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73.津波が来たよ
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「津波だ……!」
「逃げろ、逃げろおおおおおおおおおおおっ!」
押し寄せてくる津波に気がついて、人々が悲鳴を上げた。
この町はマーマン族の町だったが……住民の多くは陸生マーマンであり、海の民ではあるが海中では生きていけない。
津波に飲み込まれたら、命を落としてしまう可能性は十分にあった。
「そんな……やっぱり、来てしまったんだな……」
舞を踊り終えたばかりのグラスが櫓の上にへたり込む。
彼女が捧げた舞が祭りの開始の合図。町の終わり、終末を告げるラッパの音になったのだ。
「馬鹿な……馬鹿な馬鹿な! あの古文書の記載は真実だったというのか!?」
一方、櫓の下で一人の男が叫んでいる。
四十代ほどのマーマン族の男だが、ウータもステラも知らない人物。
身なりの良い服装からして、それなりに地位のある人間なのだろうか?
(もしかして……グラス様の御父上?)
ステラは思い出す。
グラスが解読の終わった資料を領主である父親に見せたが、受け入れてもらえなかったと話していた。
古文書のことも知っているようだし……あそこで叫んでいるのが、父親の領主なのだろう。
「あり得ない……こんなことがあって良いものか! 本当に女神マリンが私達を見捨てたというのか!? 我ら陸のマーマン族がただ生贄だったとでも言うつもりか!?」
「……可哀そうに」
錯乱し、叫んでいる領主にステラは同情した。
信じていたものを打ち砕かれ、現実を直視できない男の姿が哀れで仕方がなかった。
このまま、あの男は現実を受け入れられないままに死んでいくのだろうか。
二人が……主にウータが慈悲をかけなければ。
「見て見て、ステラ」
「え?」
「蝶々。飛んできたよ」
津波が迫りくる海の方角から、淡い青の光がやってきた。
人魂のように揺らめきながら飛んでくる無数の光の群れ……よくよく見れば、それは燐光を纏った蝶の大群だった。
津波を背後にしてやってくる大量の蝶……それはまるで死人の国からの誘いのようであり、ステラの目には綺麗というよりも恐ろしく見える。
「すごい、ですね……」
「うん、すごいね。精霊流しみたいだ」
「ショーローナガシ?」
「ああ、僕の国のお祭りだよ。懐かしいね」
そんな暢気なことを言っている一方で、津波が押し寄せてきている。
町の低地にいた人々が慌てた様子で高台へと登ってきて、大勢の人々が揉みくちゃになっていた。
「ウータさん……!」
「大丈夫、ここまでは来ないと思うよー」
「でも……」
ステラが言いたいのは、津波を止める手段はないのかということだろう。
「うーん……気持ちはわかるけど、ちょっとどうにもできないかな?」
「そんな……」
「僕の能力では津波は止められないからねー。できないことはできないとして、やれることを考えよっか」
「あ……」
そんなことを話している間に、津波が到達してしまった。
ウータの目測通りに高台は無事だったが、町の半分が飲み込まれてしまう。
「うわあああああああああっ!」
「ギャアアアアアアアアアッ!」
人々の絶叫が二人がいる屋根の上まで響いてくる。
建物が崩れ、人々が沈み……水位が大きく上昇して、低地の部分が水底に消えた。
不幸中の幸いだったのは、舞の奉納を見るために住民の大半が高台に集まっていたこと。
もしも祭りの最中でなければ、もっと甚大な被害が生じていたはず。
「でも……これからだよ。本当に大変になるのはね」
「ウータさん……」
「もっとゆっくり、蝶々を楽しみたかったんだけどねえ」
あくまでもマイペースに言うウータの視線の先、海に呑み込まれた町でさらなる異変が生じる。
「ガアアアアアアアアアアアアアアッ!」
「ギャアアアアアアアアアアアアアッ!?」
海水から巨大な蛇が現れた。
電信柱のようなサイズの大蛇の口には町の住民らしきマーマン族の姿があり、巨大な咢によって飲み込まれてしまう。
津波に乗って、海の魔物が現れたのだ。
女神マリンに従う眷属であるモンスターが襲ってきた。
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
「助けてくれえええええええええええええっ!」
「嫌だ、やめ……うわあああああああああっ!」
魔物があちこちに現れ、水の中で人々を襲っている。
海に呑まれた人々は抵抗することも許されず、一方的に喰われていた。
「た、戦える奴はいないのか!?」
「誰か、みんなを助けてくれ!」
「い、家には息子が……息子がいるのよ!」
人々が泣き叫ぶ。
阿鼻叫喚。
高台でも低地でも地獄のような光景が広がっている。
「海を見ろ! 海底のマーマン族だ!」
高台にいた住民の一人が気がついた。
津波がやってきたばかりの海から大勢の影が猛スピードで泳いでくる。
それは海生マーマンの大群だった。
陸でしか生きられないこの町のマーマンとは違い、海の底を住処としているマーマン達が町に向かって泳いでくる。
「助けに来てくれたんだ……!」
「おーい、こっちだ!」
「助けてくれ! 魔物がいるんだ!」
高台の人々が声を上げて、海生マーマンの到来に歓迎の声を上げる。
しかし、それは本当の悲劇の始まりでしかなかった。
「グゲゲゲゲゲッ!」
「襲え、襲え!」
「喰らえ! 殺し尽くせ!」
町に到着した海生マーマンは同族であるはずの陸生マーマンを助けることはなかった。
彼らは溺れかけていた町の住民に襲いかかり、バリボリとその身体を喰らい始めたのである。
「逃げろ、逃げろおおおおおおおおおおおっ!」
押し寄せてくる津波に気がついて、人々が悲鳴を上げた。
この町はマーマン族の町だったが……住民の多くは陸生マーマンであり、海の民ではあるが海中では生きていけない。
津波に飲み込まれたら、命を落としてしまう可能性は十分にあった。
「そんな……やっぱり、来てしまったんだな……」
舞を踊り終えたばかりのグラスが櫓の上にへたり込む。
彼女が捧げた舞が祭りの開始の合図。町の終わり、終末を告げるラッパの音になったのだ。
「馬鹿な……馬鹿な馬鹿な! あの古文書の記載は真実だったというのか!?」
一方、櫓の下で一人の男が叫んでいる。
四十代ほどのマーマン族の男だが、ウータもステラも知らない人物。
身なりの良い服装からして、それなりに地位のある人間なのだろうか?
