88 / 123
88.ドワーフの国に行くよ
しおりを挟む
「なんか、すごい良い夢を見た気がするね」
早朝。
テントの中で目を覚ましたウータは開口一番にそんなことを言った。
「おはようございます、急にどうしたんですか?」
後から目を覚ましたステラが寝ぼけまなこを擦りながら、首を傾げる。
「いや……内容は覚えていないんだけど、すごい夢を見ちゃった気がするんだよね。でっかいマシュマロがポヨポヨでさ。牛の乳しぼりをして、チューチューアイスをチュバチュバなんだよ」
「はい、全然何を言っているのかわかりませんね……まあ、幸せな夢を見たということは伝わってきました」
ステラは呆れながらも、テントから出た。
「今日も良い天気ですね……これなら、今日中にはミスリルバレーに到着するんじゃないですか?」
ウータとステラはドワーフの国を目指して旅をしていた。
フィッシュブルクの町を出て数日。もうじき、国境に到着するだろう。
「ドワーフは閉鎖的とは聞いていますが……それでも、グラス様の許可証があれば入国はできるはずです。あと少しですから、張り切っていきましょう」
「うん、そうだね」
ウータとステラは再び、街道を進んでいく。
天気は快晴だったが、やや風が強い。
北上してきたからか気温が下がっており、肌寒くなっていた。
「うー……寒くなってきたね。もう秋かな?」
「季節もそうですけど、ドワーフの国は寒冷地ですからね。たぶん、入国する頃には雪も降っていると思いますよ」
「雪かあ……僕は寒いのは好きじゃないんだよね。コタツとミカンが恋しいよ……」
「まあまあ、ミスリルバレーには温泉がありますからね。ドワーフ族は入浴とサウナで寒さをしのいでいるそうですよ」
「温泉かあ、それは楽しみだね」
温泉なんて、家族旅行で伊豆に行った時以来である。
寒いのは嫌だったが、一つ楽しみなことが増えた。
「うんうん、モチベーションが上がるね。ちょっとだけやる気が出てきたよ」
「それは何よりですね。それじゃあ、行きましょうか」
ウータとステラは街道を進んでいく。
途中で何度か休憩をとりながら、マイペースに北を目指す。
なだらかな丘陵を上っていき、頂上を越えたところでふと目に留まるものがあった。
「あれ? 何か騒いでるね」
「アレは……ワイバーンですよ! ウータさん!」
行商人らしき馬車が魔物に襲われていた。
両腕に翼を生やしたトカゲのような生き物……ワイバーンである。
五匹ほどのワイバーンが馬車を囲んで爪や牙で攻撃を仕掛けており、護衛らしき男女が応戦していた。
「どうしましょう、ウータさん?」
「うーん……助けた方がいいのかな?」
別に助ける必要はないが……進行方向上である。
わざわざ見捨てることもないだろう。
「ちょっと行ってこようかなー。ステラは待っててねー」
ウータはコンビニに出かけるような気楽さで言って、襲われている馬車にスタスタと歩いていく。
「おい、そこのお前! 危ないから逃げろ!」
馬車を守っていた護衛の一人が叫んでくる。
ウータは軽く手を挙げて、にこやかに微笑んだ。
「ちょっと助太刀するね。別に礼はいらないよー」
ウータは護衛の返事を待つことなく、手に入れたばかりの力を発動させた。
水の女神マリンを食べて手に入れた力……『神水』。
ウータの人差し指から高圧力の水鉄砲が射出され、空中に浮かんでいたワイバーンの一匹を貫いた。
「ギャウッ!?」
首を貫かれたワイバーンが墜落して、地面に衝突。やがて動かなくなった。
「ギャウギャウッ!」
「ギャアッ!」
仲間を殺されたワイバーンが怒りの声を上げて、ウータに襲いかかってくる。
「うんうん、元気が良いね。トカゲって食べられるのかな?」
マイペースに言いながら、ウータが再び水鉄砲を撃つ。
連続して放たれるレーザーのような水がワイバーンの身体を、翼を貫いて、次々と撃墜していった。
「ギャアッ!」
しかし、そんな水鉄砲をかいくぐって、一匹のワイバーンがウータのところにたどり着く。
長く鋭い牙で噛みついてくる。
「ああ、危ないなあ」
ウータが転移で逃れようとする。
しかし、それよりも先にウータの前に一つの影が割って入ってきた。
「ヤアアアアアアアアッ!」
飛び込んできたのは小柄な体躯の少女だった。
ウータよりも頭二つ分は背の低い少女が、身の丈を超える大きさの大剣を振るう。
「ギャッ……」
少女の剣によってワイバーンが真っ二つに両断され、血をまき散らして地面に倒れた。
「危なかったわ。あと少しで食べられてしまうところだったじゃない」
「えっと……君は誰かな?」
ウータがパチクリと瞬きをして、少女に訊ねる。
中学生……場合によっては小学生にも間違われそうな体格の少女は、大きな剣を肩に担いでにこやかに笑う。
