異世界召喚されて捨てられた僕が邪神であることを誰も知らない……たぶん。

レオナール D

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81.さよなら、海の国

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 フィッシュブルクの町を襲った災い……『海捌』。
 それは町と人々に消えることのない大きな傷をもたらした。
 町の半分は津波によって沈み、その後の半魚人や女神マリンの襲撃により、残る半分も甚大な被害を受けた。
 水はすでに引いているが、残ったのは更地と建物の残骸。復旧にはどれほどの時間がかかるかわかったものではない。

 不幸中の幸いだったのは、建物の被害に比べて人的被害が軽微だったこと。
 津波がやってきた時、舞の奉納を見るために住民の多くが高台にやって来ていた。
 そのため、津波、および半魚人と魔物によって命を落とした人間は思いのほかに少なかった。
 もちろん、あくまでも壊れた町の見た目よりも少ないというだけで、死者が少ないというわけではない。
 信じていた女神の裏切りを見せつけられたこともあり、今回の一件は人々の心に消えない傷跡を残すことだろう。

「それでも……私達は生き残り、今日という日を迎えた。ならば、生きてゆかなくてはならないんだろうな……」

『海捌』から数日後。
 町を出ることになったウータとステラに、見送りにやってきたグラスがそんなことを言う。
 あれから、ウータとステラは被災した住民の救助に当たっていた。
 ウータにとってはどうでも良いことであったが……別に嫌というほど手間でもないため、文句を言わずに手伝っていた。
 転移で建物をどかし、魔物の残党を狩り、女神マリンから奪ったばかりの水の権能で津波の水を除けて……おかげで、すでに救助活動は終わっている。

「グーお姉さんはこれからどうするのかな?」

 ウータが串焼きのイカを食べながら訊ねた。
 ウータの両手には町の人々からお土産でもらった大量の海鮮料理が抱えられており、ホクホク顔になって食べている。

「もちろん、町の住民に今回の一件について説明するよ。例の古文書の内容を明かして、女神マリンという存在について真実を話すつもりだ」

「大丈夫なんですか……その、町の人達はグラス様を責めるんじゃ……?」

 ステラが眉尻を下げて、不安そうに口を開く。

 グラスは古文書によって、女神マリンが善良な存在でないことを知っていた。
 領主である父親には相談したようだが……受け入れられず、敵側に協力してしまった形になっている。
 これに関して、グラスを一方的に責めるのは少しばかり酷である。
 そもそも、この町に暮らしていた陸生マーマンの大部分が女神マリンを信仰しており、彼女を疑うという発想がない。
 毎年やっているお祭りが今年に限って津波を引き起こし、海生マーマンという捕食者を招くものだと説明して、どれほどの人が受け入れたことだろう。

「心配してくれてありがとう……だけど、私は大丈夫だ」

 グラスが力強い笑顔になる。

「どんなことがあったとしても、その結果を受け入れるつもりだ。領主というのはその町で起こるあらゆる出来事に責任を取らなくてはいけない。そこに善意であるか悪意であるかは関係ないんだよ」

「グラスさん……」

「私も領主の娘だからな。然るべき責任は取らせてもらうさ……それよりも、君達はこれからどうするつもりなのかな?」

「他の女神がいる場所に行きたいんだけど……グーお姉さんはどこか良いところを知らないかな?」

 イカ焼きを食べ終えたウータが訊ねる。
 自分が質問したくせに、すぐに興味を無くしたように魚肉のサンドイッチを取り出していたが。

「女神のいる場所……そうだな、女神フレアがいるシャイターン王国、それからドワーフの国であるミスリルズバレーが近いかな?」

「ミスリルズバレー……この国の北にある国ですね?」

「ああ、そうとも」

 ステラの問いにグラスが首肯した。

「ミスリルズバレーは魔族の国とも近いから危険が多いのだけど……エルフや天使の国と比べると開放的だ。許可証があれば異国人でもわりと簡単に入ることができる」

 グラスが懐に手を入れて、胸の谷間(!?)から一枚の紙を取り出した。

「こんなこともあろうかと、領主である父に一筆書かせておいた。これがあればミスリルズバレーに入ることができるだろう」

「グラス様……わざわざ、ありがとうございます」

「君達がしてくれたことに比べたら、これくらいでは御礼として軽すぎるくらいさ……本当にありがとう」

「はい。グラス様もお元気で」

「それじゃあね、グーお姉さん。おっぱい柔らかかったよー」

「……どうしてそれを今、言うのかはわからないけどね。君達も元気で」

 ウータとステラはグラスに別れを告げて、フィッシュブルクの町を後にした。

 女神マリンを倒して、残りの女神はあと四人。
 次に目指すはドワーフの国。土の女神アースを信仰しているミスリルズバレーである。
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