楽園異能力者

那月いくら

文字の大きさ
上 下
28 / 28
4章 黒の王女様

24話

しおりを挟む
 「この事件は私の顔に免じて、もみ消してはくれぬか?」
 黒髪に少し白髪の入り交じった男が、学園の学園長、藍原譲に頭を下げて、彼方の事件のもみ消しを依頼していたのだ。
 男の名は、四之宮孝介しのみやこうすけ
 そう、あの四之宮家の当主だ。
 ステラ貴族で名高い家門が、今、楽園までわざわざ足を運んで直々に頼み込んでいる。
 この行動の発端は、娘の事件。いくら、名高い家門の当主でも、家門を傷つけるような事が起きては、こうせざるをおえないだろう。
 しかも、頭を下げてまで頼みに来るのだ。プライドを捨ててまで、娘と家門を守ろうとしているのがわかるくらいだ。
 「私は、もちろんもみ消しますよ。四之宮の御当主が頭を下げているのに、嫌だと言う理由がありませんよ。」
 「そう言っていただいて、誠に感謝しておる。本当に、娘がこの学園に迷惑をかけて申し訳ないと思っている。すまない。」
 もう一度、ステラ貴族とあろうお方が、学園長の前で頭を下げる。



 事は順調に運び、政府からなんの指図も受けることなく、彼方の事件は、四之宮家の力と学園長の力でもみ消されたのだ。
 
 それからというもの、彼方は、彼方が精神病にかかっているとも知らないもの達から陰口や変な噂をたてられていたのだ。
 もちろん彼女の周りでは、彼女と親しかった者でさえ、彼方のそばを離れ、同じように陰口などを叩いた。
 
 "あんな事件さえ起きなければ………"

  彼方は、そう思い続けながら、寄り添ってくれる者もおらず、ずっと孤独を感じながら生活をしていた。
 周りに助けてくれる人がいないと、生活も一気に180度変わり、性格も変わっていった…………。年々素行不良がどんどんエスカレートしていくばかり………。
 到底、力のある大人でもかなう者はいないだろう………。




 そして、時が流れ、彼方が高等部を卒業する頃、彼方の元に一通の手紙が届いた。
 送り主は、四之宮家の当主、彼方の父からだった。
 彼方は、今まで音沙汰のなかった実家から手紙が届いたので不審に思っていた。
 恐る恐る、手紙を丁重に開ける。

 

「突然のことで驚くだろうが、私は今、病に侵されている。
 そこでだ。これは、前から考えておったことだが、彼方、お前がここを出てきたら、四之宮家を継ぐ次期当主の座についてもらう。異論は認めんとす。
 次期当主に、息子をと、考えていたが、ステラが指し示すように、お前が適合している。
 これは、先日の四之宮家の会合で決めたことだ。お前が小さい頃から、ステラとお前を見てきたが、ここまで次期当主にふさわしい者はいないだろう。
 次期当主として、もう二度と問題を起こすでないぞ。」
 



 これは勧告─────。
 次期当主として、ふさわしい行動を、ということか……………。
 音沙汰の無い家からいきなり手紙が来ても、心配の一言など入っていないってわかってた。
 それどころか、自分の病を理由に、次期当主の座を押し付けてきた。
 ステラ貴族だもの……。
 娘が起こしてきたいくつもの不祥事と国家の未来を握る家を比べたら、気にする暇もないのだろう……。
 娘が大きな事件を起こしたとしても、権力で握りつぶすことも容易いだろうから………。

 何もかも、四之宮家の思うがまま……。
 結局、私を見ていたんじゃなくて、私のステラを見てきたってことだよね。

 彼方は、手紙の内容にイラついて、つい、手紙を握りしめてしまった。

 "誰が当主になるもんか…!"
 そう、心で叫んだ。
 握りしめてしまった手紙は、元の形に戻して、そこら辺にあったロウソクの火で手紙の角に火をつける。
 火は、ゆっくりと手紙を持っている手に近づき、跡形も無くなったのだ。
 机の上には、焦げ茶色のチリが散乱している。
 部屋には、木を燃やした時に匂う、匂いと、微量の煙が蔓延している。
 手紙を燃やしたせいか、心の中はスッキリ。はなっから手紙が存在していなかったかのように。


 私のステラしか見ていない一族。心配の一言もくれない家族。
 こんな家にあと2年で帰ることになるなんて嫌っ!居場所のない楽園に残るのも嫌っ!
 
