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62.半魚人をしばくよ

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「えーと……僕は人から空気が読めないって、よく言われるんだけどさ」

 確実に殺したはずなのに蘇ったウータは、倉庫にいる半魚人を不思議そうに見回した。

「これはもしかして……騙されちゃったってことで良いのかな?」

「殺せ!」

 半魚人の一人が叫んだ。
 再び、ウータに攻撃が殺到する。

「ああ、やっぱりだ。参ったなあ」

「…………!?」

 ウータが即座に転移して、半魚人の背後に移動する。

「君は食材じゃないからこっちにしておくね」

 肩に手を触れて、力を発動。
 半魚人が一瞬で塵となって絶命した。

「な、何だと!?」

「何をしやがった!?」

 他の半魚人が動揺して叫ぶ。
 ウータは続いて、別の半魚人の背後に移動。背中にタッチして力を発動。

「どんどん行くよー」

 ウータが次々と半魚人を塵にしていく。
 倉庫に待ち伏せしていた半魚人が悲鳴を上げて逃げまどうが、構わず塵に変えていった。

「クソが! 襲え、食っちまえ!」

「フギャオオオオオオオオオオオオオオオッ!」

 シーリザードが巨体をのたうたせて、命じられるがままにウータに喰らいつこうとする。

「残念だけどさ。それはもう体験済みなんだよね」

「フギャアアアアアアアアアアアアアアアッ!?」

 ウータが掌から炎を出して、シーリザードの身体を焼いた。
 炭になるまで焼き尽くしたりはしない。
 さすらいの料理人に教わった通り、食材への愛をもって火加減を調整する。

「ミディアムレアだよ。君達はそれが一番美味しいってわかったからねー」

 こんがりと焼いたシーリザードから香ばしい匂いが香ってくる。
 ステラへの良い土産ができたと、ウータはホクホク顔になった。
 焼かれてしまったシーリザードを見て、半魚人の一人が怒りの声を上げる。

「テメエ……よくもウチのナンシーを!」

「アレ? もしかしてペットだったのかな?」

「ナンシーは俺が子供の頃に拾って育てて、たった一人の友達で……!」

「あっそ。それじゃあ、なおさら美味しくいただくねー」

「あ……」

 怒っていた半魚人も塵にする。
 塵にしてしまってから、ふとウータは首を傾げる。

「アレ? もしかして……この町に来た時に襲ってきた山椒魚も君達が操ってたりするのかな?」

 この町はたびたび巨大山椒魚……つまりシーリザードに襲われていたようだが、ここにいる半魚人が黒幕だったりするのだろうか?
 もしもそうだとしたら、彼らの背後に何らかの陰謀が渦巻いているのかもしれない。

「ま、いっか」

「ギャッ!」

 彼らに聞かなければいけないことがあるような気もするが……面倒臭くなったので、ウータは尋問を諦めた。
 この半魚人が何者であるかは知らない。どうでもいい。
 ウータにとって重要なのは降りかかる火の粉を払うこと。
 そして、今晩のご飯を美味しく食べることだけだった。

「や、ヤベエ……コイツ、ヤバすぎる……」

 ウータが半魚人を殺していく一方で、怯えて顔を青ざめさせているのはウータをここまで連れてきたマーマンの少年である。
 このままでは、少年もまた殺されてしまうだろう。
 半魚人がウータの命を狙っていることを知っていて、それでも騙して連れてきたのだから。

(と、とにかく誤魔化さないと……そうだ、俺も騙されていたことにして……)

 手段は選んでいられない。
 自分には待っている家族がいるのだ。絶対に生きて帰らなければいけない。

「こ、恐かったよー! お兄さーん!」

 全ての半魚人がやられてしまったタイミングで少年が飛び出した。
 ウータに泣きついて、自分も嵌められていたことをアピールして見逃してもらおうとする。

「あ」

「へ」

 しかし、自分に抱き着こうとしてきた少年の腕をウータが掴んだ。
 そのまま流れで力を発動させると……マーマンの少年が半魚人と同じように塵にされてしまった。

「アレ? もしかして間違えちゃったかな?」

 少年を塵にしたウータは首を傾げるが……「ま、いっか」と目の前の塵の山を軽く踏みつける。

「倉庫を汚しちゃったな。怒られないうちにさっさと引き上げよっと」

 ウータはこんがりと焼いたシーリザードが冷めないうちにアイテムボックス(?)に収納した。
 大量の塵を残したまま転移して、その場を立ち去ったのである。

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