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4章 黒の王女様
24話
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「この事件は私の顔に免じて、もみ消してはくれぬか?」
黒髪に少し白髪の入り交じった男が、学園の学園長、藍原譲に頭を下げて、彼方の事件のもみ消しを依頼していたのだ。
男の名は、四之宮孝介。
そう、あの四之宮家の当主だ。
ステラ貴族で名高い家門が、今、楽園までわざわざ足を運んで直々に頼み込んでいる。
この行動の発端は、娘の事件。いくら、名高い家門の当主でも、家門を傷つけるような事が起きては、こうせざるをおえないだろう。
しかも、頭を下げてまで頼みに来るのだ。プライドを捨ててまで、娘と家門を守ろうとしているのがわかるくらいだ。
「私は、もちろんもみ消しますよ。四之宮の御当主が頭を下げているのに、嫌だと言う理由がありませんよ。」
「そう言っていただいて、誠に感謝しておる。本当に、娘がこの学園に迷惑をかけて申し訳ないと思っている。すまない。」
もう一度、ステラ貴族とあろうお方が、学園長の前で頭を下げる。
事は順調に運び、政府からなんの指図も受けることなく、彼方の事件は、四之宮家の力と学園長の力でもみ消されたのだ。
それからというもの、彼方は、彼方が精神病にかかっているとも知らないもの達から陰口や変な噂をたてられていたのだ。
もちろん彼女の周りでは、彼女と親しかった者でさえ、彼方のそばを離れ、同じように陰口などを叩いた。
"あんな事件さえ起きなければ………"
彼方は、そう思い続けながら、寄り添ってくれる者もおらず、ずっと孤独を感じながら生活をしていた。
周りに助けてくれる人がいないと、生活も一気に180度変わり、性格も変わっていった…………。年々素行不良がどんどんエスカレートしていくばかり………。
到底、力のある大人でもかなう者はいないだろう………。
そして、時が流れ、彼方が高等部を卒業する頃、彼方の元に一通の手紙が届いた。
送り主は、四之宮家の当主、彼方の父からだった。
彼方は、今まで音沙汰のなかった実家から手紙が届いたので不審に思っていた。
恐る恐る、手紙を丁重に開ける。
「突然のことで驚くだろうが、私は今、病に侵されている。
そこでだ。これは、前から考えておったことだが、彼方、お前がここを出てきたら、四之宮家を継ぐ次期当主の座についてもらう。異論は認めんとす。
次期当主に、息子をと、考えていたが、ステラが指し示すように、お前が適合している。
これは、先日の四之宮家の会合で決めたことだ。お前が小さい頃から、ステラとお前を見てきたが、ここまで次期当主にふさわしい者はいないだろう。
次期当主として、もう二度と問題を起こすでないぞ。」
これは勧告─────。
次期当主として、ふさわしい行動を、ということか……………。
音沙汰の無い家からいきなり手紙が来ても、心配の一言など入っていないってわかってた。
それどころか、自分の病を理由に、次期当主の座を押し付けてきた。
ステラ貴族だもの……。
娘が起こしてきたいくつもの不祥事と国家の未来を握る家を比べたら、気にする暇もないのだろう……。
娘が大きな事件を起こしたとしても、権力で握りつぶすことも容易いだろうから………。
何もかも、四之宮家の思うがまま……。
結局、私を見ていたんじゃなくて、私のステラを見てきたってことだよね。
彼方は、手紙の内容にイラついて、つい、手紙を握りしめてしまった。
"誰が当主になるもんか…!"
そう、心で叫んだ。
握りしめてしまった手紙は、元の形に戻して、そこら辺にあったロウソクの火で手紙の角に火をつける。
火は、ゆっくりと手紙を持っている手に近づき、跡形も無くなったのだ。
机の上には、焦げ茶色のチリが散乱している。
部屋には、木を燃やした時に匂う、匂いと、微量の煙が蔓延している。
手紙を燃やしたせいか、心の中はスッキリ。はなっから手紙が存在していなかったかのように。
私のステラしか見ていない一族。心配の一言もくれない家族。
こんな家にあと2年で帰ることになるなんて嫌っ!居場所のない楽園に残るのも嫌っ!
これが、私が次期当主を嫌がる理由。
こんな苦しい現実から今すぐ逃げたい…。
こんなことになるなら、ステラを持たない普通の人間に生まれたかった。普通の暮らしをしたかった!こんな家になんか、こんな呪われたようなステラになんか生まれたくなかった!
そんなことを、口づさむ。そんなの願ったってどうしようもないくらいわかってるくせに。
─ 現在 ─
「分かっておるのか?!そなたの父の病を心配しないどころか、次期当主の座を嫌がるとは……これには国の未来がかかっておるのだぞ!?」
姫様の言うことはわかる…だが、いい時だけに私を、いや、私のステラを利用しないで欲しい………。
ましてや、私がいない所で会合を開いて、勝手に次期当主の座を決めるなんて………………………。
「姫様には申し訳ないのですが、こればかりは致しかねます。私は、もうあの家に戻る気はありませんし、楽園を出てステラに振り回されない人生を送りたいのです。」
姫様は、私の答えを聞いてからか、頭を抱えてため息をついた。
そして、こちらを振り返り、こう告げる。
「そうか…………。私は、四之宮家でないから口を挟むことはあんまりできんのだが、親戚として、いや、1人の知人として言わせてもらう。そなたがここまで言うのだ。やりたいようにやるのじゃ…………。」
姫様は、こういうことを言える立場ではないのに、私の思いを、1人の知人としてくんでくれた…………?
