ざまあ短編集

レオナール D

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婚約破棄された悪役令嬢は即死しました。

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 広場に設置された処刑台の周囲には大勢の民衆が集まっている。
 次期国王になるはずだった男が処刑されると聞いて、王都中の人々が集結していた。
 クズリックの悪行はすでに王都中に広まっており、誰もが処刑の開始を待ち望んでいる。

「「「「「ワアアアアアアアアアアアッ!」」」」」

 処刑執行の時間となり、兵士に引きずられるようにして王太子クズリックが現れた。
 途端に民衆から喝采の声が上がり、一部の者達が石を投げつけてくる。

「いやだ……死にたくない……だれか、助けてくれ……」

 クズリックが弱々しくうめいた。
 処刑台まで引きずられていき、頭部と手を固定される。
 すぐ傍には斧を持った処刑人が立っていた。

「助けてくれ……死にたくない……死にたくない……」

「殺せ! 殺しちまえ!」

「無能な王族に死を!」

「そいつのせいで税金が上がったんだ! ぶっ殺せ!」

「婚約者殺しのクズ王子め! さっさと首をはねられろ!」

「…………!」

 自分の死を願っている者達の姿を目の当たりにして、クズリックは全身が凍りつくような恐怖に襲われた。

(どうして、僕がこんなに憎まれているんだ……僕は正しい道を歩いているんじゃなかったのか!?)

 正しい人間だと思っていた。正道を進んでいるはずだった。
 父親からは王になるべき人間だと深い愛情を与えられ、周りの家臣からもそのように扱われていたはず。

(僕が間違っていたというのか? やはり、エレノワールと婚約破棄なんてするべきじゃなかった……)

「助けてくれ……僕は間違っていた。お願いだ、やり直す機会をくれ……!」

 クズリックは涙を流して懇願した。

「ちゃんと勉強もする。民や臣下を思いやる。人々から愛される立派な国王になってみせる……だから、どうか命だけは……!」

「……ようやく反省されたのですか?」

「…………!」

 頭上から声が降ってきた。
 婚約者とそっくりの声……『彼女』の声である。

「エレノア嬢!」

 クズリックはエレノワールの妹の名前を呼んだ。婚約者とよく似ていて、少しだけ地味な彼女の名前を。

「お願いだ! 助けてくれ!」

 クズリックはこれが最後のチャンスだとばかりに叫んだ。

「これから罪を償う。彼女を殺めてしまったことを全力で! だから……どうか処刑を止めてくれ!」

「…………」

「本当に反省しているんだ……このまま愚者として死にたくない。お願いだ、償う機会をくれ……!」

「本当に……遅すぎますわね」

 エレノアが深々と溜息をつく気配がした。

「貴方と婚約を結んでいたのは国王陛下のたっての願いであり、国を安定させる上でそれが一番だと思ったからです。いつまでも昔の恨みを引きずっていたら前には進めませんし、私の子が次代の王になるのであればそれで良いと思っていました」

 クズリックを無視して、エレノアは淡々とした口調で言葉を投げかけてくる。

「貴方が王太子としての自覚を持って行動してくれたのであれば、多少能力が足りなかったところで支えてあげようと思えたのです。たとえ能力が足りずとも、勤勉であればそれで良かったのに……」

「お前は、まさか……」

「好きでないのはお互いさま。性根のねじ曲がった悪役令嬢で悪うございました」

「ッ……!」

 性根のねじ曲がった悪役令嬢。
 それはかつて、婚約破棄の際にクズリックが口にした言葉である。

「お前、貴様は……エレノワールなのか!?」

「…………」

「返事をしろ! 生きていたのか!? おい、何とか言わないか!?」

「それでは、さようなら……」

 エレノア……エレノワールらしき女性がクズリックから離れていき、処刑台から降りていく。
 処刑人が進み出てきて、黒く重厚感のある斧を振り上げる。

「やめろ! やめろ! あの女は生きている。僕は無実だ!」

「…………」

「やめてくれ……僕は誰も殺していないんだ。処刑されるような理由はないんだ!」

「「「「「オオオオオオオオオオオオッ!」」」」」

 王太子の声を民衆の声が塗りつぶす。
 処刑を見守っている彼らには、王太子が無様に命乞いをしているように見えたことだろう。

「僕は嵌められたんだ……あの女、殺されたふりをして僕を……」

「ムンッ……!」

「殺そうと……」

 処刑人が容赦なく斧を振り下ろす。
 真っ赤な血と共にクズリックの首が宙を舞い、民衆からひときわ大きな歓声が上がった。

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