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122.損をしたよ
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「よっと」
宿屋に戻ってきたウータは、一緒に転移してきたステラをベッドに放り投げる。
「はふ……」
ステラはウータの悪戯とヒーリングフィッシュの施術によって、いまだに気が抜けてしまっている。
この様子では、今から食事に出るのは不可能だろう。
「宿屋の人にご飯をお願いしてくるね。何か食べたいものはあるかな?」
「はふう……」
「ハフウ……知らない食べ物だね。なんちゃって」
軽く冗談をかましてから、ウータはステラを残して部屋から出ていった。
受付カウンターに行くと、宿屋の女将が帳簿をつけていた。
「すみませーん。ご飯くださーい」
「え、ええっ!? アンタ、いつ帰ってきたんだい!?」
宿屋の奥から現れたウータに、女将が驚いてペンを落とす。
「いや、さっき帰ってきましたけど?」
「さっきって……いやいやいやいやっ! アタシ、ずっと受付にいたからね!? やめろって言ったのに、また転移魔法を使っただろう!?」
「そんなことしませんって。それよりも……ご飯の用意をお願いしても良いですか? 二人分、お願いします」
ウータが注文すると、女将は疑うような目を向けながらも「あいよ」と了承してくれた。
そんな時、宿屋の入口が開いてドワーフのエンジェが入ってきた。
「ただいま、戻りました」
「エンジェちゃん、無事だったのかい!」
「ええ、ちゃんと勝ったわ」
エンジェが腰に提げた剣の柄を撫でて、勝利宣言をした。
特に怪我らしい怪我もない。女将は安堵した様子で、「食事の支度をしてくるよ」と厨房の方に消えていった。
「ああ、お姉さんも今日が試合だったんだね」
「ええ、貴方もそうだったのね。『嵐切』に勝ってしまうなんてすごいじゃない」
「あの人、そんなに強い人だったのかな? そうは見えなかったけど……?」
ウータにとって、本日の対戦相手である『嵐切』のデューラはニワトリのような頭をしている印象しかなかった。
別に強そうにも見えないし、試合のことよりも足湯を邪魔されたことの方が印象に残っている。
「彼は優勝経験こそないものの、前回の武闘大会ではベストエイトに入ったほどの実力者よ。実際、賭けのオッズも貴方が二百倍だったわよ」
どうやら、武闘大会の試合の裏では賭けなども行われているらしい。
ウータのオッズが二百倍だというのなら、よほど期待されていなかったのだろう。
「ああ、失敗したなあ。そんな賭けがあるのなら、僕も賭けておけば良かったよ。せっかく、大金持ちになれるチャンスだったのに」
「出場者は賭けに参加できないわよ……まあ、パートナーの娘に代わりに賭けてもらえば済むことだけど」
「へえ、次からそうしよっかな?」
「残念だけど……次からはオッズがかなり下がると思うわよ」
エンジェが肩をすくめる。
「優勝候補だった『嵐切』を倒したんだから、貴方も次からはマークされるはずよ。惜しかったわね」
「なんだあ、そっかあ……」
ウータが肩を落とす。
もっと早く、賭けのことをちゃんと知っていれば良かった。
旅に必要な金を一気に稼ぐチャンスだったのに。
「もしも賭けるのなら、私にしておきなさい」
落ち込んだ様子のウータに、エンジェがそんなことを言う。
「私の対戦相手は無名選手だったから、まだノーマークなはずよ。次は私も優勝候補者と戦うし、かなりオッズは高くなるから」
「そうなんだね」
「ええ……順当に勝ち進んでいけば、貴方とは決勝で戦うことになるはずよ。まあ、お互いに勝ち残ればの話だけど」
エンジェが「それじゃあ」と手を振って、廊下の向こうに消えていく。
そんな彼女の背中を見送って……ふと、ウータは口にする。
「しまった……辛さ控えめってお願いするの、忘れてた……」
