俺もクズだが悪いのはお前らだ!

レオナール D

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第2章 帝国騒乱 編

19.その頃の下衆

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side グリード・バアル

「かっ・・・はっ・・・たすけ・・・」

 少女が助けを求めて、手を伸ばす。
 私は力なく伸ばされた手を無視して、目の前の少女の細い首を絞め続ける。

「クソっ! どいつも、こいつも! 馬鹿のくせに私の邪魔ばかりして!」

「・・・か、は・・・」

「私の言うとおりにしていれば、帝国も世界も全て正しい方向に行くというのに! どうしてそんな簡単なことがわからないのですか!」

 やがて、少女の手から力が抜けていく。

「っ・・・・・・・・・」

 がくり、と少女の手が力を失くして落ちる。それを見て、はっ、と私は正気に戻った。

「あ、しまった! また壊してしまいましたか」

 私はベッドから身体を起こした。
 私の身体の下には、金髪の少女の亡骸があった。下着すらも身につけていない少女の首には、私が付けた手と指のあとがくっきりと残っている。
 窒息して物言わぬ骸となった少女は、手足をベッドの上に投げ出して横たわり、二度と目を覚ますことはないだろう。

「これで今月は3体目ですか。これでは、いくら人形を買っても足りませんね」

 嫌なことがあると、ついつい玩具や人形にあたってしまう。
 幼い頃からの、私の悪い癖だった。

 私はバスローブを羽織ってベッドの端に座り、ワインをグラスに注いで喉に流し込む。適度に冷やした酒が身体の芯を流れていき、火照った身体を冷ましてくれる。
 冷たい刺激に、少しずつ私の心は冷静さを取り戻していく。

「やれやれ。うまくいきませんね。どうして、みんな好き勝手に動くのでしょうか?」

 ここ最近、私の心は荒れるばかりだった。
 それというのも、この世界に存在するあらゆる馬鹿の筆頭であるラーズ・バアルが、愛する妹・ルクセリアを私に無断で他国に送り込んだからだ。

 それ以来、私の心は荒れるばかりである。ついつい人形を手荒に扱ってしまい、何体も壊してしまっていた。

「政略結婚? 何十年もさんざん攻め込まれてきたマクスウェル家が、いまさらそんなものを受け入れるはずないじゃないですか! どこまで馬鹿なんですか、あの兄は!」

 政略結婚に失敗したあげくに、送り込んだ妹を人質にとられる。こんな馬鹿な話があるわけがない。
 馬鹿だ、馬鹿だと思っていたが、ここまで兄が愚劣だとは思わなかった!

「なんとか、ルクセリアを取り戻さないといけませんね・・・。
 ああ、可哀そうな我が妹。愛しい天使よ! きっと今頃、怖がって震えているに違いない! すぐに助けに行って僕が温めてあげるよ!」

 そうは言ったものの。ルクセリアが囚われてから2週間。彼女を救い出す方法はまだ思いつかなかった。
 もっとも有効と思える手段は、マクスウェル辺境伯領に攻め込み力づくで奪い返すことである。無理にマクスウェル家を滅ぼさずとも、国境にある要塞を落としてしまえば、交渉でルクセリアの身柄を取り返すことはできるだろう。

(しかし・・・そうなると、ラーズに背中を向けることになってしまう)

 兵力で言うならば、帝国第2軍団に余力がないわけではない。私の才覚があれば、マクスウェルごとき田舎貴族を降すことなど簡単だろう。
 しかし、マクスウェルに攻め込んだところをラーズに背後を突かれてしまえば、さすがの私も無事では済まないだろう。

(先に第1軍団を潰してからマクスウェルに・・・ダメですね。現実的ではありません。いっそのこと、ラーズを暗殺してしまえば・・・)

 そんなことを考えていると、部屋の扉がノックされた。

「入っていいですよ」

「失礼します。グリード殿、か・・・!」

 入室してきた執事は、ベッドの上に横たわっている人形の残骸を見て、息を呑んだ。

「ああ、人形が壊れてしまったので、片づけておいてください。身体は好きに処分して構いませんけど、金色の髪の毛だけは丁寧に抜いてまとめておいてください」

「か、かしこまりました・・・」

 執事が震える声で了解する。私は唇を歪めて笑い、震える男に要件を訊ねる。

「それで? 何の用事ですか?」

「あ、はい・・・グリード殿下にお客様がお見えです」

「誰ですか。面会の予定はなかったはずですが」

 私が訊ねると、執事は言いづらそうに言葉を濁しながら質問に答える。

「それが・・・ラーズ殿下の騎士である、スノウ・ハルファス様です」

「はあ?」

 それは決して顔を見たくない相手であり、同時に会って首を切り落としたくなる相手の名前であった。



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本日、18時もう一話更新します。
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