異世界召喚されて捨てられた僕が邪神であることを誰も知らない……たぶん。

レオナール D

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116.ミスリルを買うよ

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 ウータとステラはミスリル製の武器を求めて、店をはしごしていた。

「ミスリルの武器ちょうだい。剣でもナイフでも槍でも何でも良いからさ」

「そんな適当な奴に可愛い武器が売れるか!」

「職人を舐めてんじゃねえぞ! 帰りやがれ!」

「お前みたいなガキにウチの武器が売れるわけないだろうが!」

「剣を振ってみろ……そんなへっぴり腰の奴にミスリルの武器を売れるかよ!」

 町にある武器屋を回っていくウータとステラであったが……ミスリル製の武器を売ってくれる人間は誰もいなかった。
 それというのも……ドワーフというのは職人気質の者達が多い。
 ミスリルという特殊な金属を加工できる者であればなおさらであり、まともに剣も振れないウータに自分の武器を売ることを拒んだのである。

「うーん……話が違うよね。武術大会に出場できれば、ミスリルの武器を売ってくれるんじゃなかったのかな?」

「えっと……何ででしょうねえ……」

 答えるステラは何とはなしに理由を察している。
 ウータはどう見ても、戦士や剣士ではない。
 塵化などの特殊な魔法を使えはするが……外見は普通の朴訥とした少年である。
 ウータが武闘大会に出場すると説明しても、誰も信じてくれない。
 信じてくれたとしても、活躍できるとはだれも思っていなかった。
 ろくに武器も扱えない人間に貴重なミスリル製の武器を売ったとなれば、宣伝どころかマイナスである。
 だからこそ、ドワーフの職人達は武器を売るのを拒んでいるのだった。

「このままだと、参加できなくなるねえ。『土』の女神に会えなくなっちゃうよ」

「困りましたね……どうすればいいんでしょう?」

「いっそのこと、ミスリルの鉱石を採ってきて武器を作っちゃうとか? あ、石を鈍器として使っても良いかも!」

「……たぶん、認めてくれないと思いますよ。私達に武器を作る技能は無いですし、間に合わないですよ」

 ステラが首を横に振った。
 試合は明日である。時間がなかった。
 他の出場者は予選突破が決まった段階で武器を用意しているのだが、ウータ達は適当に遊び過ぎていたようだ。

「でも……武器以外を購入するというのは良いかもしれませんね」

「うん? どういうことかな?」

「武器は売ってくれませんでしたけど……お店には解体用のナイフとかもありました。それだったら、武器を扱った経験が無くても購入できるはずです」

「あ、そっか」

 この町に来る時に遭遇したワイバーンのように、固い魔物を解体するためにミスリルナイフを使用する人間がいる。
 そういったナイフであれば、普通に購入する人間はいるはず。ウータでも売ってくれるはずだ。

「解体用のナイフでも、武器だと言い張って大会に参加することはできると思います。それを買っていきましょう」

「うん、良いね」

 ウータがステラの意見を採用した。

「それじゃあ、ナイフを買っちゃおうか……大会が終わったらステラが包丁の代わりに使えば良いし、一石二鳥だね!」

「…………」

 ステラが何とも言えない表情で黙り込んだ。
 大会で武器として使用するということは、人間を刺したり斬ったりするということである。
 人の血を浴びたナイフで肉や魚を切って料理する……ゾッとする行為だった。

「……調理用の包丁は別に購入しますね。買わせてください」

「別に良いけど? 僕のお古は嫌なのかな?」

「お古がどうとかではなく、生理的な問題ですね。洗っても落ちない汚れというものはあるんですよ?」

「…………」

 ステラの言葉に、ウータは不思議そうな表情で首を傾げた。

 その後、二人は適当な武器屋でミスリル製の解体ナイフを購入した。
 やはり武器と比べるとハードルは低かったらしくて、武闘大会のことなど特に確認されることなくナイフを入手することができたのである。
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