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49.幼馴染は入浴する

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 南雲竜哉が淡い恋心に身を焦がしている一方。
 王宮にある女性用の浴室では、三人の女性が集結まっていた。

「あれ、千花っちも来たんだ?」

「美湖、それに和葉もいたのね」

「千花さん、お疲れ様です」

 広い浴室で先に入浴していたのは北川千花の幼馴染である女子……東山美湖、西宮和葉の二人である。
 二人は美しい肌を惜しげもなくさらして湯船に浸かっていた。
 後からやってきた千花に和葉が細い首を傾げながら問う。

「今日も騎士の方々と鍛錬なさったんですか?」

「ええ、竜哉と一緒にね。二人は珍しいわね。昼間から入浴だなんて」

「それは……」

 和葉が横目で、隣にいる美湖に意味ありげな視線を送る。
 責めるような目を向けられて、美湖が「ニヘヘヘ」と誤魔化すように笑う。

「二人で魔法の練習をしていたんだけど……火の魔法に失敗しちゃって、二人とも灰まみれになっちゃったんだよね。だから、身体を洗いに来たのよ」

「ああ……なるほどね。ご愁傷様」

 千花が同情したような目を和葉に向ける。
 美湖は『賢者』として魔法に長けていたが、おっちょこちょいでたまにそんな失敗をするのだ。
 日本にいた頃もたびたびトラブルを起こして、幼馴染の四人がフォローしていた。

「フウ……温かいわね。異世界だけど、シャワーもお風呂もちゃんとあって助かったわ」

 千花がシャワーで汗を流してから、二人に続いて湯船に浸かる。
 異世界に来てしまったときにはどうなることかと思ったが……この世界は意外なほどに技術が進んでおり、シャワーもあればコンロもある。
 ごく一部の人間しか所有していないが、魔力で動く自動車もあるようだ。
 それらの技術は『ユキナ様』という大賢者が開発したとのことだが、名前からして日本人だろう。
 魔法都市という場所にいるようだが……いずれ会いに行こうと、竜哉を含めた四人で話していた。

 普段は長い黒髪をポニーテールにしている髪を下ろした活発な女子、北川千花。
 金色に染めた髪を湯で濡らし、タオルすら付けずにムチムチの肢体をさらした女子、東山美湖。
 烏羽玉のような黒髪を背に流し、楚々として淑やかな仕草でさりげなく乳房を隠している女子、西宮和葉。

 三者三様。
 タイプの異なる美少女が並んで湯に入っている姿は絶景であり、もしもこの場に男がいたら垂涎して目の前の光景に魅入っていたことだろう。

「……ウータ。今頃、どこで何をしているかしら?」

 三人の話題に上るのは、幼馴染である少年……花散ウータについてだった。
 ここにいる三人はいずれもウータに対して恋心を抱いているのだ。

「ウータのことだから無事だとは思うけど……そろそろ、ウータ成分が足りなくなってきちゃったよ。早く会いたい」

 美湖が瞳を伏せて唇を尖らせる。
 和葉も遠い目をして、ここにいない幼馴染について語る。

「ウータさんは私達と違って、特別な方ですからね。きっと今頃、元の世界に帰るための手掛かりを見つけているんじゃないでしょうか」

「ウータだものね。それくらいできておかしくないわね」

 千花が苦笑した。
 ここが異世界であることを考慮しても、花散ウータという少年は特別な人間だった。
 何故か、最初の職業診断では『無職』というこの世界における最底辺のジョブだったものの……それがウータの価値を下げるわけがない。

「命の心配はいらないだろうけど……ウータのことだから、無意識で女の子を口説いていないか心配よね」

 ウータは女子に興味がない。
 そのくせ、女性関係のトラブルに遭いやすい悪癖があった。
 女性から好かれることもあれば、憎悪を向けられることもある。
 誘蛾灯のように良い縁も悪い縁も引き寄せて、女性がらみの騒動を引き起こしてしまうのだ。

「心配だわ……変な女に引っかかっていないと良いんだけど……」

「う……嫌なこと言わないでよね、千花っち。私も心配になってきちゃったじゃん」

 美湖が湯に顔を鎮めて、ブクブクと息を吐く。
 隣の和葉がそんな友人に寄り添って、優しく声をかける。

「大丈夫ですよ……美湖さん。ウータさんはいずれ必ず、私達のところに帰ってきます」

「和葉っち?」

「仮に命を助けた子供に好意を寄せられても、敵であるはずの女性を篭絡しても、女騎士から殺意を向けられても、綺麗な年上の賢者様に貸しを作っても……邪悪な女神様と敵対関係になったとしても、最後には私達のところに戻ってきますよ。そう決まっているんです」

「や、やけに具体的なこと言うよね。和葉っち」

「……和葉って、たまにそういう不思議ちゃんなことを言うわよね。占いのようなものなのかしら?」

「ウフフフ……」

 千花と美湖が顔を見合わせて、苦笑いをする。
 そんな二人に和葉が淑やかに、それでいてどこか妖艶な笑みを浮かべた。
 和やかに会話をしながら……三人は温かな湯の熱に白い肌を色っぽく染める。

 千花と美湖は知らない。
 二人の友人……和葉が『聖女』として、信仰対象に対して精神的な『リンク』を持っていることに。
 和葉は好意を抱く信仰対象……ウータのことを心の目によって監視しており、スピリチュアルストーカーと化していた。
 ウータが冒涜的な邪神の姿に変貌して神殺しを成す場面も目にしており、狂気にも近い崇拝を抱いていたのである。

 千花と美湖が和葉の秘密を知り、幼馴染の狂った恋慕にドン引きするのは……まだまだ先のことなのであった。
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