異世界召喚されて捨てられた僕が邪神であることを誰も知らない……たぶん。

レオナール D

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133.エルフのお姉さんは強いよ

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「わっ」

「ハアッ!」

 試合が始まるや否や、繰り出されてくる刺突。
 心臓めがけて真っすぐ突き出されたレイピア。命中すれば、一人の人間を確実に絶命させるであろう一撃である。

「ビックリした……お姉さん、速いんだね」

 だが……ウータは次の瞬間にはアリアの背後に回り込んでいた。
 相手を上回る凄まじいスピードで移動した……わけではなく、転移をしただけである。

「えいっ」

 そして、ミスリルのナイフで無防備な背中を斬りつける。
 だが……アリアの身体が刺突した勢いのまま前方に転がって、ウータのナイフを回避した。

「あ、外しちゃった。やっぱり速いなあ」

「驚きました」

「ん?」

「転移魔法を使えるのですね。卓越した魔法使いでしたか」

 アリアが身体に付着した砂を払いながら、ウータの核心を突く。

「いや、違うよ? 残像だよ。ざんぞー」

「隠さずとも構いませんよ……まあ、確かに武術メインの試合では責められるかもしれませんけど、私は気にしませんわ」

 アリアが美貌に微笑みを湛えながら、チロリと赤い唇を舐める。

「むしろ……こちらも遠慮せずに済んで、助かりますわ!」

「へ……?」

「チイッ!」

 アリアがレイピアを振る。
 すると……ウータの頬がわずかに斬り裂かれて、血が飛び散った。
 ウータがいるのは間合いの外。剣が届くような距離ではないというのに。

「風の魔法……じゃなくて、空間転移かな?」

「ご名答!」

 アリアが何度も何度もレイピアを振った。
 ウータの周囲にいくつもの斬撃が生じて、手足を斬り裂いていく。
 アリアもまた空間魔法の使い手らしく、自分が振ったレイピアの斬撃だけを転移させているのである。

「へえ……面白いなあ。こんな使い方もあるんだねえ」

 どうにか紙一重で転移する斬撃を回避しながら、ウータが感心した様子で言う。
 転移に関して、ウータは自分こそが第一人者であると思っていたが……こんな使い方は思いつかなかった。

「創意工夫だね。人間の知恵か」

「私は人間ではなく、エルフですけどねっ!」

「わあっ!」

 一際、強烈な刺突が繰り出された。
 ウータは転移を発動させて移動して、再び心臓を貫こうとした一撃を躱した。

「そこですわ!」

「ッ……!」

 だが……間髪入れずに、アリアがレイピアを振るう。
 移動先に斬撃が飛ばされて、ウータの肩から腰までを深々と斬り裂いた。

「痛っ……!」

「どうですか、私の『次元斬』は? 降参するのなら今のうちですわよ」

「『次元斬』っていうんだね、この技。格好いい名前を付けるじゃないか。まるで中学二年生がマンガ読みながら考えたみたいな名前だね」

「何を言っているのかは知りませんけど、誉め言葉として受け取っておきますわ……それで、降参なさるのですか?」

 ウータの受けた傷は普通の人間であれば、明らかな致命傷である。
 立っているのが不思議な怪我を負ったウータに向けて、アリアが最後通牒のように突きつけてきた。

「うーん……降参はちょっとできないかなあ。これまでの苦労が水の泡になっちゃうし。目的が果たされないのは困るかなあ」

 とはいえ……やはり、ウータは邪神である。
 一般人にとっての致命傷も、ウータにとっては転んで擦りむいたという程度の感覚でしかなかった。
 当然ながら戦闘続行を宣言すると、アリアが目を細めて冷たい眼差しになる。

「それでは……こちらも全力を出させていただきますわ!」

 そして、冷たい目から一転して熱い目に。
 嵐のような斬撃を繰り出し、ウータに飛ばしてきた。

「…………」

 絶え間なく飛んでくる斬撃。
 ウータの周りの地面が斬り裂かれ、ウータ自身も服がズタズタ。身体に無数の裂傷が刻まれて血が飛び散った。

「うん、痛いね」

「なっ……!」

 だが……ウータは得に気にした様子もなく、スタスタとアリアに向かって歩いていく。
 その気になれば、転移で回避することだってできたはず。
 実際、アリアもウータが転移するものだと思って、対策を頭の中で練っていた。
 それなのに散歩するような足取りで近づいてくるウータに、反応が遅れてしまう。

「えいっ」

「しまっ……!」

 気づいたときには、もう遅かった。
 血まみれになったウータが拳を振るい、アリアの腹部を殴りつけた。
 中肉中背の体格とは裏腹に強力な打撃。まともに喰らってしまったアリアの身体が『く』の字に折れて、そのまま崩れ落ちる。

「ミスリルの武器……使っていませんわよ……」

「あ、しまった」

 アリアが気絶前に残した最後の言葉。
 そういうルールであったことを思い出すウータであったが……人間とエルフの戦い、審判にとって消化試合であるそれで細かい部分は指摘されなかった。

「勝者……人間族のウータ選手」

 審判がどうでも良さそうに、ウータの勝利宣言をした。
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