(もしかして……グラス様の御父上?)
ステラは思い出す。
グラスが解読の終わった資料を領主である父親に見せたが、受け入れてもらえなかったと話していた。
古文書のことも知っているようだし……あそこで叫んでいるのが、父親の領主なのだろう。
「あり得ない……こんなことがあって良いものか! 本当に女神マリンが私達を見捨てたというのか!? 我ら陸のマーマン族がただ生贄だったとでも言うつもりか!?」
「……可哀そうに」
錯乱し、叫んでいる領主にステラは同情した。
信じていたものを打ち砕かれ、現実を直視できない男の姿が哀れで仕方がなかった。
このまま、あの男は現実を受け入れられないままに死んでいくのだろうか。
二人が……主にウータが慈悲をかけなければ。
「見て見て、ステラ」
「え?」
「蝶々。飛んできたよ」
津波が迫りくる海の方角から、淡い青の光がやってきた。
人魂のように揺らめきながら飛んでくる無数の光の群れ……よくよく見れば、それは燐光を纏った蝶の大群だった。
津波を背後にしてやってくる大量の蝶……それはまるで死人の国からの誘いのようであり、ステラの目には綺麗というよりも恐ろしく見える。
「すごい、ですね……」
「うん、すごいね。精霊流しみたいだ」
「ショーローナガシ?」
「ああ、僕の国のお祭りだよ。懐かしいね」
そんな暢気なことを言っている一方で、津波が押し寄せてきている。
町の低地にいた人々が慌てた様子で高台へと登ってきて、大勢の人々が揉みくちゃになっていた。
「ウータさん……!」
「大丈夫、ここまでは来ないと思うよー」
「でも……」
ステラが言いたいのは、津波を止める手段はないのかということだろう。
「うーん……気持ちはわかるけど、ちょっとどうにもできないかな?」
「そんな……」
「僕の能力では津波は止められないからねー。できないことはできないとして、やれることを考えよっか」
「あ……」
そんなことを話している間に、津波が到達してしまった。
ウータの目測通りに高台は無事だったが、町の半分が飲み込まれてしまう。
「うわあああああああああっ!」
「ギャアアアアアアアアアッ!」
人々の絶叫が二人がいる屋根の上まで響いてくる。
建物が崩れ、人々が沈み……水位が大きく上昇して、低地の部分が水底に消えた。
不幸中の幸いだったのは、舞の奉納を見るために住民の大半が高台に集まっていたこと。
もしも祭りの最中でなければ、もっと甚大な被害が生じていたはず。
「でも……これからだよ。本当に大変になるのはね」
「ウータさん……」
「もっとゆっくり、蝶々を楽しみたかったんだけどねえ」
あくまでもマイペースに言うウータの視線の先、海に呑み込まれた町でさらなる異変が生じる。
「ガアアアアアアアアアアアアアアッ!」
「ギャアアアアアアアアアアアアアッ!?」
海水から巨大な蛇が現れた。
電信柱のようなサイズの大蛇の口には町の住民らしきマーマン族の姿があり、巨大な咢によって飲み込まれてしまう。
津波に乗って、海の魔物が現れたのだ。
女神マリンに従う眷属であるモンスターが襲ってきた。
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
「助けてくれえええええええええええええっ!」
「嫌だ、やめ……うわあああああああああっ!」
魔物があちこちに現れ、水の中で人々を襲っている。
海に呑まれた人々は抵抗することも許されず、一方的に喰われていた。
「た、戦える奴はいないのか!?」
「誰か、みんなを助けてくれ!」
「い、家には息子が……息子がいるのよ!」
人々が泣き叫ぶ。
阿鼻叫喚。
高台でも低地でも地獄のような光景が広がっている。
「海を見ろ! 海底のマーマン族だ!」
高台にいた住民の一人が気がついた。
津波がやってきたばかりの海から大勢の影が猛スピードで泳いでくる。
それは海生マーマンの大群だった。
陸でしか生きられないこの町のマーマンとは違い、海の底を住処としているマーマン達が町に向かって泳いでくる。
「助けに来てくれたんだ……!」
「おーい、こっちだ!」
「助けてくれ! 魔物がいるんだ!」
高台の人々が声を上げて、海生マーマンの到来に歓迎の声を上げる。
しかし、それは本当の悲劇の始まりでしかなかった。
「グゲゲゲゲゲッ!」
「襲え、襲え!」
「喰らえ! 殺し尽くせ!」
町に到着した海生マーマンは同族であるはずの陸生マーマンを助けることはなかった。
彼らは溺れかけていた町の住民に襲いかかり、バリボリとその身体を喰らい始めたのである。
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