64 / 68
決意(2)
しおりを挟む「いやああああああああ!」
「ッ!?」
そんなとき、大気を切り裂くような悲鳴が響いてきた。
空中飛行をしていたマーリンは慌てて中空にストップして辺りを見回した。
うっすらと雪が積もった北の大地には細い街道が南北に走っている。その街道上、横倒しに倒れている馬車の姿があった。おそらく行商人だろう。
馬車の周囲には取り囲むように複数の人影がある。一見すると人型に見える者達であったが、その肌の色は毒々しい青紫色をしていて、額には尖った角まで生えている。
「魔族・・・!」
それは『小鬼族』と呼ばれる魔族であった。魔族との戦争で何度となく戦った相手である。
「どうしてこんなところに魔族がっ!」
「おそらくは敗残兵だろう。戦争の生き残りが流れてきたようだな」
マーリンの疑問にフュルフールが答える。
魔族は馬車の中へと乗り込み、中から髪の長い女性を引きずり出した。ブラウンの長い髪を引っ張られて無理矢理に馬車から降ろされたのは、先ほどの悲鳴の主だろうか。その腕の中には泣きじゃくる赤ん坊の姿まである。
「行きますっ! フュル、付いてきて!」
「うむ、仕方がないな!」
マーリンは間髪入れずに上空から下降する。重力と魔法による加速が合わさり、大気が悲鳴を上げるような音を立てる。
「なんだあっ、何の音が・・・」
大気を切り裂く音に気がついて小鬼の一体が視線を上方に向ける。
しかし、すでに時は遅い。地表スレスレまで迫ったマーリンがクルリと姿勢を変えて、亜音速の勢いのままに小鬼に蹴撃を見舞う。
「あぶっ・・・!」
砲弾のような蹴りを受けて、魔族の身体の上半分がちぎれ飛んだ。
小鬼族は『魔人族』や『大鬼族』と比べて肉体的な強度はもろく、身体能力も人間並みにしかない。マーリンの攻撃にとても耐えられるような肉体ではなかった。
「なっ・・・お前は『血色の雷』!」
「その女性を話しなさい、魔族」
地面に降り立ったマーリンの姿に小鬼の一体が目を見開いて叫ぶ。
マーリンは冷たい瞳で彼らの姿を順繰りに見て、滅ぼすべき優先順位を決める。
「う、動くなっ! このおんなぴゃっ・・・」
「遅いです」
咄嗟に馬車から引きずり出した女を立てにしようとした魔族であったが、マーリンが抜き身も見せぬ速さで右手を振り抜き、雷の矢を放って頭部を打ち抜く。
「滅びなさい、邪悪なる魔族」
「や、やめっ・・・」
「ひいっ・・・!」
マーリンは馬車に近い者から順番に、一体一体魔族を打ち抜いていく。
ラクシャータの下で修業を積んで、北方の戦場で磨き抜かれたマーリンの魔法は至高の域にまで達している。大陸一の賢者であっても、これほど手際よく魔法を発動させることはできないだろう。
数十秒後には馬車を襲っていた魔族の敗残兵は一体残らず討滅され、街道は再び静寂を取り戻したのだった。
12
お気に入りに追加
520
あなたにおすすめの小説
奇跡の確率
カザハナ
ファンタジー
僕の名前はコーディエ=コーズ。
職業は配達人で年齢は21…なんだけど童顔のせいか身長のせいか子供に間違えられます。おかげで僕の顔と等級を知らない支部だと見習い終了したばっかの下級と勘違いされる日々。僕、これでも特級と呼ばれる金なんだけどなぁ(遠い目)
あと、性別は女だよ。ショートだし僕呼びだから間違われるけど隠してないからね!ほとんどの人が気付かないだけで!!
そんな僕と、魔物に間違われ怪我を負わされた瑠璃の猫の姿をしたクリスとの出会いと恋の物語。
※一話が大体1000文字前後です。
※ファンタジー小説大賞で登録してます!投票宜しくお願いします!!
