異世界召喚されて捨てられた僕が邪神であることを誰も知らない……たぶん。

レオナール D

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126.第三試合だよ

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 前の試合で魔法の使用について注意を受けて、魔法封じの手枷まで嵌められたウータであったが……次の対戦相手は、両手にミスリルのサーベルを構えたドワーフだった。
 そのドワーフはこれまでの対戦相手と同じように、ずんぐりむっくりとした体型なのだが、ヒゲが無くてツルツルの顔をしている。

「ヒャッハアッ! 貴様が勝ち進んでいる人間の小僧かあ!」

 相手はウータを見るや、ニヤリと笑った。

「我が宿敵である『嵐切』を倒したそうだな。まあ、見事だと褒めてやろう。だが……この俺、『土偶舞台』のジャッグス様に勝てると思うなよお?」

「あれ? オジサン、ドワーフなのにヒゲがないんだね?」

 開口一番。
 目の前のヒゲ無しドワーフの言葉を無視して、ウータが思ったことを口にする。
 特に意味があっての言葉ではない。本当に頭に浮かんだことが口からこぼれ出ただけなのだが……その言葉にヒゲ無しドワーフが大きく目を見開き、クシャリと顔面を歪めた。

「なっ……き、貴様っ! 人が気にしていることをいけしゃあしゃあと……!」

「え?」

「ドワーフにとってヒゲが無いというのは最大の侮辱……なるほど、戦いが始まる前に挑発して、こちらの冷静さを奪うつもりか! 人間族め、何という卑劣なやり方をするんだ……!」

 ウータは考えたことをフィルターに通さず口にしただけなのだが、それは思いの他に相手の胸を抉ったらしい。
 ヒゲ無しドワーフは怒りの形相になり、両手に構えたサーベルをゆらゆらと振る。

「だが……貴様はすぐにその愚かしさのツケを支払うことになる。この俺を侮辱したこと、すぐに後悔させてやろう!」

「えっと……気にしてたのなら謝るけど……その、ヒゲが無いとか言ってごめ……」

「試合開始!」

 ウータが謝罪の言葉を口にしようとするが、それよりも先に審判が戦いの始まりを告げる。
 ヒゲ無しドワーフはウータが構えるのを待つことなく、地面を蹴って襲いかかった。

「ヒャッハアッ!」

「わっ」

 二本のサーベルが振り下ろされる。
 ウータは軽く後ろに飛んで、左右の刃を回避した。

「その動き……多少はできるようだなあ! 『嵐切』をやっただけのことはあるぜえ!」

「あ、うん。それよりもさっきはごめ……」

「だが……素早さだけが戦いじゃねえ! こういうやり方もあるんだよ!」

「え……わっぷ!」

 突然、誰かに頭を殴られた。
 ヒゲ無しドワーフは間違いなく、前にいるのだが……ウータは驚いて振り返る。

「え? 人形?」

 いつの間にか背後にいてウータを殴り飛ばしたのは、土で象られた人形だった。
 おまけに、人形は一体だけではない。地面がせり上がって、ニ体、三体とどんどん数を増やしていく。

「我が土魔法……『土偶舞台』に酔いしれるが良い! ヒャッハア!」

「いや、酔いしれるのは別に良いんだけど……こんなに魔法を使っても良いの? 反則じゃない?」

 大規模な魔法の使用は禁止する。
 それを破ったら反則……ウータも事前に注意を受けていた。
 審判に視線を向けると、小馬鹿にしたような笑いが返ってきた。

「補助的な魔法の使用は問題ない。試合を続行する」

「え? 補助的って……どう見ても、そういうレベルじゃないと思うけど?」

 土人形はもう二十体以上にまで数を増やしており、試合会場を覆い尽くしている。
 これはどう考えても、武術の補助という次元を超えていた。

「いくぜえ! まだまだノっていくぜえっ!」

「わっ!」

 おまけに……土人形が姿を変えて、ヒゲ無しドワーフと同じ外見に変わってしまった。
 ヒゲ無しドワーフの本体が偽物に隠れており、誰が本物であるか一目ではわからない。

「ヒャハアッ! 死にやがれえ!」

 二十体を超えるヒゲ無しドワーフがウータめがけて、殺到してくる。
 同じ顔をした中年のおっさんが大量に襲いかかって来るのだから、ある種の恐怖映像だった。

「怖いなあ、勘弁してよね」

 ウータが嫌そうな溜息を吐いて、転移を発動させる。
 無数のヒゲ無しドワーフをすり抜けて、一体の前に移動した。

「なっ……!」

「君が本物だよね? 魔力が駄々洩れだよ?」

 確信を込めて、訊ねる。
 ウータは目の前にいる男こそが本物であるとわかっていた。
 二十体の土人形は均等に魔力が割り振られているのに対して、本体だけは疎らなのだ。
 視る目を持った人間にしてみれば、すぐに本体だと見破ることはできる。

「クッ……何故だ!」

 ヒゲ無しドワーフが慌てた様子で左右のサーベルを振ってくる。
 一方のサーベルは身体を伏せて回避。もう一方が反対側から襲ってくるが……腕に嵌めた魔封じの枷で受け止めた。

「グッ……!?」

「いやあ、金属製の手枷を嵌めておいて助かったなあ。コレが無かったら斬られていたよお」

 嫌味の矛先は目の前にいる対戦相手ではなく、審判役のドワーフである。

「これが無かったら負けていた。これを嵌めろと命令してくれた、どこかの誰かさんに超感謝だね」

「ッ……!」

 審判役が悔しそうに表情を歪めるのを横目に、ウータは手に持っていたナイフを繰り出した。
 ミスリル製のナイフがヒゲ無しドワーフの腹部を深々と抉り、地面に倒す。

「グハッ……」

「はい、終わり」

 土人形が崩れていき、腹から血を流したヒゲ無しドワーフが気絶した。

「僕の勝ち。この手枷のせいで魔法は使えないはずだし、文句はないよね? さっきのも転移とかじゃなくて、超速く走っただけだよ?」

「…………勝負あり」

 煽るウータの言葉に、審判は嫌そうな顔で決着を告げる。
 その顔だけでメシウマだ。
 今夜は美味しい晩御飯が食べられそうだと、ウータはニッコリと笑ったのであった。
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