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25.餌付けされているよ

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 とある村で起こった惨劇。
 魔族に率いられたオークによって、村に住んでいた女性が攫われてしまった。
 偶然、旅人がオークを討伐、魔族を討つことにも成功したものの……それが次なる悲劇の引き金となる。
 旅人を狙う神殿の追手……『フレアの御手』の三人によって村が焼き払われ、そこに住んでいた人間の大部分が命を落としたのである。

 焼き尽くされて廃墟となった村。
 失われた、宿屋のビーフシチュー。

 怒りを燃やす旅人……花散ウータは『フレアの御手』を撃破して、見事にビーフシチューの仇討ちに成功するのであった。



 そんな悲劇を乗り越えたウータは、再び魔法都市・オールデンへと向かっていく。

「~~~~♪」

 ご機嫌な様子で歩くウータであったが、焼け落ちた村のことはすでに記憶にない。
 オークから救い出した女性達のことも適当に放置しており、特にケアなどもしていなかった。
 自分の命を狙ってきた『フレアの御手』の連中のことでさえ、もはやどうでも良くなっている。
 ただ一人……自分にビーフシチューを作ってくれた一人の少女を除いて。

「あ、あのう……本当に、私もついていっても良いんですか?」

「ん? ダメなのかな?」

「ダメじゃないですけど……」

 微妙な顔でウータの後ろをついて歩いているのは、ウータを殺そうとした『フレアの御手』の生き残り……『白の火』ことステラである。
 ステラはビーフシチューを作ったことでウータに気に入られて、『赤の火』や『緑の火』のように塵にされることなく生き残っていた。

「だって、行くところがないんでしょ? 帰ったら殺されるって言ってたじゃんか」

「そうですけど……」

 ステラは表情を曇らせた。
 ステラは『火の神殿』から派遣されて、ウータを殺害するように任務を与えられている。
 すでに任務は失敗。どうやっても、ステラだけでウータを殺害できるビジョンが浮かばない。
 上官である『赤の火』も殉職している。仮に神殿に戻ったとしても、敗戦の責任を取らされることだろう。

「『フレアの御手』は女神フレアの加護を受けた最強部隊。決して、敗北は許されません。負けて逃げ帰ったとなれば、敗北ごとなかったことにされるに違いありません」

 そうやって、敗戦の責をとって死んでいった同僚を知っている。
 先代の『白の火』もまた、任務失敗によって殺されているのだから。

「だったら、僕についてきたら良いんじゃない? このままオールデンまでついておいでよ」

「…………」

 ウータの言葉に、ステラが逡巡する。
 その提案は有り難い。
 有り難いが……命を狙った手前、素直に頷くのが後ろめたかった。

「ビーフシチュー以外にも色々と作れるんだよね? 今日はオムライスが食べたいなー」

「……それが理由ですか」

 ウータは別に仏心からステラを連れ歩いているわけではない。
 完全な打算というか、彼女が作ったビーフシチューが美味しかったので食事係として連れていこうとしているだけである。

「……そういうことなら、わかりました。オムライスだったら材料もありますから良いですよ」

「やったあ! ステラ、大好き!」

「……そうですか、大好きですか……とても嬉しいですよ」

 無邪気に笑っているウータに、ステラは諦めたように苦笑いをした。

 その日のオムライスはやはり絶品だった。
 ウータはますますステラのことを気に入って、元の世界に戻るまで、旅に同行させようと一方的に決めたのであった。
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