敵国に送りつけておいて、何をぬけぬけと・・・」
「いいえ、そちらではありません。貴方が皇帝になるための方法を進言に参りました」
ハルファスの言葉を聞いて、私は眉をひそめた。
「貴方ごときが私を皇帝にすると? 面白いですね。聞いてあげましょう」
「はっ、我々第1軍団は、近々、近衛騎士団と連携してマクスウェル辺境伯領に攻め込む予定です。そこにグリード殿下と第2軍団にもご助力いただきたい」
「ほう、兄を皇帝にする手伝いを知ろと? ふざけた提案ですね」
私が揶揄するように言うと、ハルファスが顔を伏せたまま首を横に振る。
「確かに、そのままランペルージ王国が滅んでしまえば、皇帝陛下の遺言を達成させたラーズ殿下が次期皇帝となってしまいます。しかし、それは王国が滅びるまでラーズ殿下が生きていればの話です」
「・・・・・・」
私は少し考えて、ハルファスの意図を察した。
「・・・つまり、帝国の連合部隊によってマクスウェルを滅ぼす。そして、その混乱に乗じて兄上を殺害する――という事ですか?」
「さすがはグリード殿下。話が速くて助かります」
「ふっ、お世辞はいりませんよ。私が兄上よりも優秀なのは自明のことですから」
しかし、と私は言葉をつなげる。目の前の男が言いたいことは理解できたが、どうしても納得がいかないことがある。
「スノウ・ハルファス、といいましたね? 貴方は兄の騎士だったはずです。その貴方が、どうして兄の命を奪ってまで私を皇帝にしようとするのですか?」
質問をすると、ハルファスが顔を歪ませる。怒り、嘆き、悔しさ、様々な感情が若い騎士の表情に浮かぶ。
「・・・ラーズ殿下は、5年前のマクスウェル家との戦いで、我が兄、アイス・ハルファスを見殺しにしました。ハルファス家は敗戦の責任をとらされ、「双翼」とまで呼ばれた兄の名誉も地に堕ちました」
「つまり、兄の敵討ちのためということですか?」
「・・・・・・」
ハルファスが無言で首肯する。
(なるほど、兄を見殺しにしたラーズ。兄を殺害したマクスウェル。両者を同時に始末できる一石二鳥の策略ですね。知将アイス・ハルファスの弟というのもメッキではないようですね)
私は唇を歪ませて、笑みの形を作る。
(ルクセリアを利用したことは許せませんが、この策には乗る価値がある。ラーズさえ消えてしまえば、そもそも王国などどうでもよいのです。ルクセリアを取り戻してそのまま妻に・・・万が一、拒まれたら)
戦争の混乱に乗じて、王宮の地下牢にでも監禁してやればいい。
美しいドレスで着飾ったルクセリアも愛らしいが、虜囚の服を着て泥にまみれている彼女の姿も見てみたい。
「いいでしょう。貴方の策に乗ってあげましょう。わかっているとは思いますが、裏切ったらどうなるか・・・」
「心得ております。我が生涯の忠誠をグリード殿下に・・・」
跪く騎士の瞳に浮かぶ憎悪の炎。
それを眺めながら、私はルクセリアを連れ帰った後の生活に思いを馳せた。
10
お気に入りに追加
6,111
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

高身長お姉さん達に囲まれてると思ったらここは貞操逆転世界でした。〜どうやら元の世界には帰れないので、今を謳歌しようと思います〜
水国 水
恋愛
ある日、阿宮 海(あみや かい)はバイト先から自転車で家へ帰っていた。
その時、快晴で雲一つ無い空が急変し、突如、周囲に濃い霧に包まれる。
危険を感じた阿宮は自転車を押して帰ることにした。そして徒歩で歩き、喉も乾いてきた時、運良く喫茶店の看板を発見する。
彼は霧が晴れるまでそこで休憩しようと思い、扉を開く。そこには女性の店員が一人居るだけだった。
初めは男装だと考えていた女性の店員、阿宮と会話していくうちに彼が男性だということに気がついた。そして同時に阿宮も世界の常識がおかしいことに気がつく。
そして話していくうちに貞操逆転世界へ転移してしまったことを知る。
警察へ連れて行かれ、戸籍がないことも発覚し、家もない状況。先が不安ではあるが、戻れないだろうと考え新たな世界で生きていくことを決意した。
これはひょんなことから貞操逆転世界に転移してしまった阿宮が高身長女子と関わり、関係を深めながら貞操逆転世界を謳歌する話。
間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ
ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。
間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。
多分不具合だとおもう。
召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。
そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます
◇
四巻が販売されました!
今日から四巻の範囲がレンタルとなります
書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
コミカライズもスタートしています
毎月最初の金曜日に更新です
お楽しみください!
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

チートな嫁たちに囲まれて異世界で暮らしています
もぶぞう
ファンタジー
森でナギサを拾ってくれたのはダークエルフの女性だった。
使命が有る訳でも無い男が強い嫁を増やしながら異世界で暮らす話です(予定)。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。