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第2章 帝国騒乱 編
3.どこの国にも阿呆はいる
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side 帝国第三皇子 スロウス・バアル
「あーあ、本当に嫌になるぜ・・・」
宮廷の端にある自室へと戻ってきて、俺様ちゃん、もとい俺はベッドへと横になった。
「あのクソ兄貴共も、その側近共も、どいつもこいつもマジで鬱陶しい」
俺に言わせるのであれば、当然のように自分が皇帝になると疑ってもいない愚かな兄二人が、君主として相応しいとはとても思えなかった。
第一皇子であるラーズ・バアル。
もともとは情に厚く、武人肌な人物であるが、3度の遠征失敗と腹心の部下を失ったことで自暴自棄になっている。焦っては失点を繰り返しており、支持している貴族も徐々に減ってきて宮廷で孤立している。
第二皇子で正室の子供であるグリード・バアル。
政略にこそ優れているが、人を人とも思わない冷酷な人物で、おまけに実の妹を本気で愛している変態である。確かに皇族には血を濃く保つために近親相姦が許される場合はあるが、そんなものは極々まれなケースだ。幼児愛好の趣味もあり、とてもではないが忠誠を尽くす価値のある男ではない。
だったら第三皇子の自分はどうかと聞かれると、自分が一番、帝位からほど遠いポジションにある。
ラーズは長子であること、グリードは正室の子であることから帝位につく正統性を持っている。しかし、自分は第3子であり、たまたま皇帝のお手付きになったメイドが生んだ子供である。
この継承戦において、自分だけが帝位につく正統性を有していなかった。
仮に、自分が敵国として指定された東の煌王朝を滅ぼすことができたとしても、二人の兄達も、宮廷の貴族や官僚達も、決して自分が帝位につくことを認めはしない。国を割る内乱が起こるのは目に見えていた。
(俺が皇帝になるためには、兄貴二人がまとめて死ぬか、逆らう家臣を圧倒的な力で皆殺しにでもするしかない・・・そりゃ、やる気をなくして阿呆にもなるさ)
こんな自分がどうして皇位継承者の一人として継承戦に参加しているのかというと、たんなる数合わせだろう。
もしも候補者がラーズとグリードの二人だけだったのであれば、二人はそのまま軍をぶつけ合って内乱に発展してしまったかもしれない。それを防ぐための第三勢力としておまけの自分が擁立されたのだ。
三つ巴の状態が作られたことで表面的には衝突は回避され、水面下で殺意をぶつけ合う状態が10年続くことになった。
(この国は本当に終わってるな。3人の皇子の誰が皇帝になっても先は真っ暗。せめて兄二人が継承戦の必勝法に気がつけば、結果は変わっていたかもしれないけどな)
次期皇帝の椅子をかけた継承戦には、皇帝である父親が設定した必勝法があった。その必勝法を見つけることが皇帝となる本当の条件なのだが、二人の兄はそれに気がついていなかった。
(まさか二人が10年も必勝法に気がつかず、自分が先に死ぬことになるなんて父も思ってはいなかっただろうよ。はっ、自分の子供を過大評価しすぎたみたいだな。ざまあ、ざまあ)
兄弟でいがみ合う針のむしろのような環境で生きてきたせいで、俺の性格もすっかりやさぐれてしまった。いつから道化を演じるようになったのか、もはや自分でも思い出すことができない。
「は、はははははっ。どいつもこいつも、見当違いな所で騒いじゃって。本当に馬鹿ばっかりだな。俺様ちゃん、呆れて笑いすぎて涙が出てきちゃうぜ」
「呆レル、こっちヨ。ナニか、その頭悪い喋りカタは」
ベッドに転がって愚痴を言っていると、机に向かって書類仕事をしていた少女が呆れたように言ってくる。
彼女の名前はシャオマオ。俺の側近をしている少女で、18歳の若さでありながら政治や軍事に通じた才女である。
黒髪の少女の瞳には主人に向けてはならない侮蔑の色が浮かんでおり、あからさまにこちらを馬鹿にしている。
「急にワラったりして、馬鹿になった、思うヨ。いよいよ、頭、キノコ生えたか?」
カタコトの言葉遣いで話す少女は、もともと敵国の煌王朝の出身である。5年前に帝国東部で奴隷として売りに出されていた彼女を購入して侍従にしたのだが、まるで主人への敬意がないのが困りようだ。
「いやー、頭にキノコは生えないんじゃないかなー? どんな病気だよ、それ」
「知らないカ? 人間、長く使ってないとこ、キノコ、生えるヨ。私の父さんも、股の間、キノコ生えてたから、間違いないネ」
「・・・そのキノコは、男ならみんな生えてるんじゃないかな―」
この少女は博学なわりに世間知らずな所があり、たまにとんちんかんなことを言い出すときがある。俺が呆れたようにツッコミをいれると、シャオマオが怒ったように反論してくる。
「馬鹿を言うナ。父さん以外の股に、キノコあるの、見たことないヨ。スロウスの股、キノコ生えてるか? 引っこ抜くカ?」
「勘弁してください。ごめんなさい」
俺はシャオマオに拝むように謝り、再びベッドに横になった。
「あーあ、いつまでこんな生活が続くのかねー。いい加減、うんざりするぜ。どっちでもいいから、早く皇帝になってくれないものかね。そんでもって潰れてしまえ帝国」
「・・・自分のクニに、とんでもないこと、言うネ」
「いいんだよ。俺様ちゃんは最初からこんな国に愛着なんてないんだ。好きで皇子になったわけでもないのに、兄弟で殺し合い寸前の生活だぜ? やってらんねえっての」
自分はただ、酒を飲んで美味い物を食べて、あとは自分の気に入った仲間達と・・・例えばシャオマオと一緒に遊んで暮らせればそれでいいのに。
多くを望んではいないはずなのに、どうしてその幸せがこんなに遠くにあるのだろう?
