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33.お猿さんだよ

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 岩山を上っていくと、そこには黒い猿が群れを成して居座っていた。

「あ、デーモンエイプがいたよ」

「は、はひい……」

 ウータが嬉しそうに言う。
 猛スピードで岩山を跳んできたおかげで、ステラの方は目を回していたが。

「ウキッ!」

「ギイギイッ!」

「ウギャギャギャッ!」

 ウータ達の存在に気がつくと、デーモンエイプがこぞって歯を剥いて威嚇してくる。

「おお、元気がいいなあ。サファリみたいだ」

「た、たくさんいますね」

 デーモンエイプは二十匹以上もいる。
 彼らは地面の石を持ったりして、身構えていた。

「猿山みたいだね。文字通りに」

「そうですね……何というか、すごく吠えてますね」

「素材はどれくらい必要なんだっけ?」

「まあ、五匹分くらいは必要かと」

「あ、そう」

 ウータが転移して、こちらに向かって威嚇しているデーモンエイプの後方に移動した。

「えい」

「ギャ……」

 デーモンエイプが塵となる。
 仲間を殺されたデーモンエイプが混乱した様子で吠えるが、ウータが次々と塵にしていった。

「ギイ……ギイ……」

「はい、これであと五匹。他は邪魔だから消しちゃった」

「……そうですか」

 素材を採集する五匹を除いて、デーモンエイプは一匹残らず塵になった。
 デーモンエイプの中には子猿を連れた親もいたのだが、ウータに躊躇ためらいはない。
 ステラが差し出したナイフを手に取ると、怯えている生き残りのデーモンエイプの傍に転移して首に刃を突き刺していった。

「…………」

「はい、おしまい」

「……そうですね。それじゃあ、素材を切り分けましょう」

 容赦のないウータの行動に若干引きながらも、ステラはデーモンエイプの死骸に歩み寄る。
 魔物の心臓である核、毛皮、爪、牙……必要な素材をナイフで切り分けて、丁寧に回収していく。

「へえ、上手だね」

「神殿にいた頃に家畜の解体をよくやらされましたから」

「そうなんだ。お坊さんってお肉は食べないイメージがあったんだけど、神殿の人達は食べるんだね」

「……そうですね。食べていました」

 本当はこの世界の神官にも粗食の戒律があるのだが、ステラがいた『火の神殿』の上級神官達がそれを守っている様子はなかった。
 信者から寄付を集めては金銀財宝を買いあさり、娼婦を抱いて、肉や酒を容赦なく喰らう……全ての神官がそうということではなかったものの、生臭坊主ほど出世が早いという勝手なイメージを持っている。

「『火の神殿』の人達は粗暴な人が多かったですから……奴隷の子供を苛めたり、よくしていました」

「へえ、酷い人達だったんだね」

「……はい。酷い人達でした」

 ステラがわずかに表情を曇らせるが、ウータはのほほんとした様子である。
 切り分けられたデーモンエイプを見下ろして、「猿の肉って食べられるのかな?」などと見当違いなことを考えていた。
 そうこうしているうちに、素材の切り分けが終わった。
 ステラがデーモンエイプの素材を道具袋に入れる。

「はい。これを持っていけば『塔』の方々も悪いようにはしないはずです。賢者様に会うとっかかりになると思います」

「うん、ありがとね。助かるよ」

「いえ、助けてもらっているのは私の方ですから。それよりも……帰りは山を下っていくんですか?」

「いやいや、もう登山は十分に楽しんだから別に良いかな。転移を使って降りようか」

「そうですね、それが良いと思います」

 登山はのぼりよりも下りの方が危険だという話を聞いたことがある。
 実際にどうなのかは知らないが、あえて時間をかけて歩く必要はないだろう。

「それじゃあ、このまま転移して……」

「ギャアアアアアオオオオオオオオオオオオオオオッ!」

「宿屋でご飯を…………ん?」

 身の毛がよだつような絶叫。
 地の底から響いてくるような鳴き声に、ウータが不思議そうな顔をする。

「う、ウータさん! アレ、アレ!」

「…………あれ?」

 見上げた先、二人がいるよりもわずかに登ったところに巨大な黒い影があった。
 それはデーモンエイプと同じものに見えた。
 しかし、おかしいのはサイズ感。デーモンエイプの大きさはせいぜいチンパンジーと同じほどだったのだが、その猿は明らかに大きい。
 ゴリラやオラウータン以上のサイズがあったのだ。

「ギャアアアアアオオオオオオオオオオオオオオオッ!」

「あれもデーモンエイプかな? 元気がいいね」

 動物園の珍獣を見るように興味深そうにつぶやくウータに、巨大デーモンエイプが手近な岩を持ち上げた。
 人間など容易に押し潰せるであろうそれを迷いなく投擲して、ウータ達を攻撃してきたのである。
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