異世界召喚されて捨てられた僕が邪神であることを誰も知らない……たぶん。

レオナール D

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66.説得は失敗したけどご飯は美味しいよ

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「ダメでしたね……信じてもらえませんでした」

 町の高台にある領主の屋敷から坂を下りながら、ステラが悲しそうに言う。
 ウータは坂から見える景色をぼんやりと眺めつつ、「うん?」と首を傾げる。

「そうかな? わりと信用してもらえていたと思うけど?」

「でも……たぶん、グラスさんも町の人達も避難はしてくれませんよ。彼らを動かすことは難しそうです」

「まあ、そうかもね。でも……やれることはやったんじゃないかな?」

 元々、女神マリンを信仰しているこの町の住民には受け入れがたい話なのだ。
 問答無用で追い出されたり、「女神様を侮辱するなど許さん!」と追いかけられたりするよりはずっとマシである。

「それじゃあ、済んだことは忘れてレストランに行こっか。ご飯を食べて帰ろうよ」

「……時々、ウータさんがすごく羨ましくなりますよ。本当に」

 ステラが呆れと感心を混ぜたような顔になる。

「でも……ごはんに行くのは良いですね。無性に甘い物を食べたくなってきました」

「お、いいねえ。それじゃあ行こうかな」

 ウータがステラを連れて、昨日街で見つけた美味しそうなレストランに入った。
 そのレストランは高級店というほどではないが、オシャレな外装で気軽には入れないランクの場所。
 庶民のちょっとした贅沢というレベルの飲食店だった。

「ドレスコードとかはないみたいだから、このままでも大丈夫だよー」

「はい、綺麗なお店ですね。気に入りました」

 二人が揃って店に入ると、すぐさまマーマン族のボーイがやってくる。

「いらっしゃいませ。二名様でよろしかったでしょうか?」

「そうだよー」

「テーブル席とカウンター、個室がございますが如何いたしますか? 個室にはチャージ料として別料金がかかりますが?」

「個室でよろしく」

 ウータが言うと、ステラがやや驚いたように目を見開く。

「ウータさん? 良いんですか?」

「大丈夫だよー。だって、さっきグーお姉さんからお小遣い貰ったからね」

「お小遣いって……」

 ウータとステラが安全な場所まで逃げるためのお金である。
 善意で渡してくれた金をそんなことに使って良いのだろうか?

「町が滅んじゃったら、ここの料理も食べられないんだよ? 贅沢しなくっちゃ」

「……それでは、こちらにどうぞ」

『町が滅ぶ』などと不穏なことを口にしているウータに反応することなく、ボーイが営業スマイルを浮かべたまま二階の個室に案内してくれた。
 個室席のテーブルに向かい合って座り、ウータは南国フルーツジュースを、ステラはアイスティーを注文する。

「さて……それじゃあ、古文書の解読お疲れさまでしたということで」

「あ、もしかしてそれでレストランに連れてきてくれたんですか?」

「そうそう。何日も宿屋に閉じこもって頑張ってくれたから御礼にね」

 ウータがニコニコと笑いながら言う。
 頑張ってくれたから労う……それは人として当然の礼儀なのかもしれないが、やっているのはあの人でなしマイペースのウータである。
 ステラはわりと本気で心から感激した。

「ありがとうございます……!」

「うんうん、別にいーよ。そんなことよりも、さっさと乾杯しちゃおうよ」

「はい、そうですね」

「「乾杯」」

 二人がそれぞれのグラスを手にとって、軽くぶつけ合う。
 ストローでガラスのコップに入った液体を飲むと、口の中に芳醇な香りが広がった。

「美味しいです、このアイスティー。とても良い香りです」

「こっちのフルーツジュースも美味しいよ。南国の果実がすっごく爽やかなんだ。一口、飲んでみる?」

「あ、はい。それじゃあ、いただきます。ウータさんもアイスティーをどうぞ」

「ありがとー」

 二人は飲み物を交換して、お互いに味わった。
 ストローで間接キスになっていることにステラが頬を朱に染めるが、ウータは気にした様子はない。
 しばらくすると、料理が運ばれてきてテーブルに並べられた。
 海鮮を中心とした料理だったが、野菜料理や肉料理もある。

「わあ、美味しそうですね!」

「うん、食べよっか」

 ウータとステラがカチャカチャと食器を鳴らしながら料理を食べていく。
 テーブルマナーのなっていない二人であったが、この場にそれを指摘する人間はいない。

「それにしても……この町、本当に滅んでしまうのでしょうか?」

 料理を半分ほどたいらげたところで、ステラがポツリと言う。

「正直、古文書の内容が間違っていればいいと思いますよ。この町の人達は女神マリンを慕っているはずなのに、裏切られて殺されてしまうだなんて……」

 古文書の記述が間違っているのが一番良い。
 だが……そうでないと、女神フレアを知っているステラは思ってしまう。
 この世界の女神は残酷だ。人を塵芥としか思っておらず、平気で命を奪おうとする。

 あの古文書がわざわざ神殿の地下に隠されていたのも、女神マリンと海生マーマンに見つかって回収されないようにするため。
 後にこの町に移住してくる陸生マーマンに危険を知らせて、彼らを救うためのものだったのだろう。

「あの資料を誰が残したのかはわかりませんけど……その命がけの思いが無駄にならないと良いんですけどね……」

「モグモグ、ムシャムシャ」

「……すみません。食事が不味くなるような話をしてしまいました」

「べひゅにひひよー。ほんなことより、そろそろデザートたのふ?」

「はい、デザートをお願いしましょうか」

 どんな状況でもマイペースなウータに苦笑しつつ、ステラは店員を呼んでデザートをお願いするのだった。
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