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13.女騎士が仲間になったよ

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 襲ってきたホーンウルフを塵にして、しばらく待っていると気絶していた女性が目を覚ました。

「う……私は……?」

「あ、起きた」

「ッ……!?」

 女性は弾かれたように立ち上がり、ウータから飛びのいて距離を取る。

「貴様!? 何者だ!?」

 女性は叫びながら、自分の腰のあたりに手をやる。
 武器でも探しているのだろうが……そこには何もない。
 ウータが取り上げたわけではなく、最初から何も持っていなかった。

「剣が……貴様、私に何をした!?」

「えーと……何をしたかと聞かれると困るね、うん」

 鎧を外して、おっぱいを触っていました。
 悪い事をしたとは思っているが、後悔はしていない。
 おっぱいが柔らかかったから。

「怪我の手当てをしただけだよー。そんなに敵意満載で睨まないでくれるかな?」

「手当て……?」

 女性が自分の身体をペタペタと触る。
 そこにあったはずの怪我が消えているのを確認すると、やや驚いたように目を見張る。

「そうだ……私は確かに、奴らに大怪我を負わされたはずなのに……!」

 ようやく、状況を理解したのだろう。
 背筋を伸ばして、ウータに向かって頭を下げてくる。

「すまない……命の恩人とは知らずに、無礼なことを……!」

「ううん、別に良いけど? それよりも……何があったのかな?」

「……私の名前はメアリ。ルーシャル伯爵家という貴族に仕える騎士をしている」

 女性が自己紹介をした。
 ウータは「ウータだよ」と自己紹介を返す。

「主であるイリーア様の護衛として、馬車で街道を移動していたのだが……突如として、盗賊が襲ってきたのだ。私以外にも護衛の騎士はいたのだが、いずれも奴らの凶刃に倒れてしまった」

「へえ、それは物騒だね」

「イリーア様が盗賊の手に落ちてしまい、私はどうにか助けを呼ぶために逃げ出したのだが……奴らから負わされた怪我により、倒れてしまったようだ」

「それは気の毒だね。イリーアという人が心配になるよ」

「ああ……イリーア様。きっと今頃、不安で泣いておられる……何ということだ!」

 女性騎士……メアリが地団太を踏む。
 ちょうどそのタイミングで、少し離れた場所にある茂みが揺れた。
 まだ生き残りがいたようだ……ホーンウルフが飛び出してきて、メアリに襲いかかる。

「ガウウウウウウウウウウウウウッ!」

「あ、危ないよ」

 ウータが手を伸ばして、メアリに噛みつこうとしていたホーンウルフの角に触れる。
 途端、その身体が塵になって消滅した。

「え……今の力は……?」

「驚いた? 僕の魔法……みたいなものだよ」

 ウータは塵になった狼の残骸を握り、おどけた様子で地面に撒く。

「僕はあらゆる生き物をこうやって、塵にして殺せるんだ。すごいでしょ?」

「即死魔法。いや、石化魔法の応用か……そんなことよりも!」

「わっ」

「貴殿は優れた魔法使いだったのだな……! その力があれば、イリーア様を助けられるかもしれない! どうか、私に力を貸してくれないだろうか!?」

「いいよ」

「わかっている。危険なことだ。だが、私もできる限りの礼を……って、いいのか?」

「いいよ。別に」

 ウータは気楽な様子で答える。
 特に断る理由はない。
 乗り掛かった舟だし、別に人助けくらいしても良い。

「ありがとう、ありがとう……! 本当に、心から恩に着る……!」

「そんなに畏まらなくてもいーよ。それよりも、盗賊はどこにいるのかな?」

「私が襲われたのは、ここから東に一キロほどいった場所だが……」

「あ、そう。じゃあさっそく」

「へ……?」

 メアリの手を握り、転移した。
 指定されたポイント。ここから一キロほど東に行った場所に。

「わっ、死体がいっぱいだ」

「くっ……みんな……!」

 そこには壊れた馬車の残骸と、複数人の死体が転がっていた。
 まだ死んでから時間は立っておらず、むせ返るような血の匂いがする
 剣で斬られた死体。弓矢で射られた死体。多くは男性のものだったが、女性のものも混じっていた。

「ジャン……トニー……アンリ……」

 同僚なのだろう。
 メアリが悲痛に表情を歪ませている。

「うーん、盗賊が何処に行ったのかはわからないね……あ、いや。血の匂いをたどっていけばいいのかな?」

「匂いをたどるって……そんな犬みたいなことを……」

「できるよー」

 ウータはスンスンと鼻を鳴らして、とある方向に足を向けた。
 街道から外れて、少し離れた場所にある森の方向である。

「あっちに匂いが続いているね。盗賊と……そのイリーアさんがいるんじゃない?」

「どうして、わかるのだ……本当に匂いでわかるというのか?」

「そんなところだよ」

 正確には、臭いではなく『死』の気配をたどったのである。
 邪神であるウータは人間の死や負の感情に敏感だった。
 盗賊達はよほどの業を背負っているのか、色濃い『死』をまとっているようだ。

「それじゃ、いってみようか」

「…………」

 メアリは半信半疑といった様子だったが、他に手掛かりはない。
 ウータの後ろを続いて、森に向かって歩いていく。
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