ウータは慌てて、厨房にいる女将に辛い物を抜いてもらうように注文しに行くのであった。
宿屋に戻ってきたウータは、一緒に転移してきたステラをベッドに放り投げる。
「はふ……」
ステラはウータの悪戯とヒーリングフィッシュの施術によって、いまだに気が抜けてしまっている。
この様子では、今から食事に出るのは不可能だろう。
「宿屋の人にご飯をお願いしてくるね。何か食べたいものはあるかな?」
「はふう……」
「ハフウ……知らない食べ物だね。なんちゃって」
軽く冗談をかましてから、ウータはステラを残して部屋から出ていった。
受付カウンターに行くと、宿屋の女将が帳簿をつけていた。
「すみませーん。ご飯くださーい」
「え、ええっ!? アンタ、いつ帰ってきたんだい!?」
宿屋の奥から現れたウータに、女将が驚いてペンを落とす。
「いや、さっき帰ってきましたけど?」
「さっきって……いやいやいやいやっ! アタシ、ずっと受付にいたからね!? やめろって言ったのに、また転移魔法を使っただろう!?」
「そんなことしませんって。それよりも……ご飯の用意をお願いしても良いですか? 二人分、お願いします」
ウータが注文すると、女将は疑うような目を向けながらも「あいよ」と了承してくれた。
そんな時、宿屋の入口が開いてドワーフのエンジェが入ってきた。
「ただいま、戻りました」
「エンジェちゃん、無事だったのかい!」
「ええ、ちゃんと勝ったわ」
エンジェが腰に提げた剣の柄を撫でて、勝利宣言をした。
特に怪我らしい怪我もない。女将は安堵した様子で、「食事の支度をしてくるよ」と厨房の方に消えていった。
「ああ、お姉さんも今日が試合だったんだね」
「ええ、貴方もそうだったのね。『嵐切』に勝ってしまうなんてすごいじゃない」
「あの人、そんなに強い人だったのかな? そうは見えなかったけど……?」
ウータにとって、本日の対戦相手である『嵐切』のデューラはニワトリのような頭をしている印象しかなかった。
別に強そうにも見えないし、試合のことよりも足湯を邪魔されたことの方が印象に残っている。
「彼は優勝経験こそないものの、前回の武闘大会ではベストエイトに入ったほどの実力者よ。実際、賭けのオッズも貴方が二百倍だったわよ」
どうやら、武闘大会の試合の裏では賭けなども行われているらしい。
ウータのオッズが二百倍だというのなら、よほど期待されていなかったのだろう。
「ああ、失敗したなあ。そんな賭けがあるのなら、僕も賭けておけば良かったよ。せっかく、大金持ちになれるチャンスだったのに」
「出場者は賭けに参加できないわよ……まあ、パートナーの娘に代わりに賭けてもらえば済むことだけど」
「へえ、次からそうしよっかな?」
「残念だけど……次からはオッズがかなり下がると思うわよ」
エンジェが肩をすくめる。
「優勝候補だった『嵐切』を倒したんだから、貴方も次からはマークされるはずよ。惜しかったわね」
「なんだあ、そっかあ……」
ウータが肩を落とす。
もっと早く、賭けのことをちゃんと知っていれば良かった。
旅に必要な金を一気に稼ぐチャンスだったのに。
「もしも賭けるのなら、私にしておきなさい」
落ち込んだ様子のウータに、エンジェがそんなことを言う。
「私の対戦相手は無名選手だったから、まだノーマークなはずよ。次は私も優勝候補者と戦うし、かなりオッズは高くなるから」
「そうなんだね」
「ええ……順当に勝ち進んでいけば、貴方とは決勝で戦うことになるはずよ。まあ、お互いに勝ち残ればの話だけど」
エンジェが「それじゃあ」と手を振って、廊下の向こうに消えていく。
そんな彼女の背中を見送って……ふと、ウータは口にする。
「しまった……辛さ控えめってお願いするの、忘れてた……」
ウータは慌てて、厨房にいる女将に辛い物を抜いてもらうように注文しに行くのであった。
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