異世界召喚されて捨てられた僕が邪神であることを誰も知らない……たぶん。

レオナール D

文字の大きさ
上 下
93 / 122
連載

126.第三試合だよ

しおりを挟む
 前の試合で魔法の使用について注意を受けて、魔法封じの手枷まで嵌められたウータであったが……次の対戦相手は、両手にミスリルのサーベルを構えたドワーフだった。
 そのドワーフはこれまでの対戦相手と同じように、ずんぐりむっくりとした体型なのだが、ヒゲが無くてツルツルの顔をしている。

「ヒャッハアッ! 貴様が勝ち進んでいる人間の小僧かあ!」

 相手はウータを見るや、ニヤリと笑った。

「我が宿敵である『嵐切』を倒したそうだな。まあ、見事だと褒めてやろう。だが……この俺、『土偶舞台』のジャッグス様に勝てると思うなよお?」

「あれ? オジサン、ドワーフなのにヒゲがないんだね?」

 開口一番。
 目の前のヒゲ無しドワーフの言葉を無視して、ウータが思ったことを口にする。
 特に意味があっての言葉ではない。本当に頭に浮かんだことが口からこぼれ出ただけなのだが……その言葉にヒゲ無しドワーフが大きく目を見開き、クシャリと顔面を歪めた。

「なっ……き、貴様っ! 人が気にしていることをいけしゃあしゃあと……!」

「え?」

「ドワーフにとってヒゲが無いというのは最大の侮辱……なるほど、戦いが始まる前に挑発して、こちらの冷静さを奪うつもりか! 人間族め、何という卑劣なやり方をするんだ……!」

 ウータは考えたことをフィルターに通さず口にしただけなのだが、それは思いの他に相手の胸を抉ったらしい。
 ヒゲ無しドワーフは怒りの形相になり、両手に構えたサーベルをゆらゆらと振る。

「だが……貴様はすぐにその愚かしさのツケを支払うことになる。この俺を侮辱したこと、すぐに後悔させてやろう!」

「えっと……気にしてたのなら謝るけど……その、ヒゲが無いとか言ってごめ……」

「試合開始!」

 ウータが謝罪の言葉を口にしようとするが、それよりも先に審判が戦いの始まりを告げる。
 ヒゲ無しドワーフはウータが構えるのを待つことなく、地面を蹴って襲いかかった。

「ヒャッハアッ!」

「わっ」

 二本のサーベルが振り下ろされる。
 ウータは軽く後ろに飛んで、左右の刃を回避した。

「その動き……多少はできるようだなあ! 『嵐切』をやっただけのことはあるぜえ!」

「あ、うん。それよりもさっきはごめ……」

「だが……素早さだけが戦いじゃねえ! こういうやり方もあるんだよ!」

「え……わっぷ!」

 突然、誰かに頭を殴られた。
 ヒゲ無しドワーフは間違いなく、前にいるのだが……ウータは驚いて振り返る。

「え? 人形?」

 いつの間にか背後にいてウータを殴り飛ばしたのは、土で象られた人形だった。
 おまけに、人形は一体だけではない。地面がせり上がって、ニ体、三体とどんどん数を増やしていく。

「我が土魔法……『土偶舞台』に酔いしれるが良い! ヒャッハア!」

「いや、酔いしれるのは別に良いんだけど……こんなに魔法を使っても良いの? 反則じゃない?」

 大規模な魔法の使用は禁止する。
 それを破ったら反則……ウータも事前に注意を受けていた。
 審判に視線を向けると、小馬鹿にしたような笑いが返ってきた。

「補助的な魔法の使用は問題ない。試合を続行する」

「え? 補助的って……どう見ても、そういうレベルじゃないと思うけど?」

 土人形はもう二十体以上にまで数を増やしており、試合会場を覆い尽くしている。
 これはどう考えても、武術の補助という次元を超えていた。

「いくぜえ! まだまだノっていくぜえっ!」

「わっ!」

 おまけに……土人形が姿を変えて、ヒゲ無しドワーフと同じ外見に変わってしまった。
 ヒゲ無しドワーフの本体が偽物に隠れており、誰が本物であるか一目ではわからない。

「ヒャハアッ! 死にやがれえ!」

 二十体を超えるヒゲ無しドワーフがウータめがけて、殺到してくる。
 同じ顔をした中年のおっさんが大量に襲いかかって来るのだから、ある種の恐怖映像だった。

「怖いなあ、勘弁してよね」

 ウータが嫌そうな溜息を吐いて、転移を発動させる。
 無数のヒゲ無しドワーフをすり抜けて、一体の前に移動した。

「なっ……!」

「君が本物だよね? 魔力が駄々洩れだよ?」

 確信を込めて、訊ねる。
 ウータは目の前にいる男こそが本物であるとわかっていた。
 二十体の土人形は均等に魔力が割り振られているのに対して、本体だけは疎らなのだ。
 視る目を持った人間にしてみれば、すぐに本体だと見破ることはできる。

「クッ……何故だ!」

 ヒゲ無しドワーフが慌てた様子で左右のサーベルを振ってくる。
 一方のサーベルは身体を伏せて回避。もう一方が反対側から襲ってくるが……腕に嵌めた魔封じの枷で受け止めた。

「グッ……!?」

「いやあ、金属製の手枷を嵌めておいて助かったなあ。コレが無かったら斬られていたよお」

 嫌味の矛先は目の前にいる対戦相手ではなく、審判役のドワーフである。

「これが無かったら負けていた。これを嵌めろと命令してくれた、どこかの誰かさんに超感謝だね」

「ッ……!」

 審判役が悔しそうに表情を歪めるのを横目に、ウータは手に持っていたナイフを繰り出した。
 ミスリル製のナイフがヒゲ無しドワーフの腹部を深々と抉り、地面に倒す。

「グハッ……」

「はい、終わり」

 土人形が崩れていき、腹から血を流したヒゲ無しドワーフが気絶した。

「僕の勝ち。この手枷のせいで魔法は使えないはずだし、文句はないよね? さっきのも転移とかじゃなくて、超速く走っただけだよ?」

「…………勝負あり」

 煽るウータの言葉に、審判は嫌そうな顔で決着を告げる。
 その顔だけでメシウマだ。
 今夜は美味しい晩御飯が食べられそうだと、ウータはニッコリと笑ったのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜

早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。 食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した! しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……? 「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」 そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。 無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!

Hしてレベルアップ ~可愛い女の子とHして強くなれるなんて、この世は最高じゃないか~

トモ治太郎
ファンタジー
孤児院で育った少年ユキャール、この孤児院では15歳になると1人立ちしなければいけない。 旅立ちの朝に初めて夢精したユキャール。それが原因なのか『異性性交』と言うスキルを得る。『相手に精子を与えることでより多くの経験値を得る。』女性経験のないユキャールはまだこのスキルのすごさを知らなかった。 この日の為に準備してきたユキャール。しかし旅立つ直前、一緒に育った少女スピカが一緒にいくと言い出す。本来ならおいしい場面だが、スピカは何も準備していないので俺の負担は最初から2倍増だ。 こんな感じで2人で旅立ち、共に戦い、時にはHして強くなっていくお話しです。

(完結)魔王討伐後にパーティー追放されたFランク魔法剣士は、超レア能力【全スキル】を覚えてゲスすぎる勇者達をザマアしつつ世界を救います

しまうま弁当
ファンタジー
魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。