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第1章 黒猫の友人
夢の跡2
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「間違い電話・・・しちゃったかも・・・」
優の寝起きの言葉を間に受けた部下が燈へ事を伝えた後、行動力のある燈によって実行された聖教会への出動要請。
軽率な言葉が招いた事態に優は驚きを隠せなかった。
事の成り行きを察した刻は壮大に笑い出す。
「寝言で聖教会を動かすなんて!」
「うるさい!こっちだって寝不足なの!」
寝間着を脱ぎ捨て衣装棚を探る優と刻の言い争いは終わらない。
「ほら急がなきゃ来ちゃうよー」
「急いでる!それより二人こそ準備しなくてもいいの!?」
「私は任務帰りだからな、服は着てるぞ!」
「風呂入ってこい!」
怒鳴りあいの身支度の最中またコールが鳴り響いた。
「はーい、こちら優の部屋。うん、うん、了解。伝えておくけどちょっと待ってあげて」
燈が浴室へ消えるのを見届けた刻は部下に事情を説明していた。
「五分で出れるぞ!」
燈の声が狭い浴室で響いて届いた。
「十分はかけて!刻、今のうちに事態の把握と会談内容まとめといて!」
受話器を置いた刻は徐ろに携帯端末を取り出すと、片手間に何かを打ち込み始めた。
「それより服洗濯しといていいよね」
床に脱ぎ散らかされた二人の衣服を刻は丁寧に拾い上げる。
また催促のコールが鳴った。
「はーい?うん、あー伝えてない。少し待っててもらって」
三度目の通話の切れる音がした。
優は横目でベッドに座って端末を片手に、主人の着替えを待つ刻を見た。
目が合うと「急げ」と口の動きだけで言ってくる。
恨めしげに見てやるが刻は素知らぬ顔で笑いかけてきた。
「とーきー!上がったぞ!」
馬鹿力で開け放たれた扉からびしょ濡れの燈が飛び出してきた。
日常の光景に変わってしまった燈の半裸シーン。
燈を再度浴室へ押し戻してノックがあるまで放っておき、出てきたところを確保する。
まだ慌ただしく身だしなみを整えている優の代わりに、刻は燈の髪にドライヤーをあてていた。
そんな二人の合間から鏡を覗き込む優に、時折熱風をあてると鬱陶しそうに優は目を閉じた。
「ここ寝癖付いてる」
「ありがとう」
「あと何分なんだ?」
「もう着いてるって」
言葉を口にした瞬間優と燈が同時に目を見開くのを刻は鏡越しに見た。
「応接室に通しておいてもらってる」
渋い顔をしている優を燈と刻は覗き込んだ。
「てか普通、燈の電話一本で動くってどうなの」
優の口から出る言葉はもはや愚痴という物に近い。
「師匠に電話したのが駄目だったんじゃないの?」
「聖教会といえば師匠だろ」
扉を開けた先、廊下にはアマリアが立っていた。
「お急ぎください」
秘書は静かに一言叱責すると共に手を差し伸べる。
三人は互いに手を取るとアマリアを一瞥した。
一度暗くなった視界に光が射したとき、目の前には応接室の扉があった。
優の寝起きの言葉を間に受けた部下が燈へ事を伝えた後、行動力のある燈によって実行された聖教会への出動要請。
軽率な言葉が招いた事態に優は驚きを隠せなかった。
事の成り行きを察した刻は壮大に笑い出す。
「寝言で聖教会を動かすなんて!」
「うるさい!こっちだって寝不足なの!」
寝間着を脱ぎ捨て衣装棚を探る優と刻の言い争いは終わらない。
「ほら急がなきゃ来ちゃうよー」
「急いでる!それより二人こそ準備しなくてもいいの!?」
「私は任務帰りだからな、服は着てるぞ!」
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怒鳴りあいの身支度の最中またコールが鳴り響いた。
「はーい、こちら優の部屋。うん、うん、了解。伝えておくけどちょっと待ってあげて」
燈が浴室へ消えるのを見届けた刻は部下に事情を説明していた。
「五分で出れるぞ!」
燈の声が狭い浴室で響いて届いた。
「十分はかけて!刻、今のうちに事態の把握と会談内容まとめといて!」
受話器を置いた刻は徐ろに携帯端末を取り出すと、片手間に何かを打ち込み始めた。
「それより服洗濯しといていいよね」
床に脱ぎ散らかされた二人の衣服を刻は丁寧に拾い上げる。
また催促のコールが鳴った。
「はーい?うん、あー伝えてない。少し待っててもらって」
三度目の通話の切れる音がした。
優は横目でベッドに座って端末を片手に、主人の着替えを待つ刻を見た。
目が合うと「急げ」と口の動きだけで言ってくる。
恨めしげに見てやるが刻は素知らぬ顔で笑いかけてきた。
「とーきー!上がったぞ!」
馬鹿力で開け放たれた扉からびしょ濡れの燈が飛び出してきた。
日常の光景に変わってしまった燈の半裸シーン。
燈を再度浴室へ押し戻してノックがあるまで放っておき、出てきたところを確保する。
まだ慌ただしく身だしなみを整えている優の代わりに、刻は燈の髪にドライヤーをあてていた。
そんな二人の合間から鏡を覗き込む優に、時折熱風をあてると鬱陶しそうに優は目を閉じた。
「ここ寝癖付いてる」
「ありがとう」
「あと何分なんだ?」
「もう着いてるって」
言葉を口にした瞬間優と燈が同時に目を見開くのを刻は鏡越しに見た。
「応接室に通しておいてもらってる」
渋い顔をしている優を燈と刻は覗き込んだ。
「てか普通、燈の電話一本で動くってどうなの」
優の口から出る言葉はもはや愚痴という物に近い。
「師匠に電話したのが駄目だったんじゃないの?」
「聖教会といえば師匠だろ」
扉を開けた先、廊下にはアマリアが立っていた。
「お急ぎください」
秘書は静かに一言叱責すると共に手を差し伸べる。
三人は互いに手を取るとアマリアを一瞥した。
一度暗くなった視界に光が射したとき、目の前には応接室の扉があった。
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