異世界召喚されて捨てられた僕が邪神であることを誰も知らない……たぶん。

レオナール D

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149.幼馴染の異変

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「やれやれ……来てくれて助かったよ、美湖」

「本当に危なかったねえ。アタシがいなかったら死んじゃってたんじゃない?」

 魔族を撃破して、竜哉は改めて美湖に向き直った。
 ローブ姿、魔法使いのステッキを持った美湖は呆れたように竜哉に溜息を吐く。

「無茶しちゃダメよ。私達はチームなんだから、一人で特攻しないようにね」

「わかってるって……早く魔族を倒さなくちゃ、町が危ないと思ったんだよ。実際、そうだっただろう?」

 竜哉が周囲に目を向ける。
 あちこちで兵士が倒れているのだが、犠牲者は彼らだけではない。非戦闘員である王都の住民にも犠牲者が出ていた。
 空を飛ぶ魔物であるハーピーが城壁を飛び越えて襲撃してきたことで、市街地が戦場になってしまった。
 迅速に避難勧告が行われたものの……それでも、逃げ遅れた人間が少なからず、命を落としている。

「本当に……俺は無力だな。『勇者』だっていうのに、大勢を死なせてしまった」

「……しょうがないんじゃない。気にしても仕方が無いわ」

「仕方が無いって……」

「私達は神様じゃないもの。『勇者』だろうが『賢者』だろうが、ただの高校生よ。全員を救えるわけじゃないわ」

「…………」

 割り切ったように言う美湖に、竜哉が唇を噛んだ。
 美湖の言い分は正しい。いくら『勇者』と持て囃されていようと、竜哉はただの高校生。できないことの方が多いに決まっている。
 そもそも、本人の意思を無視して異世界召喚されたのだ。一方的に責任を押しつけられる筋合いはなかった。

(それでも……ウータだったら、もっと大勢を救えたんじゃないか? アイツなら、きっと……)

 竜哉が劣等感を覚えているのはそこである。
 幼馴染の少年……花散ウータであったのなら、ハーピーの大群も魔族も簡単に片付けられたのではないか。

(俺はウータのようにはなれない……ウータみたいに特別じゃない。平凡な男だ……)

「あのさ、竜哉君。ウータ君と比べているのなら意味ないよ?」

「……心を読むなよ」

「幼馴染だからね。それくらいわかるって」

「…………」

 長い付き合いの弊害に、竜哉が頭痛を堪えるように額に指をあてた。
 すると……二人がいる大通りの向こう側から、見知った二人が駆けてきた。

「竜哉、美湖! 大丈夫!?」

「二人とも、怪我はありませんか?」

 北川千花と西宮和葉、同じく二人の幼馴染の少女である。
 別の場所でハーピーと戦っていた二人が駆けつけてきた。

「ああ、大丈夫だ」

「アタシも問題ないよー」

「もう……二人とも、勝手にどこかにいくから心配したじゃない。本当に団体行動がとれないんだから……」

「でも、二人とも無事でよかったです。怪我をしていないか心配しましたよ」

 千花が説教を始めて、和葉が安堵した様子で胸を撫で下ろしている。

「それじゃあ、一度城に戻りましょう」

「そーね。アタシ、さっさとお風呂に入りたいなー」

「怪我人も城に集められているみたいですし……私も戻りますね」

 竜哉と美湖、『剣聖』の千花は戦いが終われば仕事も終了だが、『聖女』である和葉には負傷者の治療という仕事が残っている。
 先に休むことになるのを申し訳なく思いながら、竜哉は三人の美少女を引き連れて、彼らの本拠地であるファーブニル王城に戻っていった。

「市街地での戦闘なんて初めてだし……城のみんなも心配だな」

「心配なのはお姫様でしょう? 竜哉、あの娘に夢中だもんね」

「か、からかうなよ千花! そんなんじゃないって!」

 千花の指摘に、竜哉が顔を真っ赤にした。
 竜哉がファーブニル王国の王女……リフィナ・ファーブニルに好意を抱いていることは公然の秘密だった。
 かつては千花達に惚れていて、ウータのせいで失恋した竜哉であったが……新しい恋を見つけたようである。

「それにしても……竜哉、どうするの? お姫様が好きみたいだけど、この世界に残るのー?」

「ウッ……それは……」

 美湖の言葉に竜哉が口ごもる。
 現在、魔族と戦いながら元の世界に帰る方法を探しているわけだが……リフィナと添い遂げるためには、竜哉はこの世界に残らなくてはいけない。
 この世界に残るということは、元の世界に帰りたがっている幼馴染と決別、向こうにいる家族とも永遠に会えないということになる。

「すぐに決断する必要はないけどさ、考えておいた方が良いんじゃない?」

「……わかってるよ、そんなこと」

「念のために言っておきますけど……私達はウータさんと同じ道を選びますので、そのつもりで」

 和葉も言葉を重ねる。
 千花、美湖、和葉はウータのことを愛している。
 ウータがこの世界を選ぶというのならこちらに残るだろうが、元の世界に帰るのならば一緒に帰還するはず。

「ちゃんと答えを出すよ……焦らせるなよ」

 竜哉がぶっきらぼうに言って、足を速めた。
 竜哉だってわかっている。ちゃんと答えを出すつもりだ。

(故郷の家族と、こっちのリフィナ……ウータだったらどちらを選ぶかな?)

 こんな時にも甦ってくるのは、男友達であるウータの顔だ。
 千花達を笑えない。竜哉だって、ウータのことが気になって仕方がないのだ。
 問題を先送りにしたまま……竜也達は城に帰還した。城門をくぐると、エントランスには話題に出ていた王女リフィナの姿があった。

「お帰りなさいませ、竜哉様、他の皆さんも!」

「お、王女殿下……」

「お怪我はありませんか? ああ、無事に戻ってきてくれて良かった……!」

「うひっ!」

 無事に帰ってきた竜哉に、リフィナが駆け寄って抱きついた。
 密着してくるリフィナに竜哉が緊張から硬直する。

「お、おおおおおおおっ、おうじょさまあっ!?」

「良かった……また無事に会えて、本当に良かったです……」

 秀麗な美男子である竜哉に美貌の王女が抱きつく姿は、一枚の絵画のように綺麗な光景だった。
 そんな二人に、千花達は顔を見合わせる。

「やっぱり、竜哉はこちらに残るんじゃない?」

「そーね、私もそっちに一票」

「ですね」

 三人が微笑ましそうな顔になる。
 幼馴染の少女らに失恋した竜哉であったが、四度目の恋は無事に実るかもしれない。
 それであるのなら……ウータも三人も笑顔で別れて、元の世界に帰還することができるだろう。

「え……?」

 だが……続けて起こった光景に、三人の少女は凍りつくことになった。

「良かった、良かった……人質が帰ってきてくれて良かったわ」

「グッ……!?」

「これで、あの神殺しの少年と駆け引きができるわ」

 竜哉が倒れた。血を流して。
 竜哉と抱き合っていたリフィナが笑う。その手には白銀色のナイフが握られていた。
 ナイフは真っ赤な血で濡れており、倒れた竜哉の血が床に広がっていった。
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