異世界召喚されて捨てられた僕が邪神であることを誰も知らない……たぶん。

レオナール D

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152.エルフガルド

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「ここがエルフの国?」

「森の中のようですね。木ばかりです」

 三人が転移してきたのは、森の中にある集落だった。
 エルフの国。本拠地であるエルフガルド……そこは大きな木によって作られた町だった。
 高くて太い木の上にいくつもの家が建てられている。木と木の間には橋がかけられており、人々は樹上で生活をしているようだ。

「自然の中で、自然と共に生きる……これがエルフという種族だそうですよ」

 ステラが補足説明をする。

「エルフは火や金属を使うことはほぼないそうです。これが彼らの生き方のようですね」

「前に戦ったエルフのお姉さんは剣を振っていたけど?」

「おそらく、金属製の剣ではありません。他の素材で作られているはずです」

 ウータとステラ、そして幽霊のようになった和葉がエルフガルドの町中を歩いていく。

『私達はあそこに捕らえられています。この町の中心にあるもっとも巨大な大樹です』

 ウータの横を飛びながら、和葉が町の中央を指差した。
 そこには見上げても見上げきれないほどに巨大な大樹が立っている。
 いったい、どれほどの年月を重ねればあれほどまでに大きな木に育つのだろう。まさしく『世界樹』と呼ぶべき大きさの木だった。

『あの大樹はこの国の王城であると同時に、女神エアを奉っている神殿でもあるようです。大勢の兵士がいて、王族や神官もいるようです』

「何でも良いよー。誰がいたところで、やるべきことは変わらないからねー」

 ウータがうっすらと笑う。
 いつもの無邪気な笑みと同じように見えるものの、見る者の背筋を凍りつかせるような寒気を感じさせるものだった。
 ウータは怒っている。激怒している。
 幼馴染に……大切な人に手を出されて、本気で怒っていた。

「とりあえず、あそこに忍び込んでみようか。上手くすればみんなことを救出して……」

「花散ウータ様ですね」

 だが……三人の前に突如として、一人の青年が現れた。
 緑色の髪を背中に伸ばしており、耳は長く尖っている。顔立ちは秀麗そのもの。まるで作り物のような容姿を持ったエルフの青年だった。

「我らが神……『風』の女神エアより、皆さまを大樹の城にお連れするようにとの指示を受けております。案内いたしますので、こちらへお越しください」

「来いと言われて、大人しく行くと思っているのかな?」

「ご自分の立場を理解されていないようですね」

 エルフの青年がニヤリと嘲るように笑った。

「現在、貴方と一緒にこの世界に召喚された四人を確保しています。もしも、この正体を拒否するようでしたら、彼らの命は……」

「塵になれ」

「な……」

 言葉の途中で、ウータが転移。
 エルフの青年の顔面を掴んで、そのまま全身を塵に変えた。

「キャアアアアアアアアアアアアッ!」

「何、何が起こったんだ!?」

 ここはエルフガルドの町中である。
 当然、周囲には少なからぬ通行人の姿があった。
 突如として同胞であるエルフが塵になったのを目撃して、エルフ達の間から次々と悲鳴が上がる。
 そんな金切り声など聞こえないかのように、ウータが顔を上げて天を仰いだ。

「ねえ、どうせ聞いているんだよね……風の女神」

 そして……この場にはいない誰かに向かって、淡々とした口調で語りかける。

「人質っていうのは無事だから価値があるんだよ。もしも四人を傷つけたら、この国中のエルフを皆殺しにしてあげるよ」

 脅しではない。
 ウータの身体から放たれている怒りのオーラ……そこには『必ずやる』という明確な意志が込められていた。
 エルフの大虐殺で済むならばまだマシ。下手をすれば、世界中の人間を一人残らず殺しかねないような殺意がウータの身体から放たれている。

「それじゃ……今から行くよ。本気で遊んであげるから、ちゃんともてなしてね」

 大樹を指差してそう宣言して、ウータ達の姿がその場から消えた。
 どこかに転移したのだろうが……どこに転移したのかは明白である。

『いいんじゃなーい……相手をしてあげるよ。異世界の邪神』

 虚空から声が響き渡る。
 空気からにじみ出るようにして現れたのは『風』の女神エアの姿。
 悪戯っぽく子供じみた笑みを湛えながら、邪神の到来を受け入れる。

 ウータにとっては四人目の獲物。そして、幼馴染を拉致した仇敵。
 エアにとっても、ウータは三人の姉妹を喰って、自分のことも狙っている敵。

 二人の神の戦いの幕は切って落とされたのであった。
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