28 / 317
第2章 帝国騒乱 編
12.明かされた素顔
しおりを挟む
「本日はお招きいただき、ありがとうございます。マクスウェル辺境伯様」
ヴェールを顔にかけたまま、ルクセリアが丁寧に頭を下げた。顔を見ることはできないが、俺と同い年の皇女が緊張している雰囲気が伝わってくる。
(ルクセリア・バアル・・・だよな。何というか、これは色々と興ざめだな)
楽しみにしていた絶世の美女が顔を隠している。その姿に、俺はげんなりと肩を落とした。
「ああ、こちらこそ遠い所からお越しいただいて光栄だよ。息子が長らく留守にしていて、申し訳ないね」
親父が気さくな様子で答える。緊張しているルクセリアを気遣っているのだろう。
「ご子息様も、初めまして」
「こちらこそ、初めまして。ご尊顔を拝謁・・・は出来てはいないけど、会えて嬉しいよ」
「ああ・・・申し訳ありません。外出するときはいつもヴェールを付けているのですよ。ご不快に思われるようでしたら取らせていただきますけど・・・」
「そうだな、ぜひ・・・」
「いや、結構! そのまま話を進めていただきたい!」
ヴェールを取ってもらおうとする俺であったが、親父が俺とルクセリアとの間に割って入ってきた。
「あ、親父てめえ・・・!」
「そのままで結構! ディンもそれでいいな!」
「ちっ・・・」
俺は顔をしかめつつ、親父の言葉に従った。
ルクセリアは俺と親父の顔を交互に見つつ、「それではこのままで」と話を先に進める。
「それでは・・・単刀直入にお話に入らせていただきたのですが、本日、私が辺境伯様にお願いに参りましたのは、近々、行われるであろう帝国と王国との戦いで、ぜひともマクスウェル家には帝国にお味方していただきたく、お願いに参りました」
「へえ、つまりマクスウェル家に王国を裏切れと、そう頼みに来たわけか」
俺が確認すると、ルクセリアは緊張した様子で頷いた。
「失礼ながら、ディンギル様は先日、王太子であったサリヴァン・ランペルージ様に婚約者を奪われたと聞いています。噂では、その後に暗殺をされかけたとも・・・」
「なかなか耳がいいじゃないか。でも、しょせんは噂だぜ?」
俺がやんわりと否定すると、ルクセリアも「そうですね」と同意する。
「もちろん、全てが真実とは思っていません。しかし、マクスウェル家がランペルージ王家と不仲にあることは間違いないと思っております
もしも帝国にお味方いただけるのであれば、マクスウェル家の領地の加増、20年間の帝国への税の免除、公爵の地位をお約束いたします」
「なるほど、悪くない条件だな」
俺は素直に認めて、頷いた。はっきり言って、このままランペルージ王家の下に付いているよりもよっぽど好条件だ。
領地の加増に関しては自分で奪ってやれば済むことだが、税の免除はありがたい。今だって、別に何をしてくれるわけでもないランペルージ王家に税を納めなければいけないことに、納得していないのだ。
俺はちらりと横目で親父の顔を見る。
「・・・・・・」
親父はそっと目を閉じて、俺から視線をそらした。どうやら、俺に決めろと言っているらしい。
(マクスウェル家の命運を握る決断を俺に任せてくれるわけか。責任重大だな)
俺はしばしの間、口を閉じて思案した。
義理を取ってランペルージ王国につくか、利益を取ってバアル帝国につくか。
(このままランペルージ王家の下にいるよりも、帝国についたほうがはるかに得だ。そのときはマクスウェル家の独立を諦めることになるかもしれないが・・・)
それでも、どっちにしろ帝国が健在のうちは王国と事を構えることはできない。それを考えると・・・
「やはり悪くはない条件だ。しかし・・・正直言って、信用できないな」
俺は隠すことなく、率直な感想を言った。ランペルージ王家は信用できないが、それと同じくらい、長年の宿敵であるバアル帝国だって信用は出来ない。
王国を滅ぼした途端に裏切って背中を刺してくる可能性だって、ありえなくはない。
「皇女様はご存じないかもしれないが、俺はさんざん、バアル帝国から暗殺者を送り込まれてるんだよな。いまさら、手を取り合って戦おうなんて虫が良くないか?」
「・・・申し訳ありません。暗殺については、初耳でした」
ルクセリアが頭を下げて謝罪する。白いヴェールが彼女の動きに合わせて揺れた。
