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146.『風』の女神
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「あーあ……アースも死んじゃったみたいねー」
『土』の女神アースの死を誰よりも真っ先に感じ取ったのは、少し離れた場所にある宿屋の屋根に座っている女。
武闘大会の準決勝でウータと戦ったエルフの女戦士……アリアである。
アリアは端整な表情を悲しそうに歪めて、両手で顔を覆って隠す。
「悲しい、悲しいわー。フレアにマリンに続いて、アースまで死んじゃうだなんて……ウウッ、悲しい、悲しい。姉妹をこんな立て続けに失うだなんて、悲し過ぎて…………あひゃっ」
涙でも流すのかと表情を歪めていたアリアであったが、そのまま破顔して笑い出した。
「あひゃ、ヒャヒャヒャヒャヒャヒャッ! 偉そうなことを散々ほざいておいて、あっさり死んでやんの! ざまあみやがれ、ばーか!」
腹を抱えて、笑い出した。
屋根の上をゴロゴロと転がって、笑って笑って笑って笑いまくる。
しばし笑い転げていたアリアであったが……やがて、スウッと笑いを引っ込めた。
「……女神エア、それくらいにしておきましょう。流石に下品です」
アリアの口から出てきたのは、理性的で落ち着いた声。
まるで、先ほどとは別人のようである。
「それに、そんなに転がったら服が汚れてしまいます」
「いいじゃない。たまには。あの馬鹿姉妹が死んでくれたのよ。誕生日と新年が一緒に来たような気分よ」
「仮にも姉妹である女神が殺されたのです。もっと深刻な顔をしてください」
「ぶーぶー、アリアちゃんのイケズー。ちょっとくらい良いじゃなーい?」
アリアの口が次々と言葉を紡いだ。
まるで二人の人間が会話をしているかのように。
傍目にはふざけているのか、頭がおかしい人のように見えるが……アリアの中には二つの魂が宿っている。
一つ目はエルフの女戦士の魂。もう一つは……『風』の女神エアの魂だ。
あまり人に知られていることではないが……エアは人の身体に宿り、その人間の人生を弄ぶという趣味を持っていた。エアは自分の魂を複数に分裂させる能力を持っており、分けた魂を他者に寄生させている。
もっとも……アリアはエアを崇めているエルフの神官戦士。自らの意思でエアをその身に宿らせているのだが。
「これで三人……順番からして、次は女神エアが狙われることでしょう」
「そうねー。彼はエルフガルドを目指すつもりらしいし、次は私を食べるつもりねー」
エアが他人事のように言う。
あちこちに魂を飛ばしているエアは世界情勢に誰よりも詳しい。
この世界に紛れ込んだ異物……邪神の転生体であるウータが次々と女神を喰らっていることにも、エアだけは気がついている。
「ここは『光』の女神ライト、『闇』の女神ダークに報告して、助力を願うべきではありませんか? 相手はすでに三体の女神の力を取り込んでいます。貴女様だけでは勝ち目は薄いかと」
アリアが主君であるエアを恐れることなく進言した。
もしも相手がフレアのような癇癪持ちであれば無礼打ちにされていただろうが……エアはそれを応用に流して、「うーん……」と唸った。
「パパとママに相談したら、きっとどうにかしてくれるんだろうけど……それじゃあ、私の旨味が無いのよねー」
「旨味って……そんなことを言っている場合ですか?」
「確かに、すっごくピンチだけど……同時にビッグチャンスでもあるのよね。うまく立ち回れば、三人の女神の力を手に入れることができるかも」
もしも父母である『光』と『闇』の女神に報告すれば、彼女達がウータを倒してくれるかもしれない。
それが為されたとしても、エアが得られる物はない。
取り返した三者の力から、再び三人の女神が復活されるだけである。
だが……エアが独力でウータを撃破できれば、奪われた『火』『水』『土』の三つの力を得て、エアは単純計算で四倍にまで力を高めることができるだろう。
「そうなれば……パパとママを越えて、この世界の支配者になれるわねー。うひひ、それってすっごく素敵じゃなーい?」
「……できるのですか、女神エア。貴女一人であの魔人を倒すことができるのですか?」
ウータは強い。
武闘大会でアリアは敗北したし、三人の女神を殺して食べている。
普通に考えたら、エアだけで勝てる道理などない。
「物は考えよう。馬鹿とハサミは使いようってね」
だが……エアは自信満々な様子でアリアの身体を操って人差し指を立てた。
「あの怪物には大切な人間がいる……一緒に召喚された幼馴染の四人、彼らを人質に取れば、良いようにできると思わなーい?」
ウータの幼馴染……南雲竜哉、北川千花、西宮和葉、東山美湖。
彼らのことはすでに把握している。何故なら……彼らがいるファーブニル王国の王女、彼女の肉体にも分霊を宿らせているから。
「あの子達はすでに私の手の中にあるわー。うひひひ、せいぜい、虫けらには蜘蛛の巣に飛び込んできてもらおうじゃなーい?」
「…………」
アリアが物言いたげな表情をしているが……それ以上、苦言を呈することはしなかった。
主君がそうと決めたのであれば、ただ従うだけ。アリアは『風』の女神に仕えている神官戦士なのだから。
