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12.おっぱいは柔っこいらしい

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「さーてと、出発かなー?」

 のんびりとした口調で言って、ウータは東の都……オールデンへの旅を開始した。
 城門から外に出て、東に続いている街道をえっちらおっちらと歩いていく。

 雑貨屋の店主から聞いておいた話によると、城下町からオールデンまでは徒歩で一ヵ月ほどかかるらしい。
 馬や騎竜に乗っていけば早いとのことだが、ウータに乗馬の心得はない。
 昔から動物には怖がられやすいため、馬車で行くのも難しいだろう。

「そうやって考えると……グークルアースは偉大だね。アレがあれば世界中、どこにだって行けたのに」

 ウータは転移能力を持っているが、基本的には行ったことがある場所にしか移動できない。
 ただし、その場所のイメージさえ掴めれば初見の場所でも転移できるため、グークルアースがある地球においては世界中の国々に日帰り旅行をすることができた。
 距離だけ決めておおよそで跳ぶことも出来なくはないが……変な場所に移動してしまったら困るので、やめておいた。

「そういえば……昔、お風呂に転移しちゃったこともあったなー。和葉が入浴中で、すごく怒られたっけ」

 幼馴染の友人をイメージして転移したところ、彼女が入浴している現場に出くわしてしまった。
 まるでどこかの国民的アニメのワンシーンのように「ウータさんのエッチ!」とお湯をかけられ、後でしこたま説教されたのを覚えている。
 あれ以来、いい加減な転移は避けている。
 緊急時を除いて、友人たちのところに連絡なしで転移するのもやめていた。

「まあ、いいや。適当に歩こう」

 魔王と戦うことになった友人達のことを考えるのであれば、急いだ方が良い。
 しかし、ウータは生まれながらののんびり屋。
 焦ったり、急いだりして、物事をこなすのに絶望的に向いていなかった。
 元々が不老不死の邪神なので、時間の感覚が人間とはズレているのである。

「ん?」

 のんびりとした足取りで道を歩いていると……進行方向上、街道から少し外れた場所に立っている木に人が寄りかかっているのが見えた。
 誰かがお昼寝でもしているのかと思ったウータであったが、すぐに怪我をして倒れているのだとわかる。
 木に寄りかかって倒れていたのは、若い女性だった。
 細身の身体に壊れかけた金属製の鎧を身に付けており、鎧を含めた衣服が血に染まっている。

「死体かな?」

「…………ぐ……」

「あ、生きてる」

 女性はかなり細いが息をしていた。
 放っておけば、五分とかからずに息絶えてしまうだろうか。

「これは切り傷かな? 獣とかじゃないよね」

 女性が負っている怪我は明らかに人為的なものであり、野生動物に襲われてできたようなものではない。
 誰かに襲われたのだろうか……襲撃者の姿は見えない。

「ま、いっか。治しちゃお」

 女性の事情は知らないが……怪我した女性を放置していくのも気が引ける。
 どんな理由でこんなことになったのかも気になるし、治療しておくことにした。

「……うっ…………」

「はいはい。ボディータッチ。治療行為だから許してねー」

 せっかくなので、女性の胸を触っておくことにした。
 特に理由はない。
 傷を見るために鎧を外したら、意外と大きかったので興味を引かれたのだ。

「おお、柔らかい」

 ムニムニとやわっこい感触がした。おっぱいを触ると妙に落ち着くのは、ウータが人であることに馴染んできた証拠かもしれない。
 見知らぬ女性の乳房を堪能していると……身体のあちこちにあった傷が逆回し再生をしたように消えていく。
 やがて血痕すらも消えてしまい、元通りの玉の肌が現れる。

「はい、おしまい」

 治療が終わったことを確認して、ウータは脱がした鎧を女性に着せる。
 証拠隠滅。
 これで眠っている間におっぱいを触ったことはわかるまい。

「母親以外の胸に触るのは初めてだけど……わりと、気持ち良いもんだね」

 全部解決したら、幼馴染の少女達に触らせてくれとお願いしても良いかもしれない。
 断られるか、殴られるか、あるいは……普通に胸を差し出してくれるか。
 千花と美湖、和葉がどんな反応をするか楽しみである。

「これにて一件落着……と、いきたいところなんだけど……」

「グルルル……」

「何か、集まってきたね。狼かな?」

 いつの間にか、周囲に黒い獣が集まっていた。
 女性の血の匂いに誘われたのだろう。
 ウータと女性を取り囲むようにやってきた狼の頭部には山羊のような角があり、鋭い先端と剥き出しの牙がギラリと怪しく輝いている。
 それは『ホーンウルフ』という名前の魔物であり、街道で人を襲う旅人にとっては厄介な魔物だった。

「一、二、三……七匹か」

 ホーンウルフの数は七匹。
 敵意と殺意、そして溢れんばかりの食欲を前面に押し出している。
 襲う気、満々だ。
 獣なので当たり前だが……話し合いで解決できる相手ではない。

「僕、わりと動物好きなんだけどな……まあ、しょうがないか」

 ウータは困ったような顔をして、ホーンウルフに「おいでおいで」と手招きをする。

「モフッてあげるからかかっておいで。ただし、君達の命と交換だよ」

「ガルルルルルルルルルッ!」

 愛情と死の等価交換。
 ウータは飛びかかってきたホーンウルフを抱きしめ、たっぷりとモフモフしてから、塵に変える。
 しばし街道に獣の鳴き声が響き、すぐに聞こえなくなるのであった。
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