「・・・そうですね。お疑いはごもっともだと思います。これで信用していただけるかどうかはわかりませんが、一つ、私のほうから誓いを立てさせていただきます」
「誓い?」
俺が聞き返すと、ルクセリアが自分の顔を覆うヴェールへと手をかけた。
「私、ルクセリア・バアルは、今よりディンギル・マクスウェル様にこの身を捧げさせていただきます。妻とするなり、人質とするなり、ご自由に扱いくださいませ」
そう言って、ルクセリアは頭につけたヴェールをとった。白いヴェールの下から、隠された素顔が露わになる。
「・・・・・・っ!?」
その顔を見て、俺は驚愕のあまり凍りついた。
「どうか、私を受け入れていただきたく思います。旦那様」
そこにいたのは、金色の髪を持った女神のごとき美女であった。
ヴェールを顔にかけたまま、ルクセリアが丁寧に頭を下げた。顔を見ることはできないが、俺と同い年の皇女が緊張している雰囲気が伝わってくる。
(ルクセリア・バアル・・・だよな。何というか、これは色々と興ざめだな)
楽しみにしていた絶世の美女が顔を隠している。その姿に、俺はげんなりと肩を落とした。
「ああ、こちらこそ遠い所からお越しいただいて光栄だよ。息子が長らく留守にしていて、申し訳ないね」
親父が気さくな様子で答える。緊張しているルクセリアを気遣っているのだろう。
「ご子息様も、初めまして」
「こちらこそ、初めまして。ご尊顔を拝謁・・・は出来てはいないけど、会えて嬉しいよ」
「ああ・・・申し訳ありません。外出するときはいつもヴェールを付けているのですよ。ご不快に思われるようでしたら取らせていただきますけど・・・」
「そうだな、ぜひ・・・」
「いや、結構! そのまま話を進めていただきたい!」
ヴェールを取ってもらおうとする俺であったが、親父が俺とルクセリアとの間に割って入ってきた。
「あ、親父てめえ・・・!」
「そのままで結構! ディンもそれでいいな!」
「ちっ・・・」
俺は顔をしかめつつ、親父の言葉に従った。
ルクセリアは俺と親父の顔を交互に見つつ、「それではこのままで」と話を先に進める。
「それでは・・・単刀直入にお話に入らせていただきたのですが、本日、私が辺境伯様にお願いに参りましたのは、近々、行われるであろう帝国と王国との戦いで、ぜひともマクスウェル家には帝国にお味方していただきたく、お願いに参りました」
「へえ、つまりマクスウェル家に王国を裏切れと、そう頼みに来たわけか」
俺が確認すると、ルクセリアは緊張した様子で頷いた。
「失礼ながら、ディンギル様は先日、王太子であったサリヴァン・ランペルージ様に婚約者を奪われたと聞いています。噂では、その後に暗殺をされかけたとも・・・」
「なかなか耳がいいじゃないか。でも、しょせんは噂だぜ?」
俺がやんわりと否定すると、ルクセリアも「そうですね」と同意する。
「もちろん、全てが真実とは思っていません。しかし、マクスウェル家がランペルージ王家と不仲にあることは間違いないと思っております
もしも帝国にお味方いただけるのであれば、マクスウェル家の領地の加増、20年間の帝国への税の免除、公爵の地位をお約束いたします」
「なるほど、悪くない条件だな」
俺は素直に認めて、頷いた。はっきり言って、このままランペルージ王家の下に付いているよりもよっぽど好条件だ。
領地の加増に関しては自分で奪ってやれば済むことだが、税の免除はありがたい。今だって、別に何をしてくれるわけでもないランペルージ王家に税を納めなければいけないことに、納得していないのだ。
俺はちらりと横目で親父の顔を見る。
「・・・・・・」
親父はそっと目を閉じて、俺から視線をそらした。どうやら、俺に決めろと言っているらしい。
(マクスウェル家の命運を握る決断を俺に任せてくれるわけか。責任重大だな)
俺はしばしの間、口を閉じて思案した。
義理を取ってランペルージ王国につくか、利益を取ってバアル帝国につくか。
(このままランペルージ王家の下にいるよりも、帝国についたほうがはるかに得だ。そのときはマクスウェル家の独立を諦めることになるかもしれないが・・・)
それでも、どっちにしろ帝国が健在のうちは王国と事を構えることはできない。それを考えると・・・
「やはり悪くはない条件だ。しかし・・・正直言って、信用できないな」
俺は隠すことなく、率直な感想を言った。ランペルージ王家は信用できないが、それと同じくらい、長年の宿敵であるバアル帝国だって信用は出来ない。
王国を滅ぼした途端に裏切って背中を刺してくる可能性だって、ありえなくはない。
「皇女様はご存じないかもしれないが、俺はさんざん、バアル帝国から暗殺者を送り込まれてるんだよな。いまさら、手を取り合って戦おうなんて虫が良くないか?」
「・・・申し訳ありません。暗殺については、初耳でした」
ルクセリアが頭を下げて謝罪する。白いヴェールが彼女の動きに合わせて揺れた。
「・・・そうですね。お疑いはごもっともだと思います。これで信用していただけるかどうかはわかりませんが、一つ、私のほうから誓いを立てさせていただきます」
「誓い?」
俺が聞き返すと、ルクセリアが自分の顔を覆うヴェールへと手をかけた。
「私、ルクセリア・バアルは、今よりディンギル・マクスウェル様にこの身を捧げさせていただきます。妻とするなり、人質とするなり、ご自由に扱いくださいませ」
そう言って、ルクセリアは頭につけたヴェールをとった。白いヴェールの下から、隠された素顔が露わになる。
「・・・・・・っ!?」
その顔を見て、俺は驚愕のあまり凍りついた。
「どうか、私を受け入れていただきたく思います。旦那様」
そこにいたのは、金色の髪を持った女神のごとき美女であった。
14
お気に入りに追加
6,111
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

高身長お姉さん達に囲まれてると思ったらここは貞操逆転世界でした。〜どうやら元の世界には帰れないので、今を謳歌しようと思います〜
水国 水
恋愛
ある日、阿宮 海(あみや かい)はバイト先から自転車で家へ帰っていた。
その時、快晴で雲一つ無い空が急変し、突如、周囲に濃い霧に包まれる。
危険を感じた阿宮は自転車を押して帰ることにした。そして徒歩で歩き、喉も乾いてきた時、運良く喫茶店の看板を発見する。
彼は霧が晴れるまでそこで休憩しようと思い、扉を開く。そこには女性の店員が一人居るだけだった。
初めは男装だと考えていた女性の店員、阿宮と会話していくうちに彼が男性だということに気がついた。そして同時に阿宮も世界の常識がおかしいことに気がつく。
そして話していくうちに貞操逆転世界へ転移してしまったことを知る。
警察へ連れて行かれ、戸籍がないことも発覚し、家もない状況。先が不安ではあるが、戻れないだろうと考え新たな世界で生きていくことを決意した。
これはひょんなことから貞操逆転世界に転移してしまった阿宮が高身長女子と関わり、関係を深めながら貞操逆転世界を謳歌する話。
間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ
ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。
間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。
多分不具合だとおもう。
召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。
そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます
◇
四巻が販売されました!
今日から四巻の範囲がレンタルとなります
書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
コミカライズもスタートしています
毎月最初の金曜日に更新です
お楽しみください!
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

チートな嫁たちに囲まれて異世界で暮らしています
もぶぞう
ファンタジー
森でナギサを拾ってくれたのはダークエルフの女性だった。
使命が有る訳でも無い男が強い嫁を増やしながら異世界で暮らす話です(予定)。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。