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婚約破棄された悪役令嬢は即死しました。
5(終)
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「こうして、横暴で身勝手な王太子は命を落とし、英邁な公爵令嬢が王太子になりました……めでたし、めでたし」
「あまりめでたい終わり方ではありませんわ。お嬢様」
「そうね……彼には、元・婚約者様には悪いことをしてしまったわ。自業自得だけれど」
王都にあるガーラント公爵家の屋敷にて、一人の女性がティーカップを傾けていた。ガーラント公爵家の令嬢であるエレノワール・ガーラントある。
王太子に婚約破棄され、突き飛ばされて殺害されたエレノワールであったが……こうして傷一つなく生きていた。
現在では『エレノア・ガーラント』と名乗っており、エレノワールの妹ということになっている。
エレノアは先日、新しい王太子に任じられた。
息子が処刑されてから国王はずっと部屋に閉じこもっており、政務にも手をつけていない。
近いうちにエレノアが新たな王となると思われていた。
全ては長い計画によるもの。
ガーラント公爵家とアルバン公爵家による王家の乗っ取りの結果である。
今から二十年ほど前のこと。
国王……ゲスール・ルーザスはとある下級貴族の令嬢と恋に落ち、自分の婚約者だったアルバン公爵家の令嬢に冤罪を被せて婚約破棄をした。
婚約者に冤罪を被せた国王は良識ある貴族からの支持を失い、王家の権威は見違えるほどに減衰した。
そんな状況を打開するために、二つの公爵家の血を引く娘……エレノワールとクズリックの婚約が提案されることになった。
娘を差し出すことに公爵家は渋ったものの……王家と公爵家の対立関係が続いているのは、彼らにとっても都合が悪い。
だが……王太子クズリックは彼らが想定していた以上の愚者だったのだ。
国王の『真実の愛』の恋人が命と引き換えに産み落とした王太子は、両親の悪い部分をごっそりと引き継いでいた。
理屈や道理よりも感情を重んじており、自分に苦言を口にする人間を追い払い、都合の良いおべっかを使う者ばかりをそばに置いた。
自分よりも優れているエレノワールを冷遇するようになり、彼女をないがしろにするようになったのだ。
そんな王太子に二つの公爵家は……否、多くの貴族が失望した。
国王はかつて婚約者を冷遇して、公爵家を敵に回してしまったことを忘れていた。エレノワールと婚約を結んだことで解決したものだと片付けていたのである。
多くの貴族の頭にかつての婚約破棄騒動が浮かんだ。
同じ悪夢が繰り返されるのではないか……そんなふうに考えたのである。
(今の王家には国を任せておけない……いっそのこと、王位を奪い取ってしまおうか)
二つの公爵家はそんなふうに考えるようになった。
クズリックを廃して、二つの公爵家の血を継ぐ人間……エレノワールを女王として立てて、王家を乗っ取ってしまえば良い。
王家に与する人間を切り崩して乗っ取りを進め……そして、クズリックを追い落とす最後の矢であるミーア・サルティスを放ったのである。
ミーアは隣国からの諜報員ではないかと思われているが……実際には、ガーラント公爵が用意したハニートラップ要員だった。
彼女は優れた魅力と演技力によってクズリックに取り入り、エレノワールと婚約破棄するように仕向けたのである。
「……ミーアは本当によくやってくれたわ。あの何をしでかすかわからない愚かなクズリックを手玉に取り、見事こちらの思い通りに動かしてくれたんだからね。本当に大したものだわ」
「お褒めいただき恐縮です、お嬢様」
エレノワールの言葉に、そばに控えていたメイドが頭を下げる。
能面のような無表情なメイドであったが、彼女の顔をよくよく見るとミーア・サルティスと瓜二つだった。
似ているのも当然。彼女こそがクズリックを誘惑して陥れた張本人なのだから。
「全て上手くいった。愚かな男を王にすることなく、私が新たな王太子になることができた。無能な国王は息子が死んだことで心を病んで部屋に閉じこもり、来年には私が王冠を頭に載せることになるでしょう」
「全てはお嬢様の……公爵家の思い通りということですね?」
「ええ……クズリック殿下は少しだけ可哀そうだけど、仕方がないわね」
エレノワールは遠い目をして、表情を曇らせる。
その後、エレノワール……エレノア・ガーラントは戴冠して、新たな王となった。
