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117.試合前は寂しいよ

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 そして、翌日。
 待ちに待った……否、待ってはいないが、武闘大会当日がやってきた。
 ウータは事前に指定されていた時間に会場であるコロシアムへと訪れて、受付を済ませてから控え室へと入る。

「うーん、ステラはこっちに入れないのかー」

 控室に入れるのは予選を突破した選手と、運営スタッフだけ。
 控え室には十数人の参加者が自分の順番を待っていたが……知り合いはいなかった。
 どうやら、ドワーフのエンジェとは試合の日程が異なるらしい。
 試合前のためか殺伐とした空気であり、誰かに話しかけられるような状況でもなかった。

「一人になるのは久しぶりだなー。寂しいなー」

 この世界にやってきてすぐに追放されて、幼馴染とは別行動になってしまった。
 それからしばらくは単独行動だったのだが……ステラが加わり、二人で行動するようになっている。
 こうして一人きりになってみると、どこか物足りない感じがして仕方がない。

「なんだあ? こんなところにガキがいやがるぞお!」

「うん? 僕のことかな?」

 そんな時、一人の男性が話しかけてきた。
 ニワトリのトサカのように赤い髪を逆立たせたドワーフの男である。
 ずんぐりむっくりとした体格の男性が、椅子に座って順番を待っているウータを見て嘲笑している。

「応援席と間違えたのかあ? ぼくう、ママのところまでついていってやろうかあ?」

「大丈夫だよ。僕も参加者だから間違っていないから」

「ハハッ、参加者だってよ! 人間族のガキが一丁前にほざいてやがるぜ!」

 トサカドワーフが腹を抱えて笑う。

「大方、金でも掴ませて予選を突破したんだろうが……本戦はそうもいかねえぜえ。悪いことは言わねえから、ママのところに帰りなよ!」

「うーん、帰れるのなら母さんのいる家に帰りたいけどね。ちゃんと帰るために大会に参加しなくちゃいけないんだよねー」

「ハア?」

「だから、気を遣ってくれてありがとう。僕、がんばるからねー」

 ウータはのんびりとした笑顔のまま、トサカドワーフに会釈をする。

「ブフッ!」

「ハハッ、ガキに揶揄われてやがる!」

「『嵐切』ともあろうものが情けねえ! ちっとも効いてねえじゃないか!」

 そんな二人のやり取りを見て、何故か他の参加者の中から笑い声が上がった。
『嵐切』と呼ばれていたトサカドワーフは顔を真っ赤にして、頭部に青筋を浮かべる。

「て、テメエ……よくも俺を虚仮にしてくれやがったな……!」

「コケ? やっぱり、ニワトリさんなのかな?」

「許さねえぞ! ぶっ殺してやる!」

 トサカドワーフがいきり立ち、背負っている大剣の柄に手をかける。
 しかし……すぐに控え室にいた運営スタッフが声を張り上げた。

「そこまでです! 参加者同士での私闘は禁じられています!」

「グッ……!」

「ルールを破れば反則となりますが……よろしいですか?」

「…………チッ」

 トサカドワーフが憎々しげに舌打ちをする。

「…………?」

 ウータは不思議そうに首を傾げるが、そんなとぼけた反応がかえって相手の怒りの火に油を注ぐ。

「テメッ……!」

「続いての参加者を読み上げます! 一回戦第三試合、東側は『嵐切』のデューラ様、西側は人間族のウータ様。それぞれの入場ゲートに移動してください!」

 スタッフが次の試合の参加者を読み上げる。

「あ、僕の番だ」

「ほう……おもしれえ。テメエが一回戦の相手かよ!」

 ウータに掴みかかろうとしていたトサカドワーフがニヤリと笑った。

「決着は試合でつけてやるから、覚えていやがれえ!」

「うん? わかった、覚えておくよ。コケコッコーのドワーフさん」

「マジでぶっ殺すう!」

 トサカドワーフが顔を真っ赤にして、ダンダンと地団太を踏んだ。

 ウータとトサカドワーフは案内に従って、それぞれの入場ゲートへと移動する。
 一方的に生まれた因縁。ウータに向けられる憎しみと悪意。
 ウータにとって初戦となる、その戦いの結果や如何に……!
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