「私の名前はエンジェ。ドワーフ族の剣士よ」
早朝。
テントの中で目を覚ましたウータは開口一番にそんなことを言った。
「おはようございます、急にどうしたんですか?」
後から目を覚ましたステラが寝ぼけまなこを擦りながら、首を傾げる。
「いや……内容は覚えていないんだけど、すごい夢を見ちゃった気がするんだよね。でっかいマシュマロがポヨポヨでさ。牛の乳しぼりをして、チューチューアイスをチュバチュバなんだよ」
「はい、全然何を言っているのかわかりませんね……まあ、幸せな夢を見たということは伝わってきました」
ステラは呆れながらも、テントから出た。
「今日も良い天気ですね……これなら、今日中にはミスリルバレーに到着するんじゃないですか?」
ウータとステラはドワーフの国を目指して旅をしていた。
フィッシュブルクの町を出て数日。もうじき、国境に到着するだろう。
「ドワーフは閉鎖的とは聞いていますが……それでも、グラス様の許可証があれば入国はできるはずです。あと少しですから、張り切っていきましょう」
「うん、そうだね」
ウータとステラは再び、街道を進んでいく。
天気は快晴だったが、やや風が強い。
北上してきたからか気温が下がっており、肌寒くなっていた。
「うー……寒くなってきたね。もう秋かな?」
「季節もそうですけど、ドワーフの国は寒冷地ですからね。たぶん、入国する頃には雪も降っていると思いますよ」
「雪かあ……僕は寒いのは好きじゃないんだよね。コタツとミカンが恋しいよ……」
「まあまあ、ミスリルバレーには温泉がありますからね。ドワーフ族は入浴とサウナで寒さをしのいでいるそうですよ」
「温泉かあ、それは楽しみだね」
温泉なんて、家族旅行で伊豆に行った時以来である。
寒いのは嫌だったが、一つ楽しみなことが増えた。
「うんうん、モチベーションが上がるね。ちょっとだけやる気が出てきたよ」
「それは何よりですね。それじゃあ、行きましょうか」
ウータとステラは街道を進んでいく。
途中で何度か休憩をとりながら、マイペースに北を目指す。
なだらかな丘陵を上っていき、頂上を越えたところでふと目に留まるものがあった。
「あれ? 何か騒いでるね」
「アレは……ワイバーンですよ! ウータさん!」
行商人らしき馬車が魔物に襲われていた。
両腕に翼を生やしたトカゲのような生き物……ワイバーンである。
五匹ほどのワイバーンが馬車を囲んで爪や牙で攻撃を仕掛けており、護衛らしき男女が応戦していた。
「どうしましょう、ウータさん?」
「うーん……助けた方がいいのかな?」
別に助ける必要はないが……進行方向上である。
わざわざ見捨てることもないだろう。
「ちょっと行ってこようかなー。ステラは待っててねー」
ウータはコンビニに出かけるような気楽さで言って、襲われている馬車にスタスタと歩いていく。
「おい、そこのお前! 危ないから逃げろ!」
馬車を守っていた護衛の一人が叫んでくる。
ウータは軽く手を挙げて、にこやかに微笑んだ。
「ちょっと助太刀するね。別に礼はいらないよー」
ウータは護衛の返事を待つことなく、手に入れたばかりの力を発動させた。
水の女神マリンを食べて手に入れた力……『神水』。
ウータの人差し指から高圧力の水鉄砲が射出され、空中に浮かんでいたワイバーンの一匹を貫いた。
「ギャウッ!?」
首を貫かれたワイバーンが墜落して、地面に衝突。やがて動かなくなった。
「ギャウギャウッ!」
「ギャアッ!」
仲間を殺されたワイバーンが怒りの声を上げて、ウータに襲いかかってくる。
「うんうん、元気が良いね。トカゲって食べられるのかな?」
マイペースに言いながら、ウータが再び水鉄砲を撃つ。
連続して放たれるレーザーのような水がワイバーンの身体を、翼を貫いて、次々と撃墜していった。
「ギャアッ!」
しかし、そんな水鉄砲をかいくぐって、一匹のワイバーンがウータのところにたどり着く。
長く鋭い牙で噛みついてくる。
「ああ、危ないなあ」
ウータが転移で逃れようとする。
しかし、それよりも先にウータの前に一つの影が割って入ってきた。
「ヤアアアアアアアアッ!」
飛び込んできたのは小柄な体躯の少女だった。
ウータよりも頭二つ分は背の低い少女が、身の丈を超える大きさの大剣を振るう。
「ギャッ……」
少女の剣によってワイバーンが真っ二つに両断され、血をまき散らして地面に倒れた。
「危なかったわ。あと少しで食べられてしまうところだったじゃない」
「えっと……君は誰かな?」
ウータがパチクリと瞬きをして、少女に訊ねる。
中学生……場合によっては小学生にも間違われそうな体格の少女は、大きな剣を肩に担いでにこやかに笑う。
「私の名前はエンジェ。ドワーフ族の剣士よ」
