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46.さよなら、ふぁんぶる王国

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 戦後処理もそこそこに。
 朽葉によって、ウータとステラは『賢者の塔』に連れてこられた。
 再び研究室を訪れた二人に向かって、朽葉が頭を下げる。

「フウ……まずは御礼を言わないといけないわね。ありがとう、貴方達のおかげで『火の神殿』を撃退することができたわ」

 朽葉が疲れ切った様子で言う。
 魔法都市オールデンを管理している彼女にとって、今回の出来事は大きかっただろう。
『火の神殿』が最高戦力である『フレアの御手』を使ってまで、攻め込んできたのだから。

「壊れた城門の修復、死んでしまった人達の家族へのケア、それに今後の『火の神殿』への対応……やらなくちゃいけないことは山積みだけど、とりあえずは最悪のケースは避けられたわ。貴方達のおかげね」

「そんな……ウータさんはともかく、私は御礼を言われる立場じゃありません……」

 ステラが恐縮した様子で縮こまる。
 かつては『フレアの御手』のメンバーだったステラとしては、感謝をされた方がかえって気まずい。

「ああ、貴女は彼らの仲間だったのね。だけど、完全に手を切ったから私達に手を貸してくれたんでしょう? だったら、恩人と変わりないわ」

「もぐもぐ、むしゃむしゃ」

 ウータはそんな話を聞いておらず、お茶と一緒に出されたチョコレートを一心不乱になって食べている。

「『火の神殿』は……この世界の神達は昔からそうなのよ。平気で人間を殺して、人の生活を壊すことを何とも思っていない。だから、『魔王狩り』なんて命がけのゲームを行うことが出来るんだわ」

 多くの人間は知らないことだが……この世界において、神とは必ずしも人間の味方ではない。
 気に入った人間、自分を深く信仰している人間に対しては寛大に振る舞うことはあるが、それ以外の人間に対しては残虐で無慈悲。
 村や町を焼いたり、人間同士を殺し合わせたりなども珍しくはない。

 かつて「元の世界に帰して欲しい」と女神フレアに懇願しに行った朽葉の仲間達もまた、二度と帰っては来なかった。
 朽葉が強い憎悪を瞳に浮かべて、宣言する。

「今回の一件で『賢者の塔』は『火の神殿』と完全に決別した。私は神を殺す研究を完成させて、女神フレアを殺して見せる……!」

 神を殺す。仲間の仇を討つ。
 人間であるはずの朽葉が断言した。
 賢者として五百年を生きている朽葉が、神とその信徒と全面対決することを決意する。

「賢者様……」

「貴方達はこの都市から離れた方が良いわ。『フレアの御手』を殺した花散君に裏切り者のステラさん……二人は最優先で命を狙われるはずだから。女神フレアの手の届かないところ……人間種族以外の国に行くのがいいわね。この世界に神の手の届かない場所は少ないけれど、ここにいるよりはマシなはずだから」

「えっと……?」

 ステラが困った様子で、ウータと朽葉の間で視線を彷徨わせる。
 先ほど、『青の火』との会話でウータは言っていた……『女神フレアを殺した』と。
 いくら強くても人間でしかないウータにそんなことが可能であるかは不明だが、ハッキリそう口にしていた。

(さっきのアレ、朽葉さんに教えた方が良いんでしょうか? いえ、でも女神を殺すだなんて本当かどうかもわかりませんし……?)

『青の火』は女神の加護が消えたことでそれを知ったようだが、ステラは『フレアの御手』であった頃にも加護は受けていない。
 女神フレアは男好きだ。女であり、一時的な数合わせでしかなかったステラは冷遇されていたのである。

「もぐもぐ、むしゃむしゃ」

(ウータさんは黙ってますし、これは話さない方が良いんですよね……)

「が、頑張ってください。とりあえず、私とウータさんはこの国を出ます」

 ステラが頭をひねりながらそう言うと、朽葉は「それがいいわ」と穏やかに笑った。

「いずれ私は元の世界に帰る方法だって見つけてみせる。無事に研究が果たされたら、貴方にも知らせるわね」

「べふにひひよー? ぼふはもう、はえるほーほーをみひゅけひゃかりゃ」

「食べながらしゃべるんじゃないの……久しぶりに日本人と会えて嬉しかったわ。どうか、元気で……」

「はよならー、あにゃたもへんきでー」

「賢者様もどうかお元気で、色々とお世話になりました……」

 ウータとステラは餞別としていくらかの金銭と食料、コーヒーやチョコレートなどの嗜好品を受けとって魔法都市オールデンを後にした。
 自分と同じ日本人と遭遇することになったウータであったが……彼にとって、朽葉という女性は「お菓子を分けてくれた優しいお姉さん」という程度の認識でしかない。
 チョコレートに夢中になっていたために会話にもついていけておらず、すでに女神フレアがこの世に存在しないことも伝えそびれてしまったのである。

 かくして、物語の舞台は水の国『ウォーターランド王国』へ。
 水の女神マリンを探すべく、二人はマーマンと呼ばれる種族が治める国へと向かっていったのである。

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