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68.前夜祭だよ!
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フィッシュブルクの町にやってきて六日目。
とうとう、祭り前日となった。
「今日は前夜祭でいっぱい屋台とかが出るらしいよ。せっかくだから、一緒に見て回ろうよ」
いつもより早起きをしたウータが笑顔でステラを誘う。
ステラは誘われたことにわずかに嬉しそうな顔をしつつ、「うーん」と難しい顔になる。
「お祭りは行きたいですけど……本当に良いんでしょうか? 何もせずにお祭りを楽しんでしまって」
ウータとステラは知っている。
この祭りが決して愉快なものではないことを。
明日には女神マリンに率いられた海生マーマンの軍勢が攻め込んできて、この町は津波に飲み込まれる。
この町に住んでいる陸生マーマンは彼らのエサであり、彼らが魔王に立ち向かうための栄養剤でしかないのだから。
「この町の人々は何も知らないから仕方がないです。しかし、事情を知っている私達が何もしなくて良いんでしょうか?」
「いいんじゃない? やるべきことはやったからね」
重い表情をしているステラに対して、ウータはどこまでも暢気でマイペースである。
「僕らが避難を呼びかけたって誰も逃げてくれないし、後はグーお姉さんに任せたら良いよ。海の中まで潜って敵を探すのも面倒臭いし……わざわざアッチから来てくれるんだから、待っていたらいいよ」
ウータがこの町に来た目的は女神マリンを倒して、食べてしまうこと。
そうやって肉体に神力を蓄えて、受肉した状態で邪神の力をフル稼働できるようにするためだった。
相手の方からやって来てくれるのがわかっているというのに、あえて自分から何かをするという意味が分からない。
「……まあ、ウータさんがそうおっしゃるのならそれで結構です。私はウータさんに従います」
ステラが諦めた様子で肩を落とす。
ウータならばそういうのであろうと予想していたようだ。
「うん、話がそれで終わりだったらお祭りに行こっか。僕って屋台を巡るのが大好きなんだよねー」
「はい、お供します」
気楽な様子のウータに連れられて、ステラも宿屋から出て行った。
外に出ると、そこはもうお祭りの真っただ中。
建物の屋根と屋根の間には国旗を下げた旗が懸けられており、楽器の演奏があちこちから聞こえてくる。
大通りにはいくつもの屋台が並んでおり、大勢の人々が行き交っていた。
「わあっ、すごい!」
「すごいですね……」
ウータが華やいだ声を上げて、ステラも驚きに瞬きを繰り返す。
「お花をどうぞ、旅人さん」
マーマン族の少女が駆け寄ってきて、ウータとステラの胸に花飾りを付けてくれた。
ウータの胸には白い花。ステラの胸には赤い花。バラとよく似た香りのする花である。
「ありがとう」
「ありがとうございます」
「はいっ! 大丈夫ですっ!」
少女がその花のように満面の笑みを浮かべて、二人に向けて手を差し出してきた。
どうやら、無料ではなかったらしい。
ステラが財布から銅貨を二枚取り出して、少女の掌に載せる。
「ありがとうございますっ! 今日は楽しんでいってくださいねっ!」
少女が銅貨を握りしめて、花の入った籠を片手に提げて走っていった。
「しっかりしてますね……」
「まあ、お祭りだからね。こういう散財も良いよね」
ウータとステラが顔を見合わせ、苦笑した。
普段であれば金を払ってまで花を購入したりはしない二人であったが、お祭りの日くらいは良いような気がしてくる。
祭りの日だけは、いつもならばいらないような玩具が欲しくて射的や輪投げをやってしまうのと同じ真理だった。
「まずは腹ごしらえだね。食べ物の屋台を探そうか」
「朝ですから、軽めの物が良いですよね……私はパンケーキとか焼き菓子が食べたいです」
「いいね。あとは焼き鳥とかステーキとか」
「……全然、軽めじゃないですね。お腹が空いているのなら私に遠慮せず、好きなだけ食べてもらって大丈夫ですよ」
「うん、そうするねー」
二人が並んで、お祭りムードに包まれた大通りを歩いていく。
屋台を覗いて、食べ物を買って……歩きながら食べて通りを進んでいった。
人の流れに乗って進んでいったのは町の高台である。
領主の屋敷がある区画。そこに近づいていくと、大きな櫓が建っているのが見えてきた。
「あ、あれってグーお姉さんじゃないかな?」
「そうですね。グラス様です」
