黒猫は闇に泣く

ギイル

文字の大きさ
上 下
25 / 36
第1章 黒猫の友人

国王の実験室1

しおりを挟む
目を開けたその瞬間、五人は高く昇る煙を見た。
もはや面影さえも残してはいない城だったもの。
暴徒化した国民は街で暴れるだけでは足りず、本来守るべきはずの城を崩しにかかった。
燈は目の端で優が硬く拳を握るのを見た。
「私達が国を落としたから、なんてこと考えてるだろ」
その言葉に露骨に反応を示した優に双子はそっと頭に手を乗せた。
そしてくしゃりと先程と同様優の頭を撫でる。
「撫でるの好きですね」
優の言葉に二人はふわりと微笑んだ。
「レトロが子供の頃撫でられるの好きだったから」
年齢は然程若くないはずの彼ら。
レトロは永遠の二十歳だとかふざけ半分で言ってはいながらも、自称年齢よりも十は歳を取っていると知っていた。
レトロの子供時代から頭を撫でられる立場にいる彼らは幾つなのだと、三人は不思議に思う。
双子の見た目は然程若くはないがおじさんと呼ぶにはまだ若々しい。
「歳いくつ?」
失礼極まりない質問だとは知っているがやはり気になるものは気になるのだ。
「五十いくつかだったよ」
「おじさん・・・」
「お兄さんと呼びなさい」
何故こんなにも若作りができるのか。
トゥクルから始まるがレトロ、ソラスのように見た目より大幅なものは十も歳が若く見える。
「名前教えてよ、無線とかで呼び辛い」
刻の唐突な提案に双子は顔を見合わせ、そして片方が口を開いた。
「俺がトゥクル、こっちもトゥクル」
「姓の方を選んだんだな」
「呼んでくれたらどっちかが反応するから。で、そっちは?団長さん、金髪くん、ミニレトロちゃん」
愉快な愛称だと優は思う。
姓を持たない優達が名以外の名前で呼ばれることは至極珍しいことだった。
「優、刻、燈」
武人ウォリアの名前って呼びにくいね」
「一つの言葉で複数の読みを持つ文字ってのは難しいから嫌いだよ」
憂鬱な表情をする双子に三人は思わず苦笑を零す。
「じゃあみんな無線を繋ごうか」
装着したヘッドホンらしきものをトゥクルは指先で軽く小突いて言った。
三人のピアスから幾重にもハウリングしたトゥクルの声が聞こえてくる。
「準備完了?」
「次、俺と頭の中繋ぐから」
刻の言葉にトゥクルは同時に目を見開いた。
差し出された刻の手にトゥクルはゆっくりと手を重ね、そこに他の面々も手を重ねていく。
「ちょっと耳鳴りがするかもだけどそれは我慢してね」
全員が手を重ね終えた時、頭の中を右から左へ何かが駆ける感覚がした。
それを追うようにして刻の声が頭の中で響き始める。
「すっごい!これすっごい!なにこれ!」
「声出してないのに連絡取れるじゃん!」
人間にとって能力者の戦闘など珍しい物以外の何物でもないようで、トゥクルにとってはとても新鮮なものだったらしい。
着々と奇襲の準備を進める三人に対しトゥクルは能力で遊び始める。
双子独特の息のあった身振り手振りと共に心の声で会話をしていた。
「ちょっと、俺の負担も考えてよ」
嬉々としてふざけるトゥクルに刻は一喝すると大きく溜息をつくいた。
思考系能力は便利で融通が利く。
しかしその代償として母体となる思考系能力者は多くの体力を消耗するのだ。
そして消耗する体力は繋ぐ人数、時間、範囲に比例していく。
普段よりも多くの人数を繋いでいる今、刻は前線に出るには難しいと考えられた。
更に以前は城だけでよかった範囲を街単位に広げるため、頭に叩き込んだ地形図や街の見取り図は余計な負担となってしまう。
よって刻の片手には地図が握られていた。
「なんか服装変わってない?」
「ちょっと一枚羽織っただけですけどね」
不意に目を向けた二人は優の羽織ったマントに近い上着に興味を示した。
黒の団服に浮かぶのは白で描かれた猫。
刻と燈の上着にも同様のものが描かれていた。
黒猫団の紋章。
浮かぶ月に背を向ける影の猫を模したこれは、祖父が昔考えたのだと自慢気に語っていたことを思い出させる。
「さあ、準備も整ったことだし」
「これで最後の国落としだよ」
感傷に浸っていた自身を呼び戻し優は現実に目を向けた。
不気味なほどに静かな城。
四人は刻を一人残し、一斉に街を駆け抜けた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜

なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」  静寂をかき消す、衛兵の報告。  瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。  コリウス王国の国王––レオン・コリウス。  彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。 「構わん」……と。  周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。  これは……彼が望んだ結末であるからだ。  しかし彼は知らない。  この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。  王妃セレリナ。  彼女に消えて欲しかったのは……  いったい誰か?    ◇◇◇  序盤はシリアスです。  楽しんでいただけるとうれしいです。    

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

【完結】「心に決めた人がいる」と旦那様は言った

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
「俺にはずっと心に決めた人がいる。俺が貴方を愛することはない。貴女はその人を迎え入れることさえ許してくれればそれで良いのです。」 そう言われて愛のない結婚をしたスーザン。 彼女にはかつて愛した人との思い出があった・・・ 産業革命後のイギリスをモデルにした架空の国が舞台です。貴族制度など独自の設定があります。 ---- 初めて書いた小説で初めての投稿で沢山の方に読んでいただき驚いています。 終わり方が納得できない!という方が多かったのでエピローグを追加します。 お読みいただきありがとうございます。

忌むべき番

藍田ひびき
恋愛
「メルヴィ・ハハリ。お前との婚姻は無効とし、国外追放に処す。その忌まわしい姿を、二度と俺に見せるな」 メルヴィはザブァヒワ皇国の皇太子ヴァルラムの番だと告げられ、強引に彼の後宮へ入れられた。しかしヴァルラムは他の妃のもとへ通うばかり。さらに、真の番が見つかったからとメルヴィへ追放を言い渡す。 彼は知らなかった。それこそがメルヴィの望みだということを――。 ※ 8/4 誤字修正しました。 ※ なろうにも投稿しています。

【完結】辺境伯令嬢は新聞で婚約破棄を知った

五色ひわ
恋愛
 辺境伯令嬢としてのんびり領地で暮らしてきたアメリアは、カフェで見せられた新聞で自身の婚約破棄を知った。真実を確かめるため、アメリアは3年ぶりに王都へと旅立った。 ※本編34話、番外編『皇太子殿下の苦悩』31+1話、おまけ4話

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

処理中です...