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75.半魚人をしばくよ

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「ナンダお前は……ギャアアアアアアアアアアアアアアアアッ!?」

「塵になーれ」

 海に沈んだ町から陸に上がってきて、高台にいる人々を喰おうとした海生マーマン……もとい半魚人。
 彼らは次々とウータに肩タッチをされて、次の瞬間には塵になってしまう。
 ウータは転移で次々と場所を変え、片っ端から陸に出てきた半魚人を塵にしていった。

「ニンゲンだと!?」

「なんだ! キサマハッ!」

「いやいや……急に海から出てきて、お祭りを邪魔している人達に言われたくないんだけど?」

「ギャッ……」

 再び、肩タッチをして塵にする。
 いきり立ち、叫んでいる半魚人の残骸が地面に散らばった。

「お祭り荒らしは良くないと思うよ。神輿に乗るレベルじゃない冒涜だよねー」

「ダマレ、人間ガ!」

「ヨクモ同胞ヲ! 喰ってヤル!」

 片言の声で叫びながら、半魚人がウータめがけて襲いかかってきた。
 鋭い爪の生えた腕を振り下ろしてくるが……ウータは転移によって、その攻撃を避ける。

「はずれー」

「ガアッ!」

 しかし、素早く半魚人が身体を反転。
 先ほどまでのウータの戦いから、相手の背後に回り込んで肩に触れ、塵にする魔法をかけてくるとわかっていた。
 素早く振り返り、背後に現れた人影を爪で引き裂いた。

「ギャアッ!」

「な、ナンダト!?」

 しかし、そこにいたのは同族の姿である。
 仲間の半魚人が爪で引き裂かれ、体液を撒き散らして悲鳴を上げる。

「ダメだよー。お友達を攻撃したら」

「きさ……」

「塵になーれ」

 ウータが悪戯っぽく言いながら、叫ぶマーマンの背中にタッチ。再び、地面に塵が積もる。
 同士討ちされて倒れていた半魚人も忘れずに殺しておく。

「これで一通り、片付いたかなー?」

 陸に上がってきた半魚人はほとんど倒してしまった。
 問題は水中で猛威を振るっている者達である。

「問題は海にいる連中だよねー。濡れるの嫌だから、あそこに飛び込むのはちょっとヤダかなー?」

「あ、あんた、いったい何者なんだ?」

 命を救われた町の住民が恐る恐るといったふうにウータに声をかけてくる。それは偶然にもウータが立ち寄った露店の店主だった。
 ウータは振り返って、いつもの暢気な笑顔を浮かべた。

「タダの通りすがりだよ。おっちゃん」

「と、通りすがり……?」

「ズッチャ・ナンタラカンタラ」

「へ……?」

「アレ、美味しかったよ。また食べたいから死なないでね」

 言いたいことだけ言い残して、ウータが転移した。町の高台、櫓の上にいるグラスのところまで。
 グラスは高台の上で呆然と座り込んでおり、滅びゆく町を見つめていた。

「グーお姉さん、こんばんわ」

「君は……まだ、町にいたのか? 逃げろって言ったじゃないか……」

 ウータが声をかけると、グラスが力なく振り返る。

「うん、食べたい物があったからね。そんなことよりも……こんなところにいたら危なくない? どこかに隠れたらどうかな?」

「……私のせいでこんなことになってしまった。逃げるわけにはいかないよ」

 グラスが微笑んだ。
 それは死を覚悟した人間が見せる諦観の笑みだった。

「町の人々の避難を阻んでいる結界……アレは私の舞によって出来たものなんだ。私は女神マリンの狩りのため、利用されてしまった。君達が見せてくれた古文書のおかげで、こうなることを知っていたのに……女神マリンへの信仰を、この町の在り方を否定することができなかった……」

「…………」

「父が古文書の内容をデタラメだと判断したからというのは言い訳だな。結局、私も変化が怖かっただけなのかもしれない。女神の意思に逆らうことの恐怖から逃げ出しただけなのかも……」

 グラスが途中で言葉を止めた。
 言葉を止めて……怪訝に目を細める。

「……君、何やっているのかな?」

「え? おっぱいを触ってるんだけど?」

 ウータはグラスの話を聞いていなかった。
 グラスの服の隙間に手を突っ込んで、やわやわと生乳を揉んでいたのだ。

「最近さ、女の子のおっぱいってすごく柔らかくて気持ちいいなってことに気がついたんだ。だから、グーお姉さんのおっぱいはどんな感じかなって思って」

「……思ったからといって、許可なく揉まない方が良いと思うぞ。官憲に捕まるからな」

「うん、わかった。知り合い以外にはやらないことにする」

「くうっ!」

 ウータがキュッと先端の突起を摘まんだ。
 グラスが着ている舞の衣装は薄着で胸元も開いており、とてもセクハラしやすいデザインになっていた。
 ウータはひとしきり年上女性の胸を愉しんでから、「よっこらせ」と立ち上がる。

「さて……それじゃあ、僕はもういくね」

「……どこにいくつもりなんだい。この町から逃げる道はないぞ?」

「逃げないよ……って、なんかやってるね?」

 海の方を見ると、複数人の海生マーマンが集まってゴニョゴニョと妖しい動きを見せている。
 何をしているのかと目を凝らすと……次の瞬間、レーザーのように勢い良く大量の海水が射出された。

「ヒッ……!」

「わっ」

 水のレーザーは真っすぐにウータとグラスがいる櫓を狙っている。
 このままだと直撃するが……しかし、白い炎によって攻撃が阻まれた。

「これって……?」

「ウータさん! 何やっているんですか!」

 櫓の下から怒鳴ってきたのはステラである。
 魔法無効化能力のある純白の炎により、海生マーマンの魔法攻撃を防いだのだ。

「グラスさんを避難させてください! それと……どうして、炎の魔法を使わないんですか!?」

「あ、そうだった」

 ウータはポンッと拳で反対側の掌を叩いた。
 考えてもみれば……ウータには女神フレアから奪った炎の権能があったのだ。

「それじゃあ、いくよー」

 ウータは軽い気合の声と共に、神炎を発動させた。

「えいっ」

 途端、海が真っ赤に染まった。
 視界一面の海面が紅蓮の炎に包まれ、地獄のような景色ができあがったのである。
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