異世界召喚されて捨てられた僕が邪神であることを誰も知らない……たぶん。

レオナール D

文字の大きさ
上 下
65 / 122
連載

98.闘技大会に参加するよ

しおりを挟む
 モジャッターパオードのバオバオプーを食べ歩きしながら、町の大通りを進んでいくウータとステラ。
 こうして歩いていると、町のあちこちで決闘が行われているのがわかった。
 いずれも闘技大会の予選である。お互いが持っている参加証を賭けて戦っているようだ。

「闘技大会に参加を希望される方はこちらにお願いしまーす! 本日で参加は締め切りですよー!」

 コロシアムのような建物の前で、受付嬢らしきドワーフの女性が声を上げている。
 どうやら、ここが闘技大会の受付のようだ。カウンターに受付嬢が立っており……それを遠巻きにして、複数の男性が距離を取って様子を窺っている。
 受付嬢はともかくとして、周囲の男性は何をしているのか疑問だった。

「あ、そこに受付があるね」

「しかも、今日で参加が締め切りらしいですよ」

 ウータとステラが顔を見合わせて、「うーん」と唸る。
 土の女神アースと会うためには、闘技大会に出場して優勝するのが確実だ。
 しかし、ウータもステラも剣術などの心得はない。武器を使用しての戦いでは勝ち抜けないだろう。

「そういえば……魔法を使用するとルール違反になるのでしょうか?」

「あ、そっか。それは確認していなかったね」

 魔法を完全に使用してはいけないのか。
 それとも、補助的にであれば使うことが許されているのか。
 その差は大きい。いくら武術が不得意でも、魔法で補えば上位に入れる可能性があるからだ。

「ちょうど受付もそこにありますし……確認していきませんか?」

「うん、そうしよっか」

 ステラの提案に頷いて、ウータが受付をしているドワーフのところに歩いていく。

「ねえねえ、受付のお姉さん」

「何でしょうか。人間族の方」

「その闘技大会って僕でも参加できるんだよね? やっぱり、魔法は使ったらダメなの?」

「ああ、ルールの確認ですね」

 受付の女性がカウンターの下から文字が印刷された紙を取り出した。

「こちらに細かいルールが記載されていますが……まず、闘技大会では必ずミスリル製の武器を使わなくてはいけません」

「ミスリル?」

 ウータが横のステラをチラ見する。
 ステラはすぐに「霊銀鉱石から作られる金属ですよ」と補足した。

「そちらのお嬢さんの言う通りです。ミスリルは魔法を付与するのに適しており、高度なマジックアイテムの作成に使われる金属です。とても加工がしにくいため、ドワーフ族しか扱うことができないんですよ」

「そのミスリルを使った武器がないとダメなんだね」

「はい。それも装飾程度の使用ではいけません。武器の重さは十キロ以上、合金でも構いませんが五十パーセント以上はミスリルが含まれている必要があります」

「色々と厳しく決まっているんだね」

「はい。ただしどんな武器を使用するのかは自由です。それと……先ほどの質問への回答ですが、試合中は魔法を使用してはいけません。ただ、武器に付与された魔法を使うことは許されます」

 ミスリルの武器はマジックアイテムとしての加工に適している。
 本人が魔法を使うことはできないが……マジックアイテムの力を使うのは許されるとのこと。

(だったらさ、武器で戦っているフリをして魔法を使ったら良いんじゃないかな?)