建国以来初めての女王が治める国は繁栄を謳歌して、彼女の名前は中興の祖として長く語り継がれるのであった。
おしまい
「あまりめでたい終わり方ではありませんわ。お嬢様」
「そうね……彼には、元・婚約者様には悪いことをしてしまったわ。自業自得だけれど」
王都にあるガーラント公爵家の屋敷にて、一人の女性がティーカップを傾けていた。ガーラント公爵家の令嬢であるエレノワール・ガーラントある。
王太子に婚約破棄され、突き飛ばされて殺害されたエレノワールであったが……こうして傷一つなく生きていた。
現在では『エレノア・ガーラント』と名乗っており、エレノワールの妹ということになっている。
エレノアは先日、新しい王太子に任じられた。
息子が処刑されてから国王はずっと部屋に閉じこもっており、政務にも手をつけていない。
近いうちにエレノアが新たな王となると思われていた。
全ては長い計画によるもの。
ガーラント公爵家とアルバン公爵家による王家の乗っ取りの結果である。
今から二十年ほど前のこと。
国王……ゲスール・ルーザスはとある下級貴族の令嬢と恋に落ち、自分の婚約者だったアルバン公爵家の令嬢に冤罪を被せて婚約破棄をした。
婚約者に冤罪を被せた国王は良識ある貴族からの支持を失い、王家の権威は見違えるほどに減衰した。
そんな状況を打開するために、二つの公爵家の血を引く娘……エレノワールとクズリックの婚約が提案されることになった。
娘を差し出すことに公爵家は渋ったものの……王家と公爵家の対立関係が続いているのは、彼らにとっても都合が悪い。
だが……王太子クズリックは彼らが想定していた以上の愚者だったのだ。
国王の『真実の愛』の恋人が命と引き換えに産み落とした王太子は、両親の悪い部分をごっそりと引き継いでいた。
理屈や道理よりも感情を重んじており、自分に苦言を口にする人間を追い払い、都合の良いおべっかを使う者ばかりをそばに置いた。
自分よりも優れているエレノワールを冷遇するようになり、彼女をないがしろにするようになったのだ。
そんな王太子に二つの公爵家は……否、多くの貴族が失望した。
国王はかつて婚約者を冷遇して、公爵家を敵に回してしまったことを忘れていた。エレノワールと婚約を結んだことで解決したものだと片付けていたのである。
多くの貴族の頭にかつての婚約破棄騒動が浮かんだ。
同じ悪夢が繰り返されるのではないか……そんなふうに考えたのである。
(今の王家には国を任せておけない……いっそのこと、王位を奪い取ってしまおうか)
二つの公爵家はそんなふうに考えるようになった。
クズリックを廃して、二つの公爵家の血を継ぐ人間……エレノワールを女王として立てて、王家を乗っ取ってしまえば良い。
王家に与する人間を切り崩して乗っ取りを進め……そして、クズリックを追い落とす最後の矢であるミーア・サルティスを放ったのである。
ミーアは隣国からの諜報員ではないかと思われているが……実際には、ガーラント公爵が用意したハニートラップ要員だった。
彼女は優れた魅力と演技力によってクズリックに取り入り、エレノワールと婚約破棄するように仕向けたのである。
「……ミーアは本当によくやってくれたわ。あの何をしでかすかわからない愚かなクズリックを手玉に取り、見事こちらの思い通りに動かしてくれたんだからね。本当に大したものだわ」
「お褒めいただき恐縮です、お嬢様」
エレノワールの言葉に、そばに控えていたメイドが頭を下げる。
能面のような無表情なメイドであったが、彼女の顔をよくよく見るとミーア・サルティスと瓜二つだった。
似ているのも当然。彼女こそがクズリックを誘惑して陥れた張本人なのだから。
「全て上手くいった。愚かな男を王にすることなく、私が新たな王太子になることができた。無能な国王は息子が死んだことで心を病んで部屋に閉じこもり、来年には私が王冠を頭に載せることになるでしょう」
「全てはお嬢様の……公爵家の思い通りということですね?」
「ええ……クズリック殿下は少しだけ可哀そうだけど、仕方がないわね」
エレノワールは遠い目をして、表情を曇らせる。
その後、エレノワール……エレノア・ガーラントは戴冠して、新たな王となった。
建国以来初めての女王が治める国は繁栄を謳歌して、彼女の名前は中興の祖として長く語り継がれるのであった。
おしまい
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