物語の舞台はエルフの国……『エルフガルド』へ。
ウータと幼馴染四人。彼らが最悪の形で再会しようとしていた。
『土』の女神アースの死を誰よりも真っ先に感じ取ったのは、少し離れた場所にある宿屋の屋根に座っている女。
武闘大会の準決勝でウータと戦ったエルフの女戦士……アリアである。
アリアは端整な表情を悲しそうに歪めて、両手で顔を覆って隠す。
「悲しい、悲しいわー。フレアにマリンに続いて、アースまで死んじゃうだなんて……ウウッ、悲しい、悲しい。姉妹をこんな立て続けに失うだなんて、悲し過ぎて…………あひゃっ」
涙でも流すのかと表情を歪めていたアリアであったが、そのまま破顔して笑い出した。
「あひゃ、ヒャヒャヒャヒャヒャヒャッ! 偉そうなことを散々ほざいておいて、あっさり死んでやんの! ざまあみやがれ、ばーか!」
腹を抱えて、笑い出した。
屋根の上をゴロゴロと転がって、笑って笑って笑って笑いまくる。
しばし笑い転げていたアリアであったが……やがて、スウッと笑いを引っ込めた。
「……女神エア、それくらいにしておきましょう。流石に下品です」
アリアの口から出てきたのは、理性的で落ち着いた声。
まるで、先ほどとは別人のようである。
「それに、そんなに転がったら服が汚れてしまいます」
「いいじゃない。たまには。あの馬鹿姉妹が死んでくれたのよ。誕生日と新年が一緒に来たような気分よ」
「仮にも姉妹である女神が殺されたのです。もっと深刻な顔をしてください」
「ぶーぶー、アリアちゃんのイケズー。ちょっとくらい良いじゃなーい?」
アリアの口が次々と言葉を紡いだ。
まるで二人の人間が会話をしているかのように。
傍目にはふざけているのか、頭がおかしい人のように見えるが……アリアの中には二つの魂が宿っている。
一つ目はエルフの女戦士の魂。もう一つは……『風』の女神エアの魂だ。
あまり人に知られていることではないが……エアは人の身体に宿り、その人間の人生を弄ぶという趣味を持っていた。エアは自分の魂を複数に分裂させる能力を持っており、分けた魂を他者に寄生させている。
もっとも……アリアはエアを崇めているエルフの神官戦士。自らの意思でエアをその身に宿らせているのだが。
「これで三人……順番からして、次は女神エアが狙われることでしょう」
「そうねー。彼はエルフガルドを目指すつもりらしいし、次は私を食べるつもりねー」
エアが他人事のように言う。
あちこちに魂を飛ばしているエアは世界情勢に誰よりも詳しい。
この世界に紛れ込んだ異物……邪神の転生体であるウータが次々と女神を喰らっていることにも、エアだけは気がついている。
「ここは『光』の女神ライト、『闇』の女神ダークに報告して、助力を願うべきではありませんか? 相手はすでに三体の女神の力を取り込んでいます。貴女様だけでは勝ち目は薄いかと」
アリアが主君であるエアを恐れることなく進言した。
もしも相手がフレアのような癇癪持ちであれば無礼打ちにされていただろうが……エアはそれを応用に流して、「うーん……」と唸った。
「パパとママに相談したら、きっとどうにかしてくれるんだろうけど……それじゃあ、私の旨味が無いのよねー」
「旨味って……そんなことを言っている場合ですか?」
「確かに、すっごくピンチだけど……同時にビッグチャンスでもあるのよね。うまく立ち回れば、三人の女神の力を手に入れることができるかも」
もしも父母である『光』と『闇』の女神に報告すれば、彼女達がウータを倒してくれるかもしれない。
それが為されたとしても、エアが得られる物はない。
取り返した三者の力から、再び三人の女神が復活されるだけである。
だが……エアが独力でウータを撃破できれば、奪われた『火』『水』『土』の三つの力を得て、エアは単純計算で四倍にまで力を高めることができるだろう。
「そうなれば……パパとママを越えて、この世界の支配者になれるわねー。うひひ、それってすっごく素敵じゃなーい?」
「……できるのですか、女神エア。貴女一人であの魔人を倒すことができるのですか?」
ウータは強い。
武闘大会でアリアは敗北したし、三人の女神を殺して食べている。
普通に考えたら、エアだけで勝てる道理などない。
「物は考えよう。馬鹿とハサミは使いようってね」
だが……エアは自信満々な様子でアリアの身体を操って人差し指を立てた。
「あの怪物には大切な人間がいる……一緒に召喚された幼馴染の四人、彼らを人質に取れば、良いようにできると思わなーい?」
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彼らのことはすでに把握している。何故なら……彼らがいるファーブニル王国の王女、彼女の肉体にも分霊を宿らせているから。
「あの子達はすでに私の手の中にあるわー。うひひひ、せいぜい、虫けらには蜘蛛の巣に飛び込んできてもらおうじゃなーい?」
「…………」
アリアが物言いたげな表情をしているが……それ以上、苦言を呈することはしなかった。
主君がそうと決めたのであれば、ただ従うだけ。アリアは『風』の女神に仕えている神官戦士なのだから。
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