異世界召喚されて捨てられた僕が邪神であることを誰も知らない……たぶん。

レオナール D

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101.街中ですが熊がいます

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「ふあー、美味しかったー」

「うーん……すごく食べ応えがありましたね。美味しかったです」

 温泉まんじゅうという名前の肉まんを食べて、ウータとステラは再び街に繰り出した。

「さーて、次はどこに行こっかなー」

「えーと……ウータさん。武器は用意しなくて良いんですか?」

「武器?」

「受付嬢さんから説明を受けたじゃありませんか。闘技大会の本選に出場するためには、ミスリル製の武器が必要なんですよ」

「あ、そうだっけ?」

 ウータが目を白黒とさせる。
 どうやら、肉まんを食べることに夢中で忘れてしまったらしい。

「この町はミスリルバレーという名前の通り、ミスリルが多く産出されています。だから、どこの鍛冶屋さんでもミスリルの武器が扱われているはずです。ウータさんが本選の出場者であると知れば、きっと売ってくれると思いますけど……」

「そっかそっか。それじゃあ……まずはアッチに行ってみようかなー?」

「へ……?」

 ウータが多くの鍛冶屋がある大通りではなく、正反対の方向に進み始めた。

「ウータさん、どちらに行くんですか?」

「アッチアッチ、観光客の人が向こうに行っているからさ。僕達も行こうよ」

「えっと……武器探しは良いんですか?」

「後でいいよー。急ぐことじゃないからねー」

 ウータはどうでも良さそうに言って、フラフラと人の行く方向に流されていった。
 ステラが困ったように眉尻を下げると、ウータの後に続いていく。

「仕方がないですね……何があるんでしょう」

「あ、見えてきた。何かやってるよー?」

 ウータとステラが歩いていくと……大通りから少し外れた場所にある広場で、何か催しを開いているようだった。

「はい、お立会いの皆様! これより、こちらのジュエリーベアーを捌いてごらんにいれまーす!」

「ガアアアアアアアアアアアアアアッ!」

 広場の中央にいるのはピエロのメイクをした一人の少女である。
 少女と少し離れた場所には、檻に入った体長二メートルほどの熊がいる。
 熊は全身のあちこちに赤、青、黄色……色とりどりの宝石を付けていた。
 金具などで装着しているのではなく、宝石が熊の身体から直接生えているのだ。

「ねえねえ、これは何をやっているのかな?」

「え? ああ、ジュエリーベアーの解体をするみたいだな。この町じゃ、よくあるイベントだよ」

 ウータの問いにドワーフの男性が答えた。
 ジュエリーベアーというのは、檻に入った動物……否、魔物のことだろう。
 身体から宝石を生やしているからジュエリーベアー……わかりやすいネーミングである。

「ジュエリーベアーはこの辺りの鉱山の中に住みついている魔物なんだけど、宝石を食べて皮膚から生やして、自分を飾りつける習性があるんだよ。そうやって異性を引きつけて、交尾をするためにだな」

「へえ、面白い動物だね」

「ああ。それで……ジュエリーベアーと戦いながら、表面の宝石を剥ぎ取るのが今からやるイベントだ。ジュエリーベアーは殺しちまうと宝石が土塊になっちまうから、生きたまま剥ぎ落さなくちゃいけないんだ。いかに宝石を傷つけず、ジュエリーベアーをいなして宝石を奪うのかが職人の腕の見せ所だな」

 マグロの解体ショーのようなものだろうか。
 この町では、それなりにメジャーな催しであるらしい。

「面白そうだね。ステラ、見ていこっか」

「はい。ウータさんがよろしいのなら」

 ウータとステラが他の聴衆に混じって、広場の中央に目を向ける。

「はい! それではまずは……檻からジュエリーベアーを出しまーす!」

「ガオオオオオオオオオオオオオオオッ!」

 アシスタントらしき男性が檻の戸を開けると、宝石を身体に生やした熊がのっしのっしと歩き出てくる。
 大粒の宝石がキラキラと輝く。ジュエリーベアーの表面に浮かんでいるのは、店でも滅多に見ないほど大きな宝石ばかりである。

「ジュエリーベアーは体内で宝石の原石を磨き、融合させて身体から出すんだ。だから、本来の宝石よりも大粒で純粋な宝石が採れるんだぜ」

「へえ、すごいね。面白い生き物だ」

「ガアアアアアアアアアアアアアアッ!」

 見知らぬドワーフの説明にウータが頷くと同時に、ジュエリーベアーが地面を蹴った。
 ピエロメイクをした女性めがけて、勢い良く襲いかかる。

「ハイー!」

 ピエロがバク転をしながら、ジュエリーベアーの攻撃を回避する。
 振り下ろされた爪を軽やかに避けて、両手を挙げてビシリとポーズを決めた。

「ガアアアアアアアアアアアアアアッ!」

「ハイッ! ハイッ! ハイッ! ハイッ!」

「ガアアアアアアアアアアアアアアッ!?」

 ジュエリーベアーの攻撃を避けながら、ピエロの女性が湾曲したナイフを振った。
 鋭い刃がジュエリーベアーの体表を撫でて、そこに生えている宝石の塊を削ぎ落とす。
 キラキラと輝きながら宝石が剥がれ、宙を舞っているのはなかなか綺麗で目を楽しませてくる。

「へえ……すごいなあ。曲芸みたいだね」

「綺麗ですね……まるで星屑が飛び散っているみたい……」

「ガウウウウウウウウ……」

「ハアイッ!」

 一通り、宝石を剥がし終えたタイミングでピエロが吹き矢のような物を取り出して、ジュエリーベアーの首に撃ち込んだ。
 ジュエリーベアーの身体が大きく傾いて、そのまま地面に倒れて動かなくなる。
 毒矢だろうか。聴衆から悲鳴が上がるが……ジュエリーベアーは眠っているようで、ゆっくりと胸部が上下していた。

「ハイー! 宝石を剥ぎ終わりましたー!」

「「「「「オオオオオオオオオオオオッ!」」」」」

 聴衆から拍手喝采が生じる。
 ピエロが大げさに頭を下げた。

「それでは、これより採りたてホヤホヤの宝石を販売したいと思いまーす! 皆さん。早い者勝ちですので、どうぞお買い上げくださーい!」

「買うぞ!」

「俺もだ、こっちのをくれ!」

「エメラルドを貰うぞ! くれ!」

 宝石の販売が始まった。
 こういうところまで、マグロの解体ショーのようである。
 大勢の聴衆が殺到して、奪い合うようにして宝石を購入していく。

「うんうん、面白かったねー」

「はい、とっても」

「あ、そうだ……ちょっと待ってて」

「ウータさん?」

 ウータが人並みの中に消えて……しばらくすると、転移で戻ってきた。

「じゃん」

「これって……」

 ウータが差し出してきたのは、青い宝石である。

「名前は知らないけど、綺麗でしょ。あげるね」

「ありがとうございます。とても嬉しいです……!」

 ステラが感極まった様子で宝石を受け取った。
 普通はアクセサリーに加工してからプレゼントするものだろうが……朴念仁のウータにしては上出来である。

「大切にしますね」

 ステラは満面の笑顔で、青い宝石を握りしめたのであった。
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