 これが、私が次期当主を嫌がる理由。

 こんな苦しい現実から今すぐ逃げたい…。
 こんなことになるなら、ステラを持たない普通の人間に生まれたかった。普通の暮らしをしたかった!こんな家になんか、こんな呪われたようなステラになんか生まれたくなかった!

 そんなことを、口づさむ。そんなの願ったってどうしようもないくらいわかってるくせに。
 
 
─ 現在 ─

 「分かっておるのか?!そなたの父の病を心配しないどころか、次期当主の座を嫌がるとは……これには国の未来がかかっておるのだぞ!?」

 姫様の言うことはわかる…だが、いい時だけに私を、いや、私のステラを利用しないで欲しい………。
 ましてや、私がいない所で会合を開いて、勝手に次期当主の座を決めるなんて………………………。

 「姫様には申し訳ないのですが、こればかりは致しかねます。私は、もうあの家に戻る気はありませんし、楽園を出てステラに振り回されない人生を送りたいのです。」
 姫様は、私の答えを聞いてからか、頭を抱えてため息をついた。





 そして、こちらを振り返り、こう告げる。

 「そうか…………。私は、四之宮家でないから口を挟むことはあんまりできんのだが、親戚として、いや、1人の知人として言わせてもらう。そなたがここまで言うのだ。やりたいようにやるのじゃ…………。」
 
 姫様は、こういうことを言える立場ではないのに、私の思いを、1人の知人としてくんでくれた…………?

 信じ難いけど、私は、その言葉を他人から聞けただけでも嬉しい。
 私の家族には、こんなこと言ってもらえる人なんか一人もいないから。




 姫様は、私たちの追手から私たちを隠すように、1晩ここに泊めてくれることになった。
 多分玲ちゃんの優しいところって姫様譲りなんじゃ………。
 彼方は、そんなことを思い、少し笑みを浮かべる。
しおりを挟む
感想 2

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(2件)

羽海
2021.09.06 羽海

お気に入り登録しました🥰
小説、面白かったです!
これからもよろしくお願いいたします🙇‍♀️

2021.09.06 那月いくら

ありがとうございます!!

解除
スパークノークス

お気に入りに登録しました~

2021.08.19 那月いくら

ありがとうございます!

解除

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

サンスクミ〜学園のアイドルと偶然同じバイト先になったら俺を3度も振った美少女までついてきた〜

野谷 海
恋愛
「俺、やっぱり君が好きだ! 付き合って欲しい!」   「ごめんね青嶋くん……やっぱり青嶋くんとは付き合えない……」 この3度目の告白にも敗れ、青嶋将は大好きな小浦舞への想いを胸の内へとしまい込んで前に進む。 半年ほど経ち、彼らは何の因果か同じクラスになっていた。 別のクラスでも仲の良かった去年とは違い、距離が近くなったにも関わらず2人が会話をする事はない。 そんな折、将がアルバイトする焼鳥屋に入ってきた新人が同じ学校の同級生で、さらには舞の親友だった。 学校とアルバイト先を巻き込んでもつれる彼らの奇妙な三角関係ははたしてーー ⭐︎毎日朝7時に最新話を投稿します。 ⭐︎もしも気に入って頂けたら、ぜひブックマークやいいね、コメントなど頂けるととても励みになります。 ※表紙絵、挿絵はAI作成です。 ※この作品はフィクションであり、作中に登場する人物、団体等は全て架空です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。