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80.女神様が美少女フィギュアになったよ
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ウータと女神マリンが突如として消えてしまい、フィッシュブルクの町は先ほどの騒動が嘘のように静まり返っていた。
「ウータさん……」
ステラは祈るように両手を組んで、頭上を見上げている。
空の彼方にウータがいることを知っているわけではないが、天に祈らずにはいられないような心境なのだろう。
「そこの瓦礫をどかしてくれ! 下に人がいるぞ!」
グラスは周囲にいる陸生マーマンを鼓舞して、建物の残骸に埋もれている人々の救助に当たっていた。
女神マリンの降臨と裏切りを受けて、多くの陸生マーマンが信じていた物を失って呆然自失となっている。
そんな中で、いち早く正気に戻ったグラスが率先して救助活動を行っている。
まるで、今回の事態を引き起こしてしまった一因として、責任を果たそうとしているかのように。
数分か、数時間か。
時間の感覚が薄れていく中、重苦しい空気の夜が更けていく。
「ふいー、寒かったー」
「ウータさん!?」
そんな中、ウータが転移して戻ってきた。戻ってきたのはウータ一人だけでマリンの姿はない。
「無事だったんですね……女神マリンはどうなったんですか!?」
「ああ、それがさ。ちょっと面白いことになってるみたいなんだ」
「面白いこと?」
「そうそう、ほら。見てごらんよ」
ウータがステラの前に右手を出す。
握っていた手を開くと……そこには十センチメートルほどの人型が握られていた。
「それは……人形、ですか?」
ウータが握りしめていたのは女性の姿をした人形だった。
人形は澄んだ水色の髪をしており、とても美しい造形で整った顔立ちをしている。
「美少女フィギュアみたいでしょ?」
「フィギュアというのが何のことかは知りませんけど、美しいですね。どこで見つけたんですか?」
『ン……』
「動いた!?」
ウータの手の中の人形が動き出した。
先ほどまで閉じられていた瞳を開いて、ゆっくりと起き上がる。
『ここは……そうですか。身体の主導権が戻ってきたんですね……』
「あ、貴女は……?」
『私はマリン。世界を管理している六大神の一人であり、水を司っている女神です』
ステラの問いに人形の少女が答えた。
その言葉にウータはともかく、ステラは驚いて目を見開く。
「女神マリン……貴女が!?」
言われて見れば、人形の少女は先ほどまで猛威を振るって暴れていた女神マリンとよく似た顔立ちをしている。
しかし、身体が大きく縮んでおり、身にまとっていた黒い水も邪悪なオーラも消え去っていた。
凶々しさがすっかり抜け落ちており、清浄で無垢な雰囲気は同一人物とはとても思えない。
『驚くのも無理はありません……先ほどまでの私の姿は、人の邪気によって汚染されてしまった状態なのです』
人形の少女が悲しそうに目を伏せて、説明する。
『かつて、私は清浄なる水の女神としてこの世に生まれました。マーマンという種族を生み出し、彼らを愛し、彼らの穏やかなる繁栄を願っていた。しかし、そんな折に他の女神達が戯れで魔王という世界の敵を生み出し、戦争を始めてしまったのです』
「…………」
『私は戦争ごっこなんかに参加するつもりはなかった。けれど、私が管理していた土地に一方的に魔族が……他の種族が攻め込んできて、マーマン族を殺していった。復讐を願うマーマン族の怒りと殺意に触れてしまった私の身体は汚染され、邪悪なる深海の女神に変貌してしまった……』
「……それが先ほどまでの貴女というわけですか?」
ステラが訊ねると、人形の少女がコクリと頷く。
『その通りです。邪神のごとき存在となってしまった私はマーマン族の中から泳ぎの苦手な者を地上に追い出し、差別階級として作り上げた。そして、彼らを狩るという残忍な遊び……『海捌』を始めてしまいました』
両手を合わせて、人形の少女が真珠の粒のような涙をこぼす。
『本当はあんなことはしたくなかった。だけど、自分で自分を止めることができなかった……! 海に満ちる悪意が、憎しみが増えるたび、私の身体は黒く汚染されていき、もはや自分自身でも止まれなかった……!』
