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51.食うか食われるかだよ

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 ウォーターランド王国にやってきたウータとステラは陸の首都・・・・である『フィッシュブルク』に到着した。
 海に面した港町であるこの町では年に一度、水の神マリンを称える祭りが開かれるらしい。
 観光のためか交易のためか、多くの船が港に着いているのが遠目にも見えた。

「アレ? この国ってマーマンって水の人達の国なんだよね? 陸の上に首都があるのかな?」

 丘の上からフィッシュブルクの町を見下ろして、ウータが疑問を口から出す。
 その質問の答えも旅の道中ですでに話していたのだが……ステラが律義に説明を繰り返す。

「マーマン種族は陸と海にそれぞれ首都を持っているんですよ。彼らは全員が海中で生活できるわけではないので、生活場所を分けているんです」

「海中で生活できない人もいるんだね」

「はい……マーマンは水の神マリンが魚に知恵を与え、人の姿を与えたことで生み出された種族であるされています。しかし、人に近づきすぎてしまったために海中での生活に適応できなくなってしまい、陸に上がることを余儀なくされた人達がいるんです。フィッシュブルクはそんな陸生のマーマンが暮らしている町ですね」

「ふーん……それじゃあ、その人達は人間と変わらないのかな? 肌は青いみたいだけど……」

 フィッシュブルクの周囲では、青い肌の人間達がクワを振り、畑を耕していた。
 身体のあちこちにエラや鱗があって一目で人間ではなくマーマンであるとわかる。

「基本的な生活スタイルは私達と一緒ですね。ただし、水中で生活はできなくても、普通の人間よりはずっと泳ぐのが速くて、魚を獲るのも上手いそうですよ。農業と漁業の両方をしながら生活しているとか」

「へえ、やっぱり漁村の人と変わらないね。まあ、何でも良いけど」

 マーマン達がどのように暮らしていようが、ウータにとってはどうでもいいことである。
 そんなことよりも……重要なのは、この国にやってきた目的だ。

「それで……水の神様はどこにいるのかな? やっぱり神殿にいるのかな?」

「えーと……『青の火』の話によると、今から一週間後に水の神マリンを称える祭典があるようですね。彼女もそこに現れるとか」

「一週間か。まだ時間があるね」

 果報は寝て待てというが、どのように時間を潰そうか。

「うーん……女神マリンについて調査をするのはどうでしょう? 弱点などがわかれば与しやすくなるかと思いますけど」

「ああ、いいね。そうしようか」

「それと……個人的な希望としては、町を見て回りたいですね。ウォーターランド王国に来るのは初めてですから、観光してみたいです」

「うんうん、いいね。それも採用。僕もあっちこっち見て回りたいかなー」

 ファーブニル王国の王都や魔法都市オールデンも散策したが、それなりに楽しむことができた。
 せっかく外国に来たのだから、ゆっくり観光したいという気持ちはウータにもある。

「それじゃあ、行こうか。とうっ!」

「あ……」

 ウータがステラの腕を掴んで、小さくジャンプした。
 次の瞬間には周囲の気配が一変する。
 フィッシュブルクの街中へと転移したのだ。

「う、ウータさん! 転移するのなら先に教えてくださいよっ!」

「えへへへ、ごめんねー……って、アレ?」

 町の住民と思わしき女性の悲鳴が響きわたる。
 急に目の前に現れたウータに驚いて、絶叫したというわけではない。
 フィッシュブルクの大通り……多くの人が行き交っているそこに、巨大な怪物がいたのである。
 そこにいたのは山椒魚サンショウウオとよく似た生き物だった。
 太い胴体、短い四本の脚、ヌメヌメの液体で湿った体表。しかし、身体の大きさは象ほどもあって、人間を一飲みにできそうなほど口が大きい。

「ブモホオオオオオオオオオオオッ!」

「アレ? これもマーマンさんの仲間?」

「そんなわけないと思いますよ!? これ町が魔物に襲われているんじゃないですか!?」

 暢気なウータにステラが叫んだ。
 巨大な山椒魚は建物を壊し、露店を踏み潰しながら大通りを闊歩している。
 青い肌の人間……マーマン達が悲鳴を上げて逃げまどっていた。

「いやいや、この町はもうじきお祭りがあるんだろう? これも出し物の一環かもしれないよ?」

「いや、みんな悲鳴上げて逃げてますけど!?」

「そういう踊りの可能性もあるよ? 牛追い祭り的な可能性もあるし」

 ウータがテクテクと巨大山椒魚に近づいていき、手を差し出した。

「ほら、お手」

「ブモウッ」

「あ……」

 巨大山椒魚が大きな口を開け、ウータの身体を一呑みにした。

「う、ウータさんんんんんんんんんっ!」

 衝撃映像を目撃したステラの絶叫が大通りに響き渡ったのである。

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