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19.オークがいたよ

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 夜の森は暗い。
 街灯の明かりはなく、月や星の光は枝葉によって遮られている。
 一メートル先も見通せない闇。
 それは日本で生まれ育った現代人が忘れつつあるものである。

「まあ、僕には関係ないんだけどね」

 ウータは森の中を平然と歩いていく。
 木の幹にぶつかることはなく、根や土に足を取られることもしない。
 それでも、迷うことなく森の中を進んでいった。

「気配からして……アッチかなー?」

 森の奥に複数の気配を感じた。恐怖の感情、それと死の気配も。

「えっほ、えっほ」

 どうやら、急いだ方が良さそうである。
 ウータが小走りになって、森の奥に向かう。

「ブホホホホホッ!」

「いやああああああああああああっ!」

「あ、見っけ」

 開けた場所に出た。
 そこには五匹の異形、そして、三人の女性がいる。
 デップリとした巨漢の何か……胴体だけならデブな人間に見えるが、顔は完全にイノシシのそれだった。
 巨漢の怪物が、村から攫ってきたであろう女性達に酷いことをしている。
 あまりエッチな本やDVDを見たことのないウータであったが……服を剥ぎ取られ、巨漢に組み臥されている女性達が酷い目に遭っていることくらいは理解できた。

「うん、不愉快だね。見るに堪えないってやつかな?」

 その女性達のことは正直、どうでもいい。
 だが……もしも自分の知り合いの女性達が、千花や美湖、和葉らが同じようなことをされたらと思うと、腹の奥がムカムカとしてきた。

「うん、殺そう。ブッ殺だね」

「ブホ?」

「塵になーれ」

 ウータはすぐに決断を下した。
 女性を組み臥している巨漢の何か……オークの身体に触れて、能力を発動させた。
 巨体の怪物が一瞬で塵になる。

「ブモオオオオオオオオオオオッ!」

「ブホッ! ブホッ!」

「うん、何を言っているのかわからないね」

 オークが低い叫び声を上げて、ウータに襲いかかってくる。
 地面に落ちていた丸太や石を掴んで、ウータめがけて投げつけてきた。

「わあ、危ないなあ」

 ウータは飛んできた物を避けて、転移する。
 別のオークの背後に回り込んで、身体にタッチ。塵にする。

「えいっ。えいっ。えいっ。えいっ」

 後はそれの繰り返しである。
 次々とオークを塵にしていき、一分とかからずに全滅させた。

「はい、お仕事終わり。お姉さん達、大丈夫かな?」

「うう……」

「ひっぐ、ひっぐ……」

 オークに弄ばれていた女性達はいずれも強いショックを受けており、泣き崩れていた。
 会話が通用する状況じゃない。
 どうしたものかと、ウータは腕を組んで唸った。

「どうしたら良いのかな? このまま抱えていく? それとも、村の人達をこっちに呼んできた方が良いのかな?」

 考え込むウータであったが……直後、その頭部に巨大な丸太が振り下ろされた。

「ふぎゃ」

 太い丸太がウータの頭部を粉砕する。
 そのまま、丸太の下敷きになるようにして倒れてしまった。

「グフフフフッ! よーくもワターシの子供達をコロしてくれましたネー?」

 耳障りな哄笑を上げたのは、丸太を振り下ろした巨漢の怪物。
 森の中に隠れ潜んで、ウータが油断するのを待って不意打ちの攻撃をしたのである。

 現れたのはオークだった。
 しかし、他のオークと異なり赤い肌をしており、人間のように言葉を発している。

「ヘイシには見えませんネー? アナタはぼーけんしゃですか? それとも、ゆーかんな村人ですかー?」

 赤いオークが潰れたウータを見下ろして、ゲラゲラと哄笑する。

「ああ! 聞いても無駄でしたネー? これはもう死体デーしたー!」

「誰が死体かな? 失礼だなあ」

「オウッ!?」

 ウータがよっこらせと丸太をどかして、下から這い出してきた。

「マチガイなくころしたはずでーす! どうして生きてるネー!?」

「しゃべれるんだね。君は人間なのかな?」

「ウググ……ワターシは魔王軍の先兵、オークロードのジェニファーでーす!」

 赤いオーク……ジェニファーが意外なほどあっさりと身元を明かす。

 どうやら、これが魔族だったらしい。
 色以外に他のオークとの違いがわからないが……オークが全般的に魔族ということなのだろうか?

「魔族というのは、チエを持ってしゃべれるようになった魔物のソウショウなのでーす! 魔物は我らのシモベでーす!」

「あ、そうなんだ」

 訊いてもいないのに、教えてくれた。
 このジェニファーという魔族、意外と親切なのかもしれない。
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