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59.お料理ふるまうよ
しおりを挟む「ウムウム、火加減はかなり上手くなった。合格なのであーる!」
「ありがとー。コックさんもすごい包丁さばきだったよ。おかげで上手に料理できるようになったよー」
陸に戻ってきた二人は握手を交わして、お互いの健闘をたたえ合う。
ムッシュ・ジョナストのおかげで『神の火』を使いこなせるようになった。
ただし……あくまで食材を焼く場合のみの限定であったが。
「料理は愛情。食材への愛を忘れないようにするのであーる!」
「はいはい。覚えておくよー。それじゃあ、またねー」
ウータはたっぷりの海鮮と調理済みの料理をお土産にもらって、ムッシュ・ジョナストと別れた。
もちろん、両手では持ち切れないのでアイテムボックス(?)に入れている。
時間はすでに夕刻。西の海に夕日が沈みかかってくる。
ウータはウキウキとした足取りでステラが待っている宿屋に帰った。
「ただいまー」
「あ、お帰りなさい」
部屋の扉を開くと、ステラが何冊もの本を床に広げている。
いずれも古い本だった。水の神殿の地下室から持ってきた物である。
「アレ? もしかして一日中解読していたのかな?」
「あ、はい。ついつい夢中になってしまって……」
「熱心だなー。ご飯はちゃんと食べたの?」
「えっと……朝ごはんは食べたんですけど……」
ステラが窓の外に目を向ける。
すでに日は沈みかけ。夕暮れ時だった。
「……お昼は食べそこねてしまいました」
「しょうがないなあ。ほらほら、僕が作ったごはんがあるからお食べ」
「ウータさんがご飯を? え、お一人で作ったんですか?」
「ううん、プロのシェフの人に手伝ってもらったよ。さすらい料理だね」
「さすらい料理って何ですか……あ、でもお料理は美味しそう……」
ウータが取り出した海鮮料理をテーブルの上に並べていく。
海の幸で出汁を取ったスープ、焼いたタコの足、マグロやカツオの刺身、具材たっぷりの海鮮鍋、巨大二本足サンマを焼いた何か……いずれも食欲を誘う匂いを放っており、ステラは今さらながら自分が空腹であることに気がついて「クウッ」と可愛らしくお腹を鳴らす。
「食べて良いんですか?」
「うん。食べて食べてー」
「それじゃあ、いただきます」
ステラが料理をパクパクと食べる。
ウータは船の上で腹いっぱいに食べてきたので、その様子をジッと見つめていた。
「あ、これすごく美味しい。お魚の出汁がよく出ていますね」
「こっちのも中まで火が通っていて、柔らかくて歯応えが良いです」
「コリコリしてて、食べていて気持ち良いですね」
「これはえっと……よくわからないけど美味しいです」
「…………」
感想を口にしながら食べるステラを見つめるウータであったが……胸に不思議な気持ちが湧き上がるのを感じた。
「何というか……悪くないなあ」
「え、何がですか?」
「いや……自分が作った料理を人が美味しそうに食べてくれるのって。自分で食べているわけでもないのに嬉しい気持ちになるね」
それはウータにとって初めての感情だった。
食べるのは大好きだが料理はしないウータにとって、自分の料理を人に食べさせた経験はほとんどない。
こうして、誰かに振る舞ったのはこれが初めてである。
「料理が好きな人って、こういうのが好きで始めるのかな? 料理は愛情ってこういう意味なのかもね」
「ウータさん……」
そんなウータの言葉を聞いて、ステラは正体不明の感動を覚えた。
ウータが自分に料理を振る舞い、美味しそうに食べるのを見て喜んでいる。
それが妙にステラの心を揺さぶって、感動すら起こしていた。
「……子供の情操教育に成功した気分です。ウータさんにそんな人間らしい感情があるなんて」
「アレ、僕って子供? ステラって僕のお母さんだっけ?」
「いえいえ、その気持ちは大切にしてくださいね」
「うーん、それはわかったけど……そうだ。お姉さんにお土産を持っていくんだった」
ウータは朽葉に先日の醤油のお返しをするため、料理が入った鍋を手に転移を発動させる。
「今晩はー」
「ギャアッ!?」
ウータが賢者の塔に転移すると、朽葉は入浴している最中だった。
広々とした浴槽に足を伸ばして浸かっているところを踏み込まれて、怪獣の鳴き声のような悲鳴を上げる。
「ま、また!? いや、というか何でここに!?」
「いや、お醤油のお礼にと思って料理を持ってきたんだ。あ、これもお土産ねー」
「ヒエッ!?」
ウータが収納用の亜空間の中から新鮮な魚貝を取りだした。
巨大な魚や貝がボチャボチャと浴槽の湯の中に投下される。
「ええっ!? こんな所に出されて、いったいどうしろと……!?」
「それじゃあ、お鍋もここに置いておくね。またねー」
いかにウータとはいえ、女性の入浴中に長居してはいけないということくらいはわかる。
渡す物を渡すと、さっさと転移でその場を離れた。
「渡してきたよー」
「おかえりなさい、えっと、誰に渡してきたんですか?」
「賢者のお姉さん」
「ああ、ユキナ様ですか。喜んでくれましたか?」
「うん、ビックリしてた」
「サプライズというやつですか。良かったですね、喜んでもらえて」
「うん。それじゃあ、ご飯の続きをしよっか」
「はい。食べましょう」
ウータとステラは食事を再開させた。
一方で朽葉は塔の警備を強化させ、特に転移対策を重点的に行うことにしたのである。
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