「はあっ・・・憂鬱だぜ」
「どうしたカ? 股からキノコ、生えたのカ?」
「・・・いい加減、その下ネタやめてくれない? 俺様ちゃん、結構センチメンタルになってんだけど・・・ふうっ」
「本当、だいじょぶカ?」
シャオマオが俺の顔を覗き込んでくる。
こちらを馬鹿にしながらも、どこか心配そうな表情をした異国の少女。決して美麗とは言えないが、近くで見るとそれなりに可愛らしい顔をしている。
その顔へと手を伸ばして触れようとする・・・その直前に、慌てて手を引っ込めた。
「いかん、いかん」
「ン?」
寝返りをうって、少女に背中を向けた。あのままシャオマオに触れていたら、恋に落ちてしまったかもしれない。
(弱ってるときに女に触れるもんじゃないな。俺と好き合ったって不幸にするだけだし。女は遊びで抱くだけでいいや)
「明日になったら市場に行こうぜ。またうさん臭い店で、うさん臭い魔具モドキを買い漁ってさあ、それを土産に東に帰ろうか」
「いいゾ。ご飯代、ぜんぶスロウスもちだナ」
「一応、皇子様ですから。それくらい払いますとも」
「人の金で、食うメシは、うまいから好きヨ! 三倍は、うまい!」
「あはははは」
背中を向けたままシャオマオと笑い合って、そのまま眠りについた。
翌朝、いつの間にかベッドに潜り込んでいたシャオマオにドギマギとさせられることになるのだが、このときの俺はまだ気がついていなかった。
「あーあ、本当に嫌になるぜ・・・」
宮廷の端にある自室へと戻ってきて、俺様ちゃん、もとい俺はベッドへと横になった。
「あのクソ兄貴共も、その側近共も、どいつもこいつもマジで鬱陶しい」
俺に言わせるのであれば、当然のように自分が皇帝になると疑ってもいない愚かな兄二人が、君主として相応しいとはとても思えなかった。
第一皇子であるラーズ・バアル。
もともとは情に厚く、武人肌な人物であるが、3度の遠征失敗と腹心の部下を失ったことで自暴自棄になっている。焦っては失点を繰り返しており、支持している貴族も徐々に減ってきて宮廷で孤立している。
第二皇子で正室の子供であるグリード・バアル。
政略にこそ優れているが、人を人とも思わない冷酷な人物で、おまけに実の妹を本気で愛している変態である。確かに皇族には血を濃く保つために近親相姦が許される場合はあるが、そんなものは極々まれなケースだ。幼児愛好の趣味もあり、とてもではないが忠誠を尽くす価値のある男ではない。
だったら第三皇子の自分はどうかと聞かれると、自分が一番、帝位からほど遠いポジションにある。
ラーズは長子であること、グリードは正室の子であることから帝位につく正統性を持っている。しかし、自分は第3子であり、たまたま皇帝のお手付きになったメイドが生んだ子供である。
この継承戦において、自分だけが帝位につく正統性を有していなかった。
仮に、自分が敵国として指定された東の煌王朝を滅ぼすことができたとしても、二人の兄達も、宮廷の貴族や官僚達も、決して自分が帝位につくことを認めはしない。国を割る内乱が起こるのは目に見えていた。
(俺が皇帝になるためには、兄貴二人がまとめて死ぬか、逆らう家臣を圧倒的な力で皆殺しにでもするしかない・・・そりゃ、やる気をなくして阿呆にもなるさ)
こんな自分がどうして皇位継承者の一人として継承戦に参加しているのかというと、たんなる数合わせだろう。
もしも候補者がラーズとグリードの二人だけだったのであれば、二人はそのまま軍をぶつけ合って内乱に発展してしまったかもしれない。それを防ぐための第三勢力としておまけの自分が擁立されたのだ。
三つ巴の状態が作られたことで表面的には衝突は回避され、水面下で殺意をぶつけ合う状態が10年続くことになった。
(この国は本当に終わってるな。3人の皇子の誰が皇帝になっても先は真っ暗。せめて兄二人が継承戦の必勝法に気がつけば、結果は変わっていたかもしれないけどな)
次期皇帝の椅子をかけた継承戦には、皇帝である父親が設定した必勝法があった。その必勝法を見つけることが皇帝となる本当の条件なのだが、二人の兄はそれに気がついていなかった。
(まさか二人が10年も必勝法に気がつかず、自分が先に死ぬことになるなんて父も思ってはいなかっただろうよ。はっ、自分の子供を過大評価しすぎたみたいだな。ざまあ、ざまあ)
