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22.ビーフシチューの仇を討つよ

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「来るぞ! 皆、警戒をしろ!」

 本気宣言をしたウータに、『赤の火』が部下に向かって叫ぶ。

「とぼけているが……この小僧は強い。決して油断するなよ!」

『赤の火』は身構えつつ、自分が放った炎に焼かれているウータを睨みつける。

『フレアの御手』のメンバーの中でも、『赤の火』は攻撃力に特化している。
 その炎をこれだけ浴びて、生きていることなどあり得ない。ウータは十分に警戒に値する敵だった。

「だが、所詮は人間。神の力を与えられた我らには及ばぬ」

 確信を込めて、『赤の火』が断言する。
 いくら強かったとしても、ウータの力には限界があるはず。
 神ではない人間如きが無限の魔力を持つことができるわけがない。
 延々と、ひたすらに殺し続けていれば、いずれは必ず魔力が尽きて死ぬはずだ。

「なれば、我らはそれまで殺し続けるのみ! 生き返り方を忘れるまで炎に焼かれるが良い!」

「サブリーダー、後だ!」

『緑の火』が叫んだ。
『赤の火』が咄嗟に前に跳ぶと、先ほどまで自分がいた場所にウータが出現する。

「遅いわ!」

『赤の火』が再び炎を放つ。
 しかし、その時にはウータは転移していた。

「そっちだ!」

『緑の火』が叫んで、少し離れた場所を指差した。
 予想通り、そこにウータが出現する。

「ッ……!」

『赤の火』が炎を繰り出そうとするが、またしてもウータが消える。
 別の場所に現れるが……秒とかからず、また転移した。

「そっち……いや、あっち。こっち、そっち、あっち、どっち、こっちあっちあっちあっち……ああもう! 何度転移しやがるんだ!?」

『緑の火』が正確にウータの転移先を予測するが、ウータは同じ場所に一秒たりともとどまらずに転移してしまう。
 あっちだこっちだと何度も何度も指差しをするが、徐々にその動きが遅れてくる。

「ふざけるなよ……どうして、こんなに転移魔法を使えるんだ……!」

『緑の火』が歯噛みして、フードの奥で表情を歪める。

 本来であれば、転移などの空間魔法は魔力の消耗が激しい高等技術である。
 その道の第一人者を自任している『緑の火』でさえ、日に何度も使うことができない。
 にもかかわらず……ウータは十回、二十回と転移を繰り返している。

「あり得ない……このガキが俺よりも空間魔法を極めているっていうのかよ!」

 それは『緑の火』のプライドを粉々にする事実だった。
 神敵と認定した人間に得意分野で劣っているなど、到底受け入れられることではない。
 そうして転移を繰り返していくうちに、やがてウータの速度が『緑の火』の知覚を超えた。

「ッ……!」

「つかまえた」

『緑の火』が首根っこを掴まれる。
 ウータが力を発動すれば、一瞬で『緑の火』の肉体は塵となってしまうだろう。

純白なる浄化の火イノセント・ファイア

 しかし、ウータが力を使うよりも先に、周囲に真っ白な炎が広がった。
 短い杖を構えて魔法を発動させたのは、これまで戦いに加わることなく後ろで控えていた小柄なローブの人物……『白の火』である。
 無垢で純白の炎は『白の火』を中心にサークル上に広がっており、まるで世界を洗い清めようとしているかのようだった。

「私の炎はあらゆる魔法を否定する」

『白の火』が朗々と語る。
 その声は高く、鈴の音が鳴るようだった。
 ローブで顔は見えないが、『白の火』の正体が女性であるとわかる。

「汚れよ消えよ。魔よ払われよ。我が無垢なる火の間に清浄なる姿を……」

「えいっ」

「みせたま……………………へ?」

『緑の火』が塵になった。
 悲鳴を上げる暇さえ与えられることなく、あっけないほどあっさりと絶命する。
 ウータも『緑の火』も白の炎で彩られたサークルの中にいる。
 魔法の効果は封殺される……そのはずなのに。

「『白の火』! 何をしている!?」

「へ……あ……嘘っ!?」


『赤の火』の怒鳴り声を受けて、『白の火』があからさまに動揺する。

「わ、私はちゃんと力を発動させていた! あり得ない、こんなことあり得ない! 私の『純白なる浄化の火』はリーダーの魔法だって消すことができるのに……!」

「チッ……!」

 空間魔法対策として連れてきた『緑の火』が死んだ。
 あらゆる魔法を無効化できるはずの『白の火』は役に立たない。
 その事実を受け止めた『赤の火』の行動は早かった。

「そこで足止めをしろ! 一秒でも長く時間を稼ぐのだ!」

「ええっ!?」

 驚いて呆然としている部下を放置して、自分だけ逃走したのである。
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