人形の少女がウータの方を向き直り、頭を下げる。
『でも……貴方が私を止めてくれたおかげで、こうして元の姿に戻ることができました。本当にありがとうございます……』
「えーと……どういたしまして?」
『つきましては、何か御礼をしたいのですけど……そうだ! 私の国にはかつて世界に海を創りあげた「海寄せの矛」という伝説の武器が……』
「いただきます」
『あって…………みぎゅ』
ウータが人形の少女を口に運んで、バクリと齧った。
人形の少女の腰から上が喰いちぎられ、バリボリと噛み砕かれていく。
「う、ううううううウータさん!?」
「あ、美味しい」
驚くステラをよそに、ウータは残った下半身を口に放り込んで咀嚼する。
「歯応えはしっかりとあるんだけど、すっごくフルーティーな味わい。マンゴーと同じくらい甘いんだけど、酸味もあって後味が残るね。喉を通ってから鼻に抜ける爽やかさは度数の高いお酒みたいだよ。飲んだことないけどね」
「いやいやいやいやっ! 今の会話の流れでどうして食べてるんですか!? わりと大事めな話をしてましたよね!?」
「えっと……話長かったから、飽きちゃって」
「飽きたから食べるんですか!? 堪え性のない子供ですか!?」
「いや、話の流れは良くわからなかったけどさ。最初からそれが目的だし。そもそも……彼女は敵だよね?」
「そうですけど……」
ステラが言葉を濁らせて、周囲を見回した。
町は破壊され、多くの人々の命が失われている。その原因となったのは間違いなく女神マリンである。
彼女が仮に正気を無くしていたとしても、許されることだろうか。
「でも……問答無用で食べるのもちょっと違うような……?」
「あ、そうだよね……確かに、ちょっと間違ってたかな?」
「はい……」
「一口くらい、ステラにあげたら良かったね。ごめんよ、一人で食べちゃって」
「そうじゃないですっ!」
謎の怒りと悲しみに襲われて、ステラは涙目になって声を荒げる。
ウータは不思議そうに首を傾げており、どうして怒られているのかわかっていないようだった。
東の空が少しずつ白く染まっていき、朝日が昇ろうとしている。
マーマン族の町……フィッシュブルクを襲った巨大な災い。
あまりにも長くて暗い夜が、ようやく明けようとしていたのである。
「ウータさん……」
ステラは祈るように両手を組んで、頭上を見上げている。
空の彼方にウータがいることを知っているわけではないが、天に祈らずにはいられないような心境なのだろう。
「そこの瓦礫をどかしてくれ! 下に人がいるぞ!」
グラスは周囲にいる陸生マーマンを鼓舞して、建物の残骸に埋もれている人々の救助に当たっていた。
女神マリンの降臨と裏切りを受けて、多くの陸生マーマンが信じていた物を失って呆然自失となっている。
そんな中で、いち早く正気に戻ったグラスが率先して救助活動を行っている。
まるで、今回の事態を引き起こしてしまった一因として、責任を果たそうとしているかのように。
数分か、数時間か。
時間の感覚が薄れていく中、重苦しい空気の夜が更けていく。
「ふいー、寒かったー」
「ウータさん!?」
そんな中、ウータが転移して戻ってきた。戻ってきたのはウータ一人だけでマリンの姿はない。
「無事だったんですね……女神マリンはどうなったんですか!?」
「ああ、それがさ。ちょっと面白いことになってるみたいなんだ」
「面白いこと?」
「そうそう、ほら。見てごらんよ」
ウータがステラの前に右手を出す。
握っていた手を開くと……そこには十センチメートルほどの人型が握られていた。
「それは……人形、ですか?」
ウータが握りしめていたのは女性の姿をした人形だった。
人形は澄んだ水色の髪をしており、とても美しい造形で整った顔立ちをしている。
「美少女フィギュアみたいでしょ?」
「フィギュアというのが何のことかは知りませんけど、美しいですね。どこで見つけたんですか?」
『ン……』
「動いた!?」
ウータの手の中の人形が動き出した。
先ほどまで閉じられていた瞳を開いて、ゆっくりと起き上がる。
『ここは……そうですか。身体の主導権が戻ってきたんですね……』
「あ、貴女は……?」
『私はマリン。世界を管理している六大神の一人であり、水を司っている女神です』
ステラの問いに人形の少女が答えた。