「次点の聖女」
手嶋ゆき
恋愛
何でもかんでも中途半端。万年二番手。どんなに努力しても一位には決してなれない存在。
私は「次点の聖女」と呼ばれていた。
約一万文字強で完結します。
小説家になろう様にも掲載しています。
【完結】公爵家のメイドたる者、炊事、洗濯、剣に魔法に結界術も完璧でなくてどうします?〜聖女様、あなたに追放されたおかげで私は幸せになれました
冬月光輝
恋愛
ボルメルン王国の聖女、クラリス・マーティラスは王家の血を引く大貴族の令嬢であり、才能と美貌を兼ね備えた完璧な聖女だと国民から絶大な支持を受けていた。
代々聖女の家系であるマーティラス家に仕えているネルシュタイン家に生まれたエミリアは、大聖女お付きのメイドに相応しい人間になるために英才教育を施されており、クラリスの側近になる。
クラリスは能力はあるが、傍若無人の上にサボり癖のあり、すぐに癇癪を起こす手の付けられない性格だった。
それでも、エミリアは家を守るために懸命に彼女に尽くし努力する。クラリスがサボった時のフォローとして聖女しか使えないはずの結界術を独学でマスターするほどに。
そんな扱いを受けていたエミリアは偶然、落馬して大怪我を負っていたこの国の第四王子であるニックを助けたことがきっかけで、彼と婚約することとなる。
幸せを掴んだ彼女だが、理不尽の化身であるクラリスは身勝手な理由でエミリアをクビにした。
さらに彼女はクラリスによって第四王子を助けたのは自作自演だとあらぬ罪をでっち上げられ、家を潰されるかそれを飲み込むかの二択を迫られ、冤罪を被り国家追放に処される。
絶望して隣国に流れた彼女はまだ気付いていなかった、いつの間にかクラリスを遥かに超えるほどハイスペックになっていた自分に。
そして、彼女こそ国を守る要になっていたことに……。
エミリアが隣国で力を認められ巫女になった頃、ボルメルン王国はわがまま放題しているクラリスに反発する動きが見られるようになっていた――。
アラフォー女、二重生活始めます
桜井吏南
ファンタジー
主人公古都音は、未だオタク末期で恋愛未経験のアラフォー。
ある日高校の同級生でシングルファザー直樹と娘のうさぎ・古都音がファンの声優庵を含めた四人は異世界に召喚されてしまい住民権を与えられ、最初の一週間は冒険者になるため養成所は通うことになる。
そして始まる昼間は冴えないオタクOL、夜は冒険者候補生の二重生活。
古都音の日常は急変する。
なろうにも掲載
異世界転生した時に心を失くした私は貧民生まれです
ぐるぐる
ファンタジー
前世日本人の私は剣と魔法の世界に転生した。
転生した時に感情を欠落したのか、生まれた時から心が全く動かない。
前世の記憶を頼りに善悪等を判断。
貧民街の狭くて汚くて臭い家……家とはいえないほったて小屋に、生まれた時から住んでいる。
2人の兄と、私と、弟と母。
母親はいつも心ここにあらず、父親は所在不明。
ある日母親が死んで父親のへそくりを発見したことで、兄弟4人引っ越しを決意する。
前世の記憶と知識、魔法を駆使して少しずつでも確実にお金を貯めていく。
聖女が降臨した日が、運命の分かれ目でした
猫乃真鶴
ファンタジー
女神に供物と祈りを捧げ、豊穣を願う祭事の最中、聖女が降臨した。
聖女とは女神の力が顕現した存在。居るだけで豊穣が約束されるのだとそう言われている。
思ってもみない奇跡に一同が驚愕する中、第一王子のロイドだけはただ一人、皆とは違った視線を聖女に向けていた。
彼の婚約者であるレイアだけがそれに気付いた。
それが良いことなのかどうなのか、レイアには分からない。
けれども、なにかが胸の内に燻っている。
聖女が降臨したその日、それが大きくなったのだった。
※このお話は、小説家になろう様にも掲載しています
大好きな第一王子様、私の正体を知りたいですか? 本当に知りたいんですか?
サイコちゃん
恋愛
第一王子クライドは聖女アレクサンドラに婚約破棄を言い渡す。すると彼女はお腹にあなたの子がいると訴えた。しかしクライドは彼女と寝た覚えはない。狂言だと断じて、妹のカサンドラとの婚約を告げた。ショックを受けたアレクサンドラは消えてしまい、そのまま行方知れずとなる。その頃、クライドは我が儘なカサンドラを重たく感じていた。やがて新しい聖女レイラと恋に落ちた彼はカサンドラと別れることにする。その時、カサンドラが言った。「私……あなたに隠していたことがあるの……! 実は私の正体は……――」
まったく知らない世界に転生したようです
吉川 箱
ファンタジー
おっとりヲタク男子二十五歳成人。チート能力なし?
まったく知らない世界に転生したようです。
何のヒントもないこの世界で、破滅フラグや地雷を踏まずに生き残れるか?!
頼れるのは己のみ、みたいです……?
※BLですがBがLな話は出て来ません。全年齢です。
私自身は全年齢の主人公ハーレムものBLだと思って書いてるけど、全く健全なファンタジー小説だとも言い張れるように書いております。つまり健全なお嬢さんの癖を歪めて火のないところへ煙を感じてほしい。
111話までは毎日更新。
それ以降は毎週金曜日20時に更新します。
カクヨムの方が文字数が多く、更新も先です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる