俺もクズだが悪いのはお前らだ!

レオナール D

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第2章 帝国騒乱 編

10.金色の皇女は決断する

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 本日、2話目の投稿になります。
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 横から口を出したのは、立会人となってくれた帝国近衛騎士団長ラジャン・サラザールでした。

 ラジャンは父にとって同い年の友人であり、もっとも信頼する騎士でもあります。
 近衛騎士団という皇帝直属の軍団を率いており、父が亡くなって指揮権が宙に浮いた状態となってからは、私を守るようにという父の遺言に従って護衛のような役割を務めてくれています。

「サラザール! 私はルクセリアと話をしているのだ! 騎士ごときが皇族の会話に口を挟むな!」

「お言葉ですが、私は亡き皇帝陛下よりルクセリア皇女殿下の身辺警護を任されております。道理の通らぬ要求をルクセリア様に押し付けるのはやめていただきたい」

「道理が通らぬだと!? 貴様、私がどんな思いで・・・!」

「まあまあ、落ち着いてください。ラーズ殿下」

 激昂するラーズ兄様をなだめに入ったのは、兄の副官をしているスノウ・ハルファスという若い騎士です。

「サラザール騎士団長、我々はたんにルクセリア皇女殿下に縁談を薦めに来ただけですよ。無理強いをするつもりはありません」

「しかし・・・」

「亡き皇帝陛下は皇女殿下の幸福を最後まで祈っていたと聞いています。非公式ですが、皇女殿下はご自身の望む相手と婚姻させることを許す、そのようなお言葉も残していますね?」

「・・・はい、父はたしかにそのように言っていました」

 それは事実です。私を溺愛していた父は、私に好きな相手と結婚しても良いと言ってくれました。皇女として皇族以外の男性から切り離されていた私には、もちろん、望む相手などいなかったのですが・・・。

「そのお相手として、ディンギル・マクスウェルという人物を薦めているのですよ」

 ハルファスは我が意を得たとばかりに、にやりと笑う。

「マクスウェル家は間違いなく、ランペルージ王国で屈指の力を持つ貴族です。軍事力に至っては王家を上回るとも言われています。ラーズ殿下が勝利して王国が帝国に併合されてからも、おそらく随一の武闘派貴族として帝国でも高い地位を得るでしょう。ルクセリア皇女殿下のお相手として、相応しい御仁だと思いますよ」

「しかし、ディンギル・マクスウェルは名の知れた女誑おんなたらしと聞いている。そんな男がルクセリア様にふさわしいものか!」

「英雄、色を好むというではありませんか。皇帝陛下とて、多くの女性を後宮に侍らせていたでしょう? 4人の御子も、全員母親が違うではありませんか。武勇を誇る貴族として頼もしいとは思いませんか?」

「・・・・・・」

 私はハルファスの言葉を反芻はんすうして考えます。

 私がマクスウェル家に嫁げば、ランペルージ王国を滅ぼしてラーズ兄上が皇帝となることができます。
 そうすれば、現在、帝国に広がっている混乱も収まり、これ以上の混乱が広がることは防げるかもしれません。

 それに――

「それに・・・このままではグリード殿下が皇帝となってしまいますよ?」

「――っ!」

 私の心を読んだかのように、ハルファスが言いました。

「大変、遺憾なことながら、現状でもっとも次期皇帝の椅子に近いのはグリード殿下です。あのお方が皇帝となったら、はたしてどうなるでしょうね?」

 グリード兄様は頭が良くて有能な人物ですが、人間として大切な部分が欠けているところがあります。人を人とも思わず、平然と下の人間を自分のために犠牲にしてしまいます。
 先日も領地で農民の反乱がおこり、それに参加した人々を残虐な方法で処刑したそうです。

 そんなグリード兄様が皇帝になったら・・・

(グリード兄様だけは皇帝にするわけにはいかない! きっとみんなが不幸になってしまう! 帝国の臣下も、暮らしている人々も、私だって・・・)

 グリード兄様が自分を見つめるときの眼差しを思い出して、私はブルリと背中を震わせました。
 私の身体を舐めまわすような視線。私の尊厳を踏みにじり、欲望のままに喰い物にすることしか考えていない瞳。

(グリード兄様に比べれば・・・どんな男でもマシですっ・・・!)

 たとえどんな女誑しが相手であっても、グリード兄様と婚姻することに比べれば遥かに良い。
 あの男は、私が半分血の繋がった妹であることも、父である皇帝が私を好きな相手と結婚させるように言っていたことも、気にはしないだろう。

「おっしゃることはわかりました・・・少しだけ、考えさせてください」

「ルクセリア様・・・」

「おお、考えてくれるか! よろしく頼む!」

 サラザールが気遣わしげに声をかけてくれる。反対に、ラーズ兄様が喝采の声を上げる。

「ええ、是非とも前向きにご検討ください。賢明なご判断をお祈りしています」

 ハルファスが慇懃無礼を絵に描いたようにお辞儀をして、私に背中を向ける。去り際に、こちらに聞こえるかどうかという声量でつぶやいた。

「・・・ずっと宮廷という鳥かごの中で幸せに暮らしてきたのです。最後に一つくらいは、帝国の役に立つことをしてくださいね」

「っ・・・」

 心臓を突き刺すような言葉に、私は両手で胸元を抑えた。

『ルクセリア。お前だけは幸せになってくれ』

 父の遺した言葉が頭をよぎる。ドレスに皺がつくほど、胸元を握りしめる。

(お父様、ごめんなさい。私も皇帝の娘です。どうか私が帝国のために生きることをお許しください・・・)

 それから丸一日かけて考え、私は決断を下した。
 敵国であるランペルージ王国に向かうという決断を。

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