その言葉にウータはともかく、ステラは驚いて目を見開く。
「女神マリン……貴女が!?」
言われて見れば、人形の少女は先ほどまで猛威を振るって暴れていた女神マリンとよく似た顔立ちをしている。
しかし、身体が大きく縮んでおり、身にまとっていた黒い水も邪悪なオーラも消え去っていた。
凶々しさがすっかり抜け落ちており、清浄で無垢な雰囲気は同一人物とはとても思えない。
『驚くのも無理はありません……先ほどまでの私の姿は、人の邪気によって汚染されてしまった状態なのです』
人形の少女が悲しそうに目を伏せて、説明する。
『かつて、私は清浄なる水の女神としてこの世に生まれました。マーマンという種族を生み出し、彼らを愛し、彼らの穏やかなる繁栄を願っていた。しかし、そんな折に他の女神達が戯れで魔王という世界の敵を生み出し、戦争を始めてしまったのです』
「…………」
『私は戦争ごっこなんかに参加するつもりはなかった。けれど、私が管理していた土地に一方的に魔族が……他の種族が攻め込んできて、マーマン族を殺していった。復讐を願うマーマン族の怒りと殺意に触れてしまった私の身体は汚染され、邪悪なる深海の女神に変貌してしまった……』
「……それが先ほどまでの貴女というわけですか?」
ステラが訊ねると、人形の少女がコクリと頷く。
『その通りです。邪神のごとき存在となってしまった私はマーマン族の中から泳ぎの苦手な者を地上に追い出し、差別階級として作り上げた。そして、彼らを狩るという残忍な遊び……『海捌』を始めてしまいました』
両手を合わせて、人形の少女が真珠の粒のような涙をこぼす。
『本当はあんなことはしたくなかった。だけど、自分で自分を止めることができなかった……! 海に満ちる悪意が、憎しみが増えるたび、私の身体は黒く汚染されていき、もはや自分自身でも止まれなかった……!』
人形の少女がウータの方を向き直り、頭を下げる。
『でも……貴方が私を止めてくれたおかげで、こうして元の姿に戻ることができました。本当にありがとうございます……』
「えーと……どういたしまして?」
『つきましては、何か御礼をしたいのですけど……そうだ! 私の国にはかつて世界に海を創りあげた「海寄せの矛」という伝説の武器が……』
「いただきます」
『あって…………みぎゅ』
ウータが人形の少女を口に運んで、バクリと齧った。
人形の少女の腰から上が喰いちぎられ、バリボリと噛み砕かれていく。
「う、ううううううウータさん!?」
「あ、美味しい」
驚くステラをよそに、ウータは残った下半身を口に放り込んで咀嚼する。
「歯応えはしっかりとあるんだけど、すっごくフルーティーな味わい。マンゴーと同じくらい甘いんだけど、酸味もあって後味が残るね。喉を通ってから鼻に抜ける爽やかさは度数の高いお酒みたいだよ。飲んだことないけどね」
「いやいやいやいやっ! 今の会話の流れでどうして食べてるんですか!? わりと大事めな話をしてましたよね!?」
「えっと……話長かったから、飽きちゃって」
「飽きたから食べるんですか!? 堪え性のない子供ですか!?」
「いや、話の流れは良くわからなかったけどさ。最初からそれが目的だし。そもそも……彼女は敵だよね?」
「そうですけど……」
ステラが言葉を濁らせて、周囲を見回した。
町は破壊され、多くの人々の命が失われている。その原因となったのは間違いなく女神マリンである。
彼女が仮に正気を無くしていたとしても、許されることだろうか。
「でも……問答無用で食べるのもちょっと違うような……?」
「あ、そうだよね……確かに、ちょっと間違ってたかな?」
「はい……」
「一口くらい、ステラにあげたら良かったね。ごめんよ、一人で食べちゃって」
「そうじゃないですっ!」
謎の怒りと悲しみに襲われて、ステラは涙目になって声を荒げる。
ウータは不思議そうに首を傾げており、どうして怒られているのかわかっていないようだった。
東の空が少しずつ白く染まっていき、朝日が昇ろうとしている。
マーマン族の町……フィッシュブルクを襲った巨大な災い。
あまりにも長くて暗い夜が、ようやく明けようとしていたのである。
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