櫓の上に見知ったマーマン族の女性がいるのを見つけて、二人はそこに向かって足を進めていった。
とうとう、祭り前日となった。
「今日は前夜祭でいっぱい屋台とかが出るらしいよ。せっかくだから、一緒に見て回ろうよ」
いつもより早起きをしたウータが笑顔でステラを誘う。
ステラは誘われたことにわずかに嬉しそうな顔をしつつ、「うーん」と難しい顔になる。
「お祭りは行きたいですけど……本当に良いんでしょうか? 何もせずにお祭りを楽しんでしまって」
ウータとステラは知っている。
この祭りが決して愉快なものではないことを。
明日には女神マリンに率いられた海生マーマンの軍勢が攻め込んできて、この町は津波に飲み込まれる。
この町に住んでいる陸生マーマンは彼らのエサであり、彼らが魔王に立ち向かうための栄養剤でしかないのだから。
「この町の人々は何も知らないから仕方がないです。しかし、事情を知っている私達が何もしなくて良いんでしょうか?」
「いいんじゃない? やるべきことはやったからね」
重い表情をしているステラに対して、ウータはどこまでも暢気でマイペースである。
「僕らが避難を呼びかけたって誰も逃げてくれないし、後はグーお姉さんに任せたら良いよ。海の中まで潜って敵を探すのも面倒臭いし……わざわざアッチから来てくれるんだから、待っていたらいいよ」
ウータがこの町に来た目的は女神マリンを倒して、食べてしまうこと。
そうやって肉体に神力を蓄えて、受肉した状態で邪神の力をフル稼働できるようにするためだった。
相手の方からやって来てくれるのがわかっているというのに、あえて自分から何かをするという意味が分からない。
「……まあ、ウータさんがそうおっしゃるのならそれで結構です。私はウータさんに従います」
ステラが諦めた様子で肩を落とす。
ウータならばそういうのであろうと予想していたようだ。
「うん、話がそれで終わりだったらお祭りに行こっか。僕って屋台を巡るのが大好きなんだよねー」
「はい、お供します」
気楽な様子のウータに連れられて、ステラも宿屋から出て行った。
外に出ると、そこはもうお祭りの真っただ中。
建物の屋根と屋根の間には国旗を下げた旗が懸けられており、楽器の演奏があちこちから聞こえてくる。
大通りにはいくつもの屋台が並んでおり、大勢の人々が行き交っていた。
「わあっ、すごい!」
「すごいですね……」
ウータが華やいだ声を上げて、ステラも驚きに瞬きを繰り返す。
「お花をどうぞ、旅人さん」
マーマン族の少女が駆け寄ってきて、ウータとステラの胸に花飾りを付けてくれた。
ウータの胸には白い花。ステラの胸には赤い花。バラとよく似た香りのする花である。
「ありがとう」
「ありがとうございます」
「はいっ! 大丈夫ですっ!」
少女がその花のように満面の笑みを浮かべて、二人に向けて手を差し出してきた。
どうやら、無料ではなかったらしい。
ステラが財布から銅貨を二枚取り出して、少女の掌に載せる。
「ありがとうございますっ! 今日は楽しんでいってくださいねっ!」
少女が銅貨を握りしめて、花の入った籠を片手に提げて走っていった。
「しっかりしてますね……」
「まあ、お祭りだからね。こういう散財も良いよね」
ウータとステラが顔を見合わせ、苦笑した。
普段であれば金を払ってまで花を購入したりはしない二人であったが、お祭りの日くらいは良いような気がしてくる。
祭りの日だけは、いつもならばいらないような玩具が欲しくて射的や輪投げをやってしまうのと同じ真理だった。
「まずは腹ごしらえだね。食べ物の屋台を探そうか」
「朝ですから、軽めの物が良いですよね……私はパンケーキとか焼き菓子が食べたいです」
「いいね。あとは焼き鳥とかステーキとか」
「……全然、軽めじゃないですね。お腹が空いているのなら私に遠慮せず、好きなだけ食べてもらって大丈夫ですよ」
「うん、そうするねー」
二人が並んで、お祭りムードに包まれた大通りを歩いていく。
屋台を覗いて、食べ物を買って……歩きながら食べて通りを進んでいった。
人の流れに乗って進んでいったのは町の高台である。
領主の屋敷がある区画。そこに近づいていくと、大きな櫓が建っているのが見えてきた。
「あ、あれってグーお姉さんじゃないかな?」
「そうですね。グラス様です」
櫓の上に見知ったマーマン族の女性がいるのを見つけて、二人はそこに向かって足を進めていった。
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