異世界召喚されて捨てられた僕が邪神であることを誰も知らない……たぶん。

レオナール D

文字の大きさ
上 下
55 / 122
連載

88.ドワーフの国に行くよ

しおりを挟む
「なんか、すごい良い夢を見た気がするね」

 早朝。
 テントの中で目を覚ましたウータは開口一番にそんなことを言った。

「おはようございます、急にどうしたんですか?」

 後から目を覚ましたステラが寝ぼけまなこを擦りながら、首を傾げる。

「いや……内容は覚えていないんだけど、すごい夢を見ちゃった気がするんだよね。でっかいマシュマロがポヨポヨでさ。牛の乳しぼりをして、チューチューアイスをチュバチュバなんだよ」

「はい、全然何を言っているのかわかりませんね……まあ、幸せな夢を見たということは伝わってきました」

 ステラは呆れながらも、テントから出た。

「今日も良い天気ですね……これなら、今日中にはミスリルバレーに到着するんじゃないですか?」

 ウータとステラはドワーフの国を目指して旅をしていた。
 フィッシュブルクの町を出て数日。もうじき、国境に到着するだろう。

「ドワーフは閉鎖的とは聞いていますが……それでも、グラス様の許可証があれば入国はできるはずです。あと少しですから、張り切っていきましょう」

「うん、そうだね」

 ウータとステラは再び、街道を進んでいく。

 天気は快晴だったが、やや風が強い。
 北上してきたからか気温が下がっており、肌寒くなっていた。

「うー……寒くなってきたね。もう秋かな?」

「季節もそうですけど、ドワーフの国は寒冷地ですからね。たぶん、入国する頃には雪も降っていると思いますよ」

「雪かあ……僕は寒いのは好きじゃないんだよね。コタツとミカンが恋しいよ……」

「まあまあ、ミスリルバレーには温泉がありますからね。ドワーフ族は入浴とサウナで寒さをしのいでいるそうですよ」

「温泉かあ、それは楽しみだね」

 温泉なんて、家族旅行で伊豆に行った時以来である。
 寒いのは嫌だったが、一つ楽しみなことが増えた。

「うんうん、モチベーションが上がるね。ちょっとだけやる気が出てきたよ」

「それは何よりですね。それじゃあ、行きましょうか」

 ウータとステラは街道を進んでいく。
 途中で何度か休憩をとりながら、マイペースに北を目指す。
 なだらかな丘陵を上っていき、頂上を越えたところでふと目に留まるものがあった。

「あれ? 何か騒いでるね」

「アレは……ワイバーンですよ! ウータさん!」

 行商人らしき馬車が魔物に襲われていた。
 両腕に翼を生やしたトカゲのような生き物……ワイバーンである。
 五匹ほどのワイバーンが馬車を囲んで爪や牙で攻撃を仕掛けており、護衛らしき男女が応戦していた。

「どうしましょう、ウータさん?」

「うーん……助けた方がいいのかな?」

 別に助ける必要はないが……進行方向上である。
 わざわざ見捨てることもないだろう。

「ちょっと行ってこようかなー。ステラは待っててねー」

 ウータはコンビニに出かけるような気楽さで言って、襲われている馬車にスタスタと歩いていく。

「おい、そこのお前! 危ないから逃げろ!」

 馬車を守っていた護衛の一人が叫んでくる。
 ウータは軽く手を挙げて、にこやかに微笑んだ。

「ちょっと助太刀するね。別に礼はいらないよー」

 ウータは護衛の返事を待つことなく、手に入れたばかりの力を発動させた。
 水の女神マリンを食べて手に入れた力……『神水』。
 ウータの人差し指から高圧力の水鉄砲が射出され、空中に浮かんでいたワイバーンの一匹を貫いた。

「ギャウッ!?」

 首を貫かれたワイバーンが墜落して、地面に衝突。やがて動かなくなった。

「ギャウギャウッ!」

「ギャアッ!」

 仲間を殺されたワイバーンが怒りの声を上げて、ウータに襲いかかってくる。

「うんうん、元気が良いね。トカゲって食べられるのかな?」

 マイペースに言いながら、ウータが再び水鉄砲を撃つ。
 連続して放たれるレーザーのような水がワイバーンの身体を、翼を貫いて、次々と撃墜していった。

「ギャアッ!」

 しかし、そんな水鉄砲をかいくぐって、一匹のワイバーンがウータのところにたどり着く。
 長く鋭い牙で噛みついてくる。

「ああ、危ないなあ」

 ウータが転移で逃れようとする。
 しかし、それよりも先にウータの前に一つの影が割って入ってきた。

「ヤアアアアアアアアッ!」

 飛び込んできたのは小柄な体躯の少女だった。
 ウータよりも頭二つ分は背の低い少女が、身の丈を超える大きさの大剣を振るう。

「ギャッ……」

 少女の剣によってワイバーンが真っ二つに両断され、血をまき散らして地面に倒れた。

「危なかったわ。あと少しで食べられてしまうところだったじゃない」

「えっと……君は誰かな?」

 ウータがパチクリと瞬きをして、少女に訊ねる。
 中学生……場合によっては小学生にも間違われそうな体格の少女は、大きな剣を肩に担いでにこやかに笑う。

「私の名前はエンジェ。ドワーフ族の剣士よ」

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。

久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。 事故は、予想外に起こる。 そして、異世界転移? 転生も。 気がつけば、見たことのない森。 「おーい」 と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。 その時どう行動するのか。 また、その先は……。 初期は、サバイバル。 その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。 有名になって、王都へ。 日本人の常識で突き進む。 そんな感じで、進みます。 ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。 異世界側では、少し非常識かもしれない。 面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

無能スキルと言われ追放されたが実は防御無視の最強スキルだった

さくらはい
ファンタジー
 主人公の不動颯太は勇者としてクラスメイト達と共に異世界に召喚された。だが、【アスポート】という使えないスキルを獲得してしまったばかりに、一人だけ城を追放されてしまった。この【アスポート】は対象物を1mだけ瞬間移動させるという単純な効果を持つが、実はどんな物質でも一撃で破壊できる攻撃特化超火力スキルだったのだ―― 【不定期更新】 1話あたり2000~3000文字くらいで短めです。 性的な表現はありませんが、ややグロテスクな表現や過激な思想が含まれます。 良ければ感想ください。誤字脱字誤用報告も歓迎です。

俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜

早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。 食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した! しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……? 「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」 そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。 無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!

Hしてレベルアップ ~可愛い女の子とHして強くなれるなんて、この世は最高じゃないか~

トモ治太郎
ファンタジー
孤児院で育った少年ユキャール、この孤児院では15歳になると1人立ちしなければいけない。 旅立ちの朝に初めて夢精したユキャール。それが原因なのか『異性性交』と言うスキルを得る。『相手に精子を与えることでより多くの経験値を得る。』女性経験のないユキャールはまだこのスキルのすごさを知らなかった。 この日の為に準備してきたユキャール。しかし旅立つ直前、一緒に育った少女スピカが一緒にいくと言い出す。本来ならおいしい場面だが、スピカは何も準備していないので俺の負担は最初から2倍増だ。 こんな感じで2人で旅立ち、共に戦い、時にはHして強くなっていくお話しです。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。