異世界召喚されて捨てられた僕が邪神であることを誰も知らない……たぶん。

レオナール D

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138.決着だね

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「参ったなあ……あんまり、そういう顔をしないで欲しいなあ」

 後方に跳んで攻撃を回避しながら、ウータが困った様子でつぶやいた。

「ヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」

 エンジェが次々と斬撃を繰り出してくる。
 大剣のわりに迅い。とにかく速い。
 ウータはそれを紙一重で回避するが、掠っただけでも致命傷に違いない。

「まあ、僕は死なないけど……それはともかく、いったいどうしてそんなに頑張るのかなあ」

 ウータは基本的に淡白で他人に対する興味が薄い。
 だが……この世界にやってきてからというもの、少しだけ他者とのかかわり方が変わってきていた。

「昔の僕だったら、会ったばかりの人のことなんてどうでも良かったのにね」

 ウータは圧倒的な力を持っているが、それは自分とごく限られた人間のために振るわれる。

 人間として自分を産んで、育ててくれた両親。
 幼い頃から近所で一緒に生活してきた四人の幼馴染。
 それと祖父母くらいのものだろうか。ウータにとって大切と呼べる人間は。
 それ以外の人間はどうでも良い。嫌いだったら避けるし、邪魔だったら殺す……ただそれだけのことである。

 だが……異世界にやってきて、そんな状況に変化が訪れてきていた。
 まずはステラが大切な人として加わった。
 最初はビーフシチューなどを作らせるための料理人のはずだったのだが、いつの間にか大切な人間のカテゴリーに入っている。
 ステラ以外にも、大切とは言えないまでも親しみや同情を覚えた人間はいた。
 名前を憶えていない程度の関わり。袖がすれ違ったくらいの気持ちであったが……助けてあげたいと思える相手はいたのだ。

「僕は僕で変わっているってことかな? 変だよねえ」

「ハアッ!」

 エンジェがミスリルの大剣を振った。
 ウータが頭を引っ込めて横薙ぎの斬撃を回避して、少しだけおかしそうに失笑する。

「何千年、何万年も不変不滅で生きてきた僕が変わったって? たった十五、六年ぽっちの年月で。面白いなあ、これが人間ってやつなのかな?」

「さっきから、何をブツブツと話している!? やる気がないのならさっさと降参しなさい!」

「そうだねえ、ちょっとはやる気を出さないとね」

 ウータがエンジェの懐にするりと潜り込んで、相手の胸にそっと手を当てた。

「ッ……!」

 その瞬間、エンジェの身体が後ろに吹っ飛んだ。
 まるでトラックに撥ね飛ばされたように会場を転がっていくが、エンジェは大剣を手放すことなく、すぐに起き上がって体勢を整える。

「けほっ、けほっ……使わないのね、ミスリルのナイフ」

「あー、うん。武器を使うのは苦手でね」

「そう……でも、この戦いでは反則よ。ちゃんと武器を使って戦いなさい」

 言いながら、ステラが強く地面を踏みつけた。
 すると……会場の地面がひび割れる。隆起した地面はそのままいくつもの岩石となり、空中に舞い上がった。

「わっ! すごい!」

「それはどうも……ありがとうっ!」

 エンジェが跳躍して、会場内を縦横無尽に飛び回る。
 浮き上がった岩石を足場にして立体的に移動し、ウータの目を翻弄させた。

「うーん、すごいなあ。これだけの技……きっといっぱい訓練とかしたんだろうね」

 そこまでする目的は何だろう。
 やはり、この大会で優勝して『土』の女神アースに会うことだろうか?
 そこまでする理由がエンジェにはあるというのか……ウータは少しだけ興味が惹かれる。

「もらった……!」

 そして……上下左右に飛び回っていたエンジェがウータの背後を獲った。
 無防備な背中に斬撃を叩き込もうとするが、ウータの姿が消える。

「なっ……!」

「後ろだよ」

 ウータは転移して、反対にエンジェの背中に回った。
 右手にはミスリルのナイフ。これを振り下ろせば勝負あり……ウータの勝ちである。

「クウッ……!」

 エンジェが身体を捻って回転させ、ウータがナイフを突き出す前に斬り払おうとした。

「…………」

「ヤアアアアアアアアアアアアッ!」

 ウータが速いか、エンジェが速いか。
 最後の交錯。勝負の一瞬。
 長い武闘大会の覇者を決定づける互いの一閃。

「やーめた」

 それはあまりにもあっさりと終わった。
 ウータがどうでも良さそうにつぶやいたかと思うと、ナイフを放り捨てたのだ。

「なんか、飽きちゃったかも。別に負けてもいいか」

「へ……?」

 エンジェが間抜けな声を漏らしながら、大剣を振り抜いた。
 丸腰になったウータを見て斬撃を逸らそうとするが……すでに遅い。

「あ、痛い」

「ッ……!?」

 エンジェの剣がウータの右手……その五指を斬り飛ばし、パラパラと冗談のように切断された指が地面に落ちたのである。
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