(バレたら失格ですけど……まあ、試してみる価値はあるかもしれませんね)

 ウータとステラはヒソヒソとそんな会話をする。

「それじゃあ、出るよ。エントリーさせてもらってもいいかな?」

「あ、私も出ます。エントリーします」

 ウータに続いて、ステラも挙手をする。

「ステラ、良いの?」

「はい。一応は火の神殿で護身術を勉強していますから、少しは戦えると思いますよ?」

 ステラは奴隷階級の出身であり、『白の火』という特殊な魔法を有していたため、特殊部隊である『フレアの御手』に成り上がった経歴を持っている。
 叩き上げのため根性があり、それなりに修羅場はくぐっている。火の神殿で特殊な訓練も受けていた。

「それじゃあ、二人でよろしく。ミスリルの武器はすぐに用意しないといけないのかな?」

「いいえ。ミスリル製の武器は予選では必要ありません。そもそも、高価な品ですから手に入れるのも難しいですから」

 受付嬢がウータの問いに答える。

「予選を勝ち抜いて本選の出場権を獲得すれば、武器屋や鍜治場をやっているドワーフが無償でミスリル製の武器を貸してくれますよ。店にとっても良い宣伝になりますからね」

 受付嬢の話によると……闘技大会の本選で自分の武器を持った選手が勝ち上がることは、職人にとっても名誉なことであるらしい。
 そのため、本選出場権を獲得した時点で、職人達が喜んで武器を提供してくれるとのことだった。

「そっか。了解了解」

「はい。それでは、こちらに名前を書いてください……ウータさんんとステラさん。こちらが参加証になりますね。自分の物と決闘で倒した相手の物……合わせて五枚を手に入れたら、また受付に来てください。本選への参加証と交換いたしますから」

 書類に必要事項を記載すると、受付嬢が参加証をそれぞれ手渡してくる。

「本選エントリーの期限終了は三日後です。自分の参加証を奪われると失格になりますので、くれぐれも気をつけて……はい、それでは! こちらのお二人が参加されました!」

「わっ」

 受付嬢が急に大きな声を出した。
 何事かと驚くウータであったが……直後、受付から少し離れた場所にいた者達が二人の周りに集まってくる。

「よし、小僧! 俺と勝負だ!」

「ギャハハハッ! 人間族なんかに負けねえぞ!」

「こっちの女の子なんて吹けば倒れそうだな! 良い獲物だぜ!」

 どうやら……ウータとステラは『カモ』とみなされたらしい。
 大会の参加者らしき男達が一斉に勝負を挑んできたのである。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。

久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。 事故は、予想外に起こる。 そして、異世界転移? 転生も。 気がつけば、見たことのない森。 「おーい」 と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。 その時どう行動するのか。 また、その先は……。 初期は、サバイバル。 その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。 有名になって、王都へ。 日本人の常識で突き進む。 そんな感じで、進みます。 ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。 異世界側では、少し非常識かもしれない。 面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

無能スキルと言われ追放されたが実は防御無視の最強スキルだった

さくらはい
ファンタジー
 主人公の不動颯太は勇者としてクラスメイト達と共に異世界に召喚された。だが、【アスポート】という使えないスキルを獲得してしまったばかりに、一人だけ城を追放されてしまった。この【アスポート】は対象物を1mだけ瞬間移動させるという単純な効果を持つが、実はどんな物質でも一撃で破壊できる攻撃特化超火力スキルだったのだ―― 【不定期更新】 1話あたり2000~3000文字くらいで短めです。 性的な表現はありませんが、ややグロテスクな表現や過激な思想が含まれます。 良ければ感想ください。誤字脱字誤用報告も歓迎です。

俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜

早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。 食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した! しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……? 「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」 そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。 無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!

Hしてレベルアップ ~可愛い女の子とHして強くなれるなんて、この世は最高じゃないか~

トモ治太郎
ファンタジー
孤児院で育った少年ユキャール、この孤児院では15歳になると1人立ちしなければいけない。 旅立ちの朝に初めて夢精したユキャール。それが原因なのか『異性性交』と言うスキルを得る。『相手に精子を与えることでより多くの経験値を得る。』女性経験のないユキャールはまだこのスキルのすごさを知らなかった。 この日の為に準備してきたユキャール。しかし旅立つ直前、一緒に育った少女スピカが一緒にいくと言い出す。本来ならおいしい場面だが、スピカは何も準備していないので俺の負担は最初から2倍増だ。 こんな感じで2人で旅立ち、共に戦い、時にはHして強くなっていくお話しです。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。