兄弟でいがみ合う針のむしろのような環境で生きてきたせいで、俺の性格もすっかりやさぐれてしまった。いつから道化を演じるようになったのか、もはや自分でも思い出すことができない。
「は、はははははっ。どいつもこいつも、見当違いな所で騒いじゃって。本当に馬鹿ばっかりだな。俺様ちゃん、呆れて笑いすぎて涙が出てきちゃうぜ」
「呆レル、こっちヨ。ナニか、その頭悪い喋りカタは」
ベッドに転がって愚痴を言っていると、机に向かって書類仕事をしていた少女が呆れたように言ってくる。
彼女の名前はシャオマオ。俺の側近をしている少女で、18歳の若さでありながら政治や軍事に通じた才女である。
黒髪の少女の瞳には主人に向けてはならない侮蔑の色が浮かんでおり、あからさまにこちらを馬鹿にしている。
「急にワラったりして、馬鹿になった、思うヨ。いよいよ、頭、キノコ生えたか?」
カタコトの言葉遣いで話す少女は、もともと敵国の煌王朝の出身である。5年前に帝国東部で奴隷として売りに出されていた彼女を購入して侍従にしたのだが、まるで主人への敬意がないのが困りようだ。
「いやー、頭にキノコは生えないんじゃないかなー? どんな病気だよ、それ」
「知らないカ? 人間、長く使ってないとこ、キノコ、生えるヨ。私の父さんも、股の間、キノコ生えてたから、間違いないネ」
「・・・そのキノコは、男ならみんな生えてるんじゃないかな―」
この少女は博学なわりに世間知らずな所があり、たまにとんちんかんなことを言い出すときがある。俺が呆れたようにツッコミをいれると、シャオマオが怒ったように反論してくる。
「馬鹿を言うナ。父さん以外の股に、キノコあるの、見たことないヨ。スロウスの股、キノコ生えてるか? 引っこ抜くカ?」
「勘弁してください。ごめんなさい」
俺はシャオマオに拝むように謝り、再びベッドに横になった。
「あーあ、いつまでこんな生活が続くのかねー。いい加減、うんざりするぜ。どっちでもいいから、早く皇帝になってくれないものかね。そんでもって潰れてしまえ帝国」
「・・・自分のクニに、とんでもないこと、言うネ」
「いいんだよ。俺様ちゃんは最初からこんな国に愛着なんてないんだ。好きで皇子になったわけでもないのに、兄弟で殺し合い寸前の生活だぜ? やってらんねえっての」
自分はただ、酒を飲んで美味い物を食べて、あとは自分の気に入った仲間達と・・・例えばシャオマオと一緒に遊んで暮らせればそれでいいのに。
多くを望んではいないはずなのに、どうしてその幸せがこんなに遠くにあるのだろう?
「はあっ・・・憂鬱だぜ」
「どうしたカ? 股からキノコ、生えたのカ?」
「・・・いい加減、その下ネタやめてくれない? 俺様ちゃん、結構センチメンタルになってんだけど・・・ふうっ」
「本当、だいじょぶカ?」
シャオマオが俺の顔を覗き込んでくる。
こちらを馬鹿にしながらも、どこか心配そうな表情をした異国の少女。決して美麗とは言えないが、近くで見るとそれなりに可愛らしい顔をしている。
その顔へと手を伸ばして触れようとする・・・その直前に、慌てて手を引っ込めた。
「いかん、いかん」
「ン?」
寝返りをうって、少女に背中を向けた。あのままシャオマオに触れていたら、恋に落ちてしまったかもしれない。
(弱ってるときに女に触れるもんじゃないな。俺と好き合ったって不幸にするだけだし。女は遊びで抱くだけでいいや)
「明日になったら市場に行こうぜ。またうさん臭い店で、うさん臭い魔具モドキを買い漁ってさあ、それを土産に東に帰ろうか」
「いいゾ。ご飯代、ぜんぶスロウスもちだナ」
「一応、皇子様ですから。それくらい払いますとも」
「人の金で、食うメシは、うまいから好きヨ! 三倍は、うまい!」
「あはははは」
背中を向けたままシャオマオと笑い合って、そのまま眠りについた。
翌朝、いつの間にかベッドに潜り込んでいたシャオマオにドギマギとさせられることになるのだが、このときの俺はまだ気がついていなかった。
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