上 下
73 / 116
連載

106.ドワーフのお姉さんと一緒だよ

しおりを挟む
 エンジェと合流したウータとステラはダンジョンの奥に向かっていった。
 当初の目的は物見遊山。たんに観光のつもりで訪れただけだったが、現在はエンジェの目的であるミスリル鉱石の採取が加わっている。

「ミスリルが欲しいって話だけどさ。だったら、その辺を掘ったら出てくるんじゃない?」

 ダンジョンの通路を進みながら、ウータがふと訊ねる。
 ここは坑道なのだ。周囲の壁を掘れば、鉱石が出てくるのではないか。

「無理よ。ダンジョンの壁や床は破壊できないから」

 エンジェが首を振って答えた。
 神の力によって作り出されたダンジョンは人間の力では破壊できないらしく、壁の中でキラキラと光っている石もただの飾り。取り外して持って帰ることはできないのだ。

「へえ、そうなんだ…………あ」

 ウータが試しに壁に触れて、塵化を発動させると……壁の一部が粉々になって塵になる。
 塵にした部分は黒く何もない虚空が生じており、壁の向こうには何も無かった。

「どうかしたの?」

「あ、ううん。何でもないよー」

 ウータがさっと壊した壁を背中に隠す。
 よくわからないが、壁を壊してしまったことは秘密にすることにした。
 もしかしたら、怒られてしまうかもしれないと思ったのだ。

「ウータさん……」

 ステラにはバッチリと見られていたが……もちろん、彼女がばらすようなことはなかった。

「ダンジョンの奥に行くと、鉱石を採掘できるポイントがあるのよ。そのポイントにツルハシを振り下ろすと鉱石が出てくるわ。ミスリルが出るかどうかは運次第になるけれど……ポイントは一つではないから。いくつか当たれば、必要分は手に入れることができるはずよ」

 エンジェはウータが壊した壁には気がつくことなく、ダンジョンを先に先に歩いていく。
 ウータは「セーフ」とつぶやいてから、その後ろを追いかける。

「ダンジョンは奥に行けば行くほど、強い魔物が出てくるわ。くれぐれも気をつけて頂戴」

「うん、わかったよ……えいっ」

「ギイッ!」

 石の隙間から大きな百足が飛び出てきたが、ウータが射出した水のレーザーによって撃ち抜かれる。
 頭部を破壊された大百足が倒れて、ドロップアイテムを残して消滅する。

「すごいわね……貴方は凄腕の魔法使いなのね」

「たぶん、そうかな? 凄腕かどうかは知らないけどね」

「ウータさんはすごい人ですよ。ウータさんに比べると、私なんてまだまだです……」

 言いながら、さらに現れた大百足に向かってステラが白い炎を放った。
 魔法を無効化させる炎はダンジョンの魔物に対しては特攻。一撃で跡形もなく消し去る。

「……貴女も十分にすごいわよ。それにしても、ここで貴方達に会えたのは本当に幸運だったわ」

「ギャンッ!」

 エンジェが溜息交じりに剣を振る。
 岩の隙間に突き刺して……そこにいた魔物を串刺しにした。

「私は剣術にはそれなりに自信があるのだけど、魔法は不得意なのよ。ダンジョンはパーティーで潜り、お互いの弱点を補い合うのが基本なのだけど……それができる仲間もいなくってね。本当に助かるわ」

「喜んでもらえたのなら良かったよー」

「何か御礼を差し上げたいのだけど……何かあるかしら?」

「御礼? 別にいらないけど、強いて言うのなら……」

 何だろうか。
 ウータは考え込みながらエンジェの身体をじっと見て……。

「それじゃあ、おっぱ……」

「今度、町の案内をしてくれたら良いですよ!」

 ウータが何かを言いかけるが、ステラがそれに声を被せる。

「私達、闘技大会が終わるまではこの町に滞在するんです! 町の歴史や伝承、女神アースのことを学べるような場所があれば、是非とも紹介してください!」

「それくらいで良いのなら……わかったわ」

 エンジェが頷いた。
 新しく現れた魔物を剣で一閃して、少女の外見には似合わない落ち着いた笑みを浮かべる。

「この町は私の生まれ故郷だから、案内だったらいくらでもできるわ。知る人ぞ知る隠しスポットを教えてあげるから、期待していて頂戴」

「それは良かったです……ねえ、ウータさん?」

「うん、良かったねー」

 笑顔で訊ねるステラに、ウータもよくわからないままに笑顔を返しておくのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

【短編】追放した仲間が行方不明!?

mimiaizu
ファンタジー
Aランク冒険者パーティー『強欲の翼』。そこで支援術師として仲間たちを支援し続けていたアリクは、リーダーのウーバの悪意で追補された。だが、その追放は間違っていた。これをきっかけとしてウーバと『強欲の翼』は失敗が続き、落ちぶれていくのであった。 ※「行方不明」の「追放系」を思いついて投稿しました。短編で終わらせるつもりなのでよろしくお願いします。

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

豊穣の巫女から追放されたただの村娘。しかし彼女の正体が予想外のものだったため、村は彼女が知らないうちに崩壊する。

下菊みこと
ファンタジー
豊穣の巫女に追い出された少女のお話。 豊穣の巫女に追い出された村娘、アンナ。彼女は村人達の善意で生かされていた孤児だったため、むしろお礼を言って笑顔で村を離れた。その感謝は本物だった。なにも持たない彼女は、果たしてどこに向かうのか…。 小説家になろう様でも投稿しています。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

(完結)足手まといだと言われパーティーをクビになった補助魔法師だけど、足手まといになった覚えは無い!

ちゃむふー
ファンタジー
今までこのパーティーで上手くやってきたと思っていた。 なのに突然のパーティークビ宣言!! 確かに俺は直接の攻撃タイプでは無い。 補助魔法師だ。 俺のお陰で皆の攻撃力防御力回復力は約3倍にはなっていた筈だ。 足手まといだから今日でパーティーはクビ?? そんな理由認められない!!! 俺がいなくなったら攻撃力も防御力も回復力も3分の1になるからな?? 分かってるのか? 俺を追い出した事、絶対後悔するからな!!! ファンタジー初心者です。 温かい目で見てください(*'▽'*) 一万文字以下の短編の予定です!

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。