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57.変な人と会ったよ

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 フィッシュブルクの町に来て三日目。祭りまであと四日。
 その日はウータとステラ、二人で別々に行動することになった。

「私は宿で見つけた本を読解してみたいと思います。ウータさんは好きなように出かけてもらって大丈夫です」

「そう? 何だか面倒事を頼んじゃったみたいで申し訳ないね」

「本を読むのは好きですから問題ありませんよ。古代文字も研究したことがありますからね」

 ステラを一人残して遊びに行くのは申し訳ないが、だからといって、ウータに手伝えることはない。
 仕方がないので、適当に町をぶらつくことにした。

「それじゃあ、お土産買ってくるね。また後で」

「はい、行ってらっしゃい」

 ステラを宿屋に残して、ウータはブラブラと外に出た。
 相変わらず町には観光客が多く、人の行き来も多い。
 先日は魔物が出たようだが……さすがに、滅多にあんなことはないようである。

「うんうん、平和で結構だね」

「ギャアアアアアアアアアッ! モンスターだああああああああっ!」

「平和平和……魔物は出たみたいだけどね!」

 どこからか悲鳴が聞こえてきた。
 声の方に目を向けると、大勢の人間がこちらに走ってくる。
 そして、その背後に続くのは先日の魔物。シーリザードであった。

「フギャアアアアアアアアアアアッ!」

「ええ、また山椒魚が出たよ」

 もしかして、この魔物はそこら中にうろついているのだろうか。
 短い脚でこちらに駆けてくるシーリザードを前にして、ウータの口調は暢気なもの。
 巻き込まれないように適当な場所に転移しようとして……止める。

「うーん……先日のこともあるし、倒しちゃった方がいいのかも?」

 シーリザードを倒したことにより、ウータとステラは高い宿にタダで泊まることができている。
 情けは人の為ならず。
 たまには善行も良いかもしれない。

「そうと決まれば……えいっ」

「フギャッ!?」

 ウータが転移をして、今まさに逃げる人々に食らいつこうとしていたシーリザードを踏みつけた。
 強制的に口を閉じられて、シーリザードが苦しげに呻く。

「せっかくだから、練習台にしてみよっかな……『神の火』」

 発動したのはいつもの塵化ではなく、女神フレアから奪い取った火の権能である。
 シーリザードの身体に触れて力を使うと、象ほどの大きさの巨体が火柱に包まれた。

「フギャ……」

 シーリザードが絶叫を上げる間もなく、焼き尽くされて絶命する。
 こんがりと綺麗に焼けた魔物の死骸が残された。

「うーん……レアくらいの焼き加減にするつもりだったんだけど、やっぱりダメだなあ。ウェルダンだよ」

 どうにも火加減の調整が上手くいかない。
 元々、他人から奪い取った借りものの力である。
 上手に扱うことができないのは仕方がないことだった。

「何はともあれ、これにて解決。今回は一匹だったみたいだし……」

「おお……シーリザードがこんなにしっかりと焼けて! これは素晴らしいぞ!」

「…………うん?」

 急に知らない人が出てきた。
 逃げまどっていた人の中から、白いコック服をきた大男が現れる。

「幻の食材。海の食宝であるシーリザードをお目にかかれるとは運が良い! 出来れば新鮮なうちに会いたかったぞオオオオオオオオオオオオオオオッ!」

「えっと……誰かな?」

「おお、申し遅れた! 私の名前はさすらいの魔物料理人。ムッシュ・ジョナストであーる!」

 コック服を着た大男がカイゼル髭を撫でつけながら、そんな自己紹介をする。

「さすらいの……魔物料理人?」

「ウム、魔物料理人とは魔物を食材として調理するコックのことであーる! この町には海の魔物を求めてきたのであーる!」

「……変なしゃべり方の変な人だ」

 ウータが率直な感想を口に出す。
 普通であれば、関わりにならずに敬遠するべきタイプの男性が目の前に現れた。
 無視して立ち去ってもいいのだが……ふと気になって、ウータは訊ねる。

「幻の食材とか言ってたけどさ。このでっかい山椒魚が食べられるの?」

「ウムウム、その通りであーる!」

 魔物料理人……ムッシュ・ジョナストなる人物が包丁を取り出し、ウータの足の下で丸焦げになっているシーリザードに突き立てた。
 器用な手つきで腹の肉を切り取って皿に載せ、そこに調味料らしき粉をパッパッと振るった。

「これで良いのであーる! さあ、実食!」

「…………」

 ムッシュ・ジョナストがウータに皿を差し出してきた。
 得体のしれない巨大山椒魚のステーキが目の前にある。
 いきなり、こんな物を差し出されて口にする人間はいないだろう。

「いただきます」

 ウータを除いては。
 ウータはそれほど躊躇うことなく、シーリザードの肉を口に入れてモグモグと咀嚼する。

「これは……」

 その肉は鴨肉によく似ていた。
 コシがあって、微妙に臭みがあって、それでいてまろやかでしつこくない。
 これはステーキに調味料を振りかけただけだが、うどんやスープに入れたらもっと美味しくなる気がした。

「好き嫌いが分かれる味だけど……僕は嫌いじゃないね」

「ホッホウ! 少年、なかなか見どころがあるではなーいか!」

 ムッシュ・ジョナストがビシリと指を突きつけてくる。

「だが……この魔物はレアの焼き加減が至上なのであーる! これでは火を通し過ぎなのであーる!」

「へえ、そうなんだ」

「料理に火加減は命! 修行が足りないのであーる!」

 よくわからないが、叱られてしまったようだ。
 ウータ自身、火の調整が苦手なので何とも言えない。

「火加減かあ……どうやったら上手くなるのかなあ」

「それはもちっろん! 食材への愛なのであーる!」

「愛?」

 独り言のつもりだったのだが、ムッシュ・ジョナストがまさかの返答をする。

「食材を愛していれば、決して火加減を間違えることはないっっっ! 少年には食材を少しでも美味しく食べてやろうという想いが足りないのであーる!」

「愛、愛か……」

 言われてみれば。
 これまで、ウータは炎の力を使って敵を倒してきただけであり、彼らを美味しく食べようという意識はなかった。
 そのせいで火の威力を調整できなかったのだ。

「そ、そうだったのか。僕には愛が足りなかったのかー!」

 背後にピシャリと雷をほとばしらせる勢いで、ウータが叫んだ。

「フッフッフ……少年はまだ若いので仕方がないのであーる! 望むのであれば、このムッシュ・ジョナストが極意を伝授してやるのであーる!」

「よくわからないけど、お願いするよ。ご飯は美味しく食べたいからね!」

 ウータが謎の料理人……ムッシュ・ジョナストへの弟子入りを了承した。

 わけのわからない男と細かいことを気にしない少年。
 二人の謎の出会いを、周囲にいる町の住民と観光客が唖然として見つめていた。
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