64
お気に入りに追加
828
あなたにおすすめの小説
婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。
拝啓、私を追い出した皆様 いかがお過ごしですか?私はとても幸せです。
香木あかり
恋愛
拝啓、懐かしのお父様、お母様、妹のアニー
私を追い出してから、一年が経ちましたね。いかがお過ごしでしょうか。私は元気です。
治癒の能力を持つローザは、家業に全く役に立たないという理由で家族に疎まれていた。妹アニーの占いで、ローザを追い出せば家業が上手くいくという結果が出たため、家族に家から追い出されてしまう。
隣国で暮らし始めたローザは、実家の商売敵であるフランツの病気を治癒し、それがきっかけで結婚する。フランツに溺愛されながら幸せに暮らすローザは、実家にある手紙を送るのだった。
※複数サイトにて掲載中です
『王家の面汚し』と呼ばれ帝国へ売られた王女ですが、普通に歓迎されました……
Ryo-k
ファンタジー
王宮で開かれた側妃主催のパーティーで婚約破棄を告げられたのは、アシュリー・クローネ第一王女。
優秀と言われているラビニア・クローネ第二王女と常に比較され続け、彼女は貴族たちからは『王家の面汚し』と呼ばれ疎まれていた。
そんな彼女は、帝国との交易の条件として、帝国に送られることになる。
しかしこの時は誰も予想していなかった。
この出来事が、王国の滅亡へのカウントダウンの始まりであることを……
アシュリーが帝国で、秘められていた才能を開花するのを……
※この作品は「小説家になろう」でも掲載しています。
幼馴染み達が寝取られたが,別にどうでもいい。
みっちゃん
ファンタジー
私達は勇者様と結婚するわ!
そう言われたのが1年後に再会した幼馴染みと義姉と義妹だった。
「.....そうか,じゃあ婚約破棄は俺から両親達にいってくるよ。」
そう言って俺は彼女達と別れた。
しかし彼女達は知らない自分達が魅了にかかっていることを、主人公がそれに気づいていることも,そして,最初っから主人公は自分達をあまり好いていないことも。
勇者に大切な人達を寝取られた結果、邪神が目覚めて人類が滅亡しました。
レオナール D
ファンタジー
大切な姉と妹、幼なじみが勇者の従者に選ばれた。その時から悪い予感はしていたのだ。
田舎の村に生まれ育った主人公には大切な女性達がいた。いつまでも一緒に暮らしていくのだと思っていた彼女らは、神託によって勇者の従者に選ばれて魔王討伐のために旅立っていった。
旅立っていった彼女達の無事を祈り続ける主人公だったが……魔王を倒して帰ってきた彼女達はすっかり変わっており、勇者に抱きついて媚びた笑みを浮かべていた。
青年が大切な人を勇者に奪われたとき、世界の破滅が幕を開く。
恐怖と狂気の怪物は絶望の底から生まれ落ちたのだった……!?
※カクヨムにも投稿しています。
結界師、パーティ追放されたら五秒でざまぁ
七辻ゆゆ
ファンタジー
「こっちは上を目指してんだよ! 遊びじゃねえんだ!」
「ってわけでな、おまえとはここでお別れだ。ついてくんなよ、邪魔だから」
「ま、まってくださ……!」
「誰が待つかよバーーーーーカ!」
「そっちは危な……っあ」
パーティーから追放され婚約者を寝取られ家から勘当、の三拍子揃った元貴族は、いずれ竜をも倒す大英雄へ ~もはやマイナスからの成り上がり英雄譚~
一条おかゆ
ファンタジー
貴族の青年、イオは冒険者パーティーの中衛。
彼はレベルの低さゆえにパーティーを追放され、さらに婚約者を寝取られ、家からも追放されてしまう。
全てを失って悲しみに打ちひしがれるイオだったが、騎士学校時代の同級生、ベガに拾われる。
「──イオを勧誘しにきたんだ」
ベガと二人で新たなパーティーを組んだイオ。
ダンジョンへと向かい、そこで自身の本当の才能──『対人能力』に気が付いた。
そして心機一転。
「前よりも強いパーティーを作って、前よりも良い婚約者を貰って、前よりも格の高い家の者となる」
今までの全てを見返すことを目標に、彼は成り上がることを決意する。
これは、そんな英雄譚。
魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな
七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」
「そうそう」
茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。
無理だと思うけど。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる