異世界召喚されて捨てられた僕が邪神であることを誰も知らない……たぶん。

レオナール D

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128.第四試合だよ

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 そして、翌日になった。
 武闘大会四回戦。
 ウータの対戦相手は同じ人間、それも若い女性だった。

「ハイハーイ、お立会いのみなさーん! 今日もショーの始まりですよー♪」

 観客に向かって手を振っているのは、ピエロのメイクをしている女性である。
 メイクのせいで正確な年齢はわからないが、おそらく、二十代前半ほどだろう。
 これから戦うというのに、ピエロの女性は観客に愛想を振りまいて、投げキッスまでしていた。

「あれ? もしかして、道でクマさんと戦っていたピエロさんかな?」

「あ、見ていてくれたんですねー。嬉しいですよー」

 ピエロの女性が華やいだ声を上げる。

「私の名前はダニーです! ご覧の通りに人間族なんですけど、生まれも育ちもミスリルバレーですよー?」

「あ、そうなんだ」

「はい。養父母がドワーフでして、大道芸人として育てられたんです。今後とも御贔屓によろしくお願いしますねー?」

「僕はこの町に暮らしているわけじゃないから、あんまりよろしくする機会はないと思うけどね。町から出るまではよろしく頼むよ」

 これまでの三人の対戦相手とはうって違い、和やかな雰囲気である。今から戦うとは思えないような暢気な会話だった。

「ちなみにさ……これは興味本位で聞くことだけど、もしかして君もジャラジャラした奴を着けられたりしたのかな?」

 ウータが自分の腕を指差した。
 昨日の試合では、そこに魔法封じの手枷を嵌められていた。
 本日はそれはない。何故だかわからないが……審判から嵌めろと言われなかったのだ。

「ああ、あの手枷ですねー。アレはドワーフと別種族が戦う際に、着けるように言われるんですよー」

 ドワーフの女性……ダニーが声を潜めて、ウータに囁きかける。

「この大会はドワーフが主催しているものですから、忖度があるんですよね。人間などの別種族を勝たせないように、理由を着けて魔法を封じようとするんです」

「へえ、一回戦と二回戦では嵌めるように言われなかったけど?」

「それはたぶん、貴方が勝つとは思わなかったんでしょうね。対戦相手、強い人だったんじゃないですか?」

 ウータの対戦相手は『嵐切』と『石絶』。どちらも、ドワーフの間では有名な戦士のようだった。
 審判も観客も、誰もウータが勝つだなんて思っていなかった。だからこそ、魔封じの手枷は必要ないと思われていたのだろう。

「私も貴方も人間同士ですから、ハンデは必要ないってことですよ。本当にズルッちいですよねー」

「そうだねえ、僕もそう思うよ。ズルイよねえ」

 ウータとダニーがひそひそとそんな会話をする。
 それに気づいているかどうかは知らないが、審判のドワーフが両手を上げた。

「それでは、これより四回戦を開始します。所定の位置まで下がってください」

「はーい」

「ハイハーイ」

 二人が距離を取って、向かい合う。
 ウータが手にしているのはミスリル製のナイフ。ダニーは武器を取り出していない。

「それでは……試合開始!」

「ハイッ!」

 試合開始が告げられるや、ダニーが右手を振った。
 何も握っていなかったはずの右手であったが、その袖からするりと銀光が走る。

「あ……」

 ダニーの右袖から飛び出してきた細いナイフが稲妻のように飛んでいき、ウータの額に突き刺さった。
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