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しおりを挟む気がつけば、世界が滅亡していた。
「…………へ?」
目の前の光景に唖然として凍りつく。
人の姿はない。瓦礫の山……生きとし生ける者のいない死の大地が広がっていた。
「何が……いったい、何が起こってるんだ……?」
俺はかつてない混乱に襲われる。
あれが夢でなかったのなら……俺は過去の世界にタイムリープしていた。
卒業式の日。春香の告白を受けてみんなから祝福され、卒業パーティーに向かう途中だったはず。
それなのに……気がついたら、辺り一帯が全て崩壊していた。
「そんな馬鹿な……これも夢なのか?」
「信也……」
聞き慣れた声に振り返ると、そこには春香が立っていた。
薄汚れたカーディガンを羽織っており、あの時よりもずっと大人びた顔立ちになっている。
「春香?」
「どうしたのよ。食料を探しに行くって出ていったまま戻らないから心配したわ」
「春香、お前は……」
「貴方までいなくなったら独りぼっちになっちゃうでしょ? 私達、夫婦なんだから」
春香が俺に抱き着いてきた。
柔らかい感触と温かい体温がこれが現実だと訴えてくる。
「まさか……これが未来の光景なのか?」
俺は過去をやり直した。
その結果として未来が変わり、目の前の滅亡の光景を生み出してしまったのではないか。
「バタフライエフェクト……」
蝶の羽ばたきが、地球の裏側で嵐を起こすことがある。
無視できるような些細な現象が周りまわって、大きな事象を起こすという意味の言葉だ。
春香の告白を受け入れたこと、結婚したことがトリガーとなって、世界の滅亡を引き起こしてしまったのではないか。
「どうして……」
「信也……もしかして、また記憶が飛んじゃったの?」
「また……?」
「あれから、ずっと信也はそうだったんだよ。世界がこんなふうになったのは自分のせいだって……責任を感じて、自分を責めていたんだよ?」
春香が心配そうに俺の顔を覗き込んでくる。
「……大丈夫。忘れちゃったのなら、ちゃんと一から説明をしてあげるね。
春香が瓦礫に座り、落ち着いた口調で現状を説明をしてくれた。
世界が滅亡した。
その原因は……非常に驚くべきことに、俺達の友人である二橋夏樹だったのだ。
夏樹は高校卒業後、理系の大学に進学した。
成績優秀だった彼女はすぐに頭角を現して、女性科学者として華々しい道を歩むことになる。
しかし、そんな彼女は一年前、とんでもないものを発明してしまった。
それは『Spring&Time』と名付けられた強力な大量破壊兵器。
ホームセンターで購入できる安価な材料だけで町を吹き飛ばせることができることを証明した夏樹は、こともあろうにネットを通じてその製造方法を公表した。
結果、多くの国が『S&T』を使用して戦争をして、世界中の都市が破壊されてしまったのである。
どうして、そんな破壊兵器を開発したのか。
あるインタビューで訊ねられた時、夏樹は次のように答えたらしい。
『好きな男子を友達に奪られて、何もかもどうでも良くなったから』
「つ、つまり……俺と春香がくっついたから、夏樹は世界を滅ぼしたのか?」
何ということだろう。
いったい、どんな頭の回路をしていたら、失恋が原因で世界を滅ぼすのだ。
夏樹が開発した兵器の名は『Spring&Time』。
春香と時田。俺達の名前を意味している。
「俺のせいで世界がこんなことに……」
「ううん、信也のせいじゃなくて私のせい……この会話も何度もしたんだよ?」
春香が泣き笑いのような顔をして、「そうだ!」と俺に何かを差し出してくる。
「さっき、瓦礫の下にあったのを見つけたんだ! これ、良かったら信也が飲んで?」
「それは……」
春香が差し出してきたのは一本の缶ビールだった。
銘柄もかつて飲んだ『アレ』と同じである。
「…………!」
俺は一つの確信を持って、缶ビールを受けとる。
そして……プシュリと缶を開けた。
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