異世界召喚されて捨てられた僕が邪神であることを誰も知らない……たぶん。

レオナール D

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76.半魚人を超しばくよ

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 ウータが放った神炎によって、海面が一気に燃え上がった。
 まるで大量の原油を流し、そこに引火させたような光景である。

「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」

「グアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」

 高火力の炎に焼かれて、海面近くにいた半魚人、魔物が一気に焼き払われる。
 大量の海水が蒸発したことで水蒸気爆発が生じて、海が大きく爆発した。

「キャアッ!」

 その衝撃は高台にまで届いた。
 辛うじて津波を免れていた建物一部が壊れて、ウータとグラスがいた櫓も崩れる。

「よっと」

 ウータがグラスを連れて転移をした。少し離れた場所にいるステラのところまで。

「う、うううううううウータさんっ!?」

「はい、ステラの言われたとおりに炎でやっつけたよ」

「ここまでやれとは言ってないですよ! 町までメチャクチャになったじゃないですかあ!」

 ステラが叫ぶ。
 無事だった建物の半分が水蒸気爆発の衝撃で倒壊していた。
 瓦礫に押し潰されている人々がどれだけいることか……考えるのも恐ろしいことである。

「えー……僕はステラの指示に従ってやっただけなのに?」

「私を主犯にしないでください! ここまでやるなんて誰が思いますか、誰が!」

「仕方がないなあ……グーお姉さん。悪いんだけど、建物に潰されている人達の救助とかやっておいてよ」

「わ、私が……?」

「そうそう。僕が指示するよりも、グーお姉さんが言った方がみんな従ってくれるでしょう?」

 倒壊に巻き込まれた人々を救うためには人手がいる。
 まだ無事な町の住民を指揮して、救助のために動かなければいけないのだ。

「私からもお願いします。グラス様、この町の人達のためによろしくお願いします!」

「こんな事態を引き起こしてしまった私に、まだできることがあるというのだろうか……」

 グラスは唇を噛みしめてうつむいていたが、やがて強い眼差しになって顔を上げた。

「わかった。私は人々の救助に尽力する! 二人は二人のしたいように行動してくれ!」

「私は魔法攻撃を防ぎます。ウータさんは敵への対処をお願いします!」

「わかった。さっきみたいに爆発しないように気をつけるね」

「「当然だ(です)!」」

「わあ、怒られた!」

 ステラとグラスから同時に怒鳴られて、ウータがさすがに反省する。
 敵を殺すにしても、注意してやらなければいけない。

「それじゃあ……ちょっと頑張っちゃおうかな」

 ウータは高台の建物の一つに上って、そこから海を見下ろした。
 炎の攻撃を受けて、海の方では小さくない混乱が生じている。

「ウギャ、ウギャ、熱いアツイゾオッ!」

「ナカマガヤラレタ! ナカマガヤラレタ!」

「ナゼだ! ダレガやったんダッ!?」

 半魚人にとって、この戦いは一方的に町を滅ぼして陸生マーマンを殺して喰らう……最初から勝つことが決まっている戦いだった。
 相手から反撃を受けることも、仲間が殺られることも想定していない。
 思わぬ反撃、思わぬ同胞の死に錯乱しているようだ。

「殺していいのは殺される覚悟がある人だけなのにね……まあ、僕が人のことは言えないけど」

 ウータは高火力の炎を圧縮させ、拳ほどのサイズまで縮めた。
 そして……半魚人が潜んでいる海の中へと転移させる。
 ズボンッと低い音を鳴らして水柱が上がった。転移させた炎が海中で爆発したのだ。
 攻撃が命中したらしい半魚人数匹がプカプカと海面に浮かんでくる。

「そういえば……手榴弾を海に投げつける漁があるって聞いたことがあるけど、本当かな? さすがにガセのような気がするんだけど、焼き魚になるから一石二鳥なのかな?」

 どうでも良いことを言いながら、ウータは次々と炎弾を海中に転移させる。
 炎をブチ込むたびに水柱が上がり、半魚人や魔物が浮かんでくるのが面白い。

「こういうスマホゲームがありそうだよね。ビジュアルは最悪だけど」

 半魚人はともかくとして……魔物は後で食べられるかもしれない。
 炎を何発も撃ったおかげで良い具合に腹も空いてきたし、夜食にしてみるのも良いだろう。

『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!』

「ん?」

 半魚人と魔物を倒していくウータであったが……ふと遠くから海鳴りのような音が聞こえてくることに気がついた。
 そして……直後、空気を震わす圧倒的な存在感。
 重力が一気に強くなったようなプレッシャーはただ事ではなかった。

「ああ、ようやくメインディッシュの到着か」

 ウータが海の彼方に目を向けた。
 そこから再び、大きな津波が迫ってくる。

「いや……津波じゃないかな?」

 ウータは気がつく。
 遠瀬から迫ってくる大量の水……それは決して津波などではなく、黒い液体のような何かだった。

『我がケンゾクよ! これは何のサワギですか!?』

 現れたのは、海の底のような黒い水を衣として纏った美女。
 まるで光の届かない深海を覗いているようなおぞましいオーラを身にまとった、海の脅威の化身。

 淀んだ深海の女神。
 人身の形を成した貪る海威。
 この世界を治める六大神の一柱……女神マリンの降臨である。
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