異世界召喚されて捨てられた僕が邪神であることを誰も知らない……たぶん。

レオナール D

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139.勝者宣言だよ

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「勝者……ドワーフの戦士エンジェ!」

 審判役のドワーフが勝利宣言をして、武闘大会の覇者が決まった。
 ミスリルバレーにおいて開催された戦士達の祭演を制したのはドワーフの女戦士エンジェ。
 ウータは準優勝に留まり、惜しくも優勝を逃したのである。

「ま、そうなるよな」

「やっぱり、最強の戦士の栄誉はドワーフにこそ相応しい!」

「人間族の小僧も頑張っていたけどな! 戦士の健闘に乾杯だ!」

 観客席にいたドワーフ達が「ガハハハハッ!」と得意げに笑って、嬉しそうに酒を呷る。
 自分達と同じドワーフが勝利したことに喜び、安堵しているようだ。
 この大会はドワーフのための戦い。他種族の参加も認められているが……彼らが優勝することなど想定すらしていない。
 決勝戦までウータが進んだことには内心でハラハラとしていたが……それでも、最後にはドワーフが勝ってくれたことに胸を撫で下ろしているようだ。

「君……何故、わざと負けたんだ!」

 一方で、困惑しているのは会場の真ん中で勝利宣言された女……エンジェである。
 エンジェは負けたと思った。ウータに背後に回り込まれ、ナイフが突き出された瞬間に。
 しかし、ウータはナイフを捨てた。おかげでエンジェは勝利することができたのである。

「君は勝っていた……ナイフを捨てなければ。そのまま私の背中を刺していれば……!」

「うーん、別にどっちでも良かったからかなあ?」

 ウータはエンジェによって斬り飛ばされた指を拾いながら、本当にどうでもよさそうに言う。
 のんびりとした表情には、決勝戦で敗北したことも、指が落とされたことすら意に介した様子はない。

「僕はドワーフのお姉さんみたいに絶対に勝たなくちゃいけない理由はないからねえ。何というか……ただの気まぐれだよ」

 言いながら、ウータが拾った指をポリポリと口に入れた。
 まるでスナック菓子でも食べるかのように自分の指を食べている。
 すると……欠損したはずの指が生えてきて、何事もなかったかのように修復した。

「『土』の女神には会いたかったけど……まあ、他の方法を使うことにするよ。優勝はお姉さんで良いから」

「それは……!」

「それとも……優勝を辞退するのかな? できるのかな?」

「…………!」

 エンジェが唇を噛んで、黙り込む。
 辞退だなんてできるわけがない。
 ここまでこじつけるのに……女神アースまでたどり着くまでに、どれだけの時間と労力を払ったのかわからない。
 エンジェにはどうしても、アースに会わなければいけない理由があるのだ。

「だから、女神には君が会ってきたら良いよ。よろしく伝えておいてね」

「…………」

 ウータがエンジェの肩を親しげに叩いた。
 エンジェは複雑そうにウータを見つめていたが……やはり、辞退はしなかった。
 ウータは「それでいい」と穏やかな笑顔で首肯する。

「それでは、授賞式に移行します。優勝者エンジェ選手、表彰台の方へどうぞ」

「ああ……」

 審判に促されて、エンジェが表彰台に上る。
 勝者へのインタビューが始まってしまい、これ以上、ウータと問答する事はできなくなった。

「さて……それじゃ、ご飯にでも行こっかなー」

 そんな彼女を後目に、ウータはステラを誘って食事に行くべく会場から出て行ったのであった。
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