信じ難いけど、私は、その言葉を他人から聞けただけでも嬉しい。
私の家族には、こんなこと言ってもらえる人なんか一人もいないから。
姫様は、私たちの追手から私たちを隠すように、1晩ここに泊めてくれることになった。
多分玲ちゃんの優しいところって姫様譲りなんじゃ………。
彼方は、そんなことを思い、少し笑みを浮かべる。
黒髪に少し白髪の入り交じった男が、学園の学園長、藍原譲に頭を下げて、彼方の事件のもみ消しを依頼していたのだ。
男の名は、四之宮孝介。
そう、あの四之宮家の当主だ。
ステラ貴族で名高い家門が、今、楽園までわざわざ足を運んで直々に頼み込んでいる。
この行動の発端は、娘の事件。いくら、名高い家門の当主でも、家門を傷つけるような事が起きては、こうせざるをおえないだろう。
しかも、頭を下げてまで頼みに来るのだ。プライドを捨ててまで、娘と家門を守ろうとしているのがわかるくらいだ。
「私は、もちろんもみ消しますよ。四之宮の御当主が頭を下げているのに、嫌だと言う理由がありませんよ。」
「そう言っていただいて、誠に感謝しておる。本当に、娘がこの学園に迷惑をかけて申し訳ないと思っている。すまない。」
もう一度、ステラ貴族とあろうお方が、学園長の前で頭を下げる。
事は順調に運び、政府からなんの指図も受けることなく、彼方の事件は、四之宮家の力と学園長の力でもみ消されたのだ。
それからというもの、彼方は、彼方が精神病にかかっているとも知らないもの達から陰口や変な噂をたてられていたのだ。
もちろん彼女の周りでは、彼女と親しかった者でさえ、彼方のそばを離れ、同じように陰口などを叩いた。
"あんな事件さえ起きなければ………"
彼方は、そう思い続けながら、寄り添ってくれる者もおらず、ずっと孤独を感じながら生活をしていた。
周りに助けてくれる人がいないと、生活も一気に180度変わり、性格も変わっていった…………。年々素行不良がどんどんエスカレートしていくばかり………。
到底、力のある大人でもかなう者はいないだろう………。
そして、時が流れ、彼方が高等部を卒業する頃、彼方の元に一通の手紙が届いた。
送り主は、四之宮家の当主、彼方の父からだった。
彼方は、今まで音沙汰のなかった実家から手紙が届いたので不審に思っていた。
恐る恐る、手紙を丁重に開ける。
「突然のことで驚くだろうが、私は今、病に侵されている。
そこでだ。これは、前から考えておったことだが、彼方、お前がここを出てきたら、四之宮家を継ぐ次期当主の座についてもらう。異論は認めんとす。
次期当主に、息子をと、考えていたが、ステラが指し示すように、お前が適合している。
これは、先日の四之宮家の会合で決めたことだ。お前が小さい頃から、ステラとお前を見てきたが、ここまで次期当主にふさわしい者はいないだろう。
次期当主として、もう二度と問題を起こすでないぞ。」
これは勧告─────。
次期当主として、ふさわしい行動を、ということか……………。
音沙汰の無い家からいきなり手紙が来ても、心配の一言など入っていないってわかってた。
それどころか、自分の病を理由に、次期当主の座を押し付けてきた。
ステラ貴族だもの……。
娘が起こしてきたいくつもの不祥事と国家の未来を握る家を比べたら、気にする暇もないのだろう……。
娘が大きな事件を起こしたとしても、権力で握りつぶすことも容易いだろうから………。
何もかも、四之宮家の思うがまま……。
結局、私を見ていたんじゃなくて、私のステラを見てきたってことだよね。
彼方は、手紙の内容にイラついて、つい、手紙を握りしめてしまった。
"誰が当主になるもんか…!"
そう、心で叫んだ。
握りしめてしまった手紙は、元の形に戻して、そこら辺にあったロウソクの火で手紙の角に火をつける。
火は、ゆっくりと手紙を持っている手に近づき、跡形も無くなったのだ。
机の上には、焦げ茶色のチリが散乱している。
部屋には、木を燃やした時に匂う、匂いと、微量の煙が蔓延している。
手紙を燃やしたせいか、心の中はスッキリ。はなっから手紙が存在していなかったかのように。
私のステラしか見ていない一族。心配の一言もくれない家族。
こんな家にあと2年で帰ることになるなんて嫌っ!居場所のない楽園に残るのも嫌っ!
これが、私が次期当主を嫌がる理由。
こんな苦しい現実から今すぐ逃げたい…。
こんなことになるなら、ステラを持たない普通の人間に生まれたかった。普通の暮らしをしたかった!こんな家になんか、こんな呪われたようなステラになんか生まれたくなかった!
そんなことを、口づさむ。そんなの願ったってどうしようもないくらいわかってるくせに。
─ 現在 ─
「分かっておるのか?!そなたの父の病を心配しないどころか、次期当主の座を嫌がるとは……これには国の未来がかかっておるのだぞ!?」
姫様の言うことはわかる…だが、いい時だけに私を、いや、私のステラを利用しないで欲しい………。
ましてや、私がいない所で会合を開いて、勝手に次期当主の座を決めるなんて………………………。
「姫様には申し訳ないのですが、こればかりは致しかねます。私は、もうあの家に戻る気はありませんし、楽園を出てステラに振り回されない人生を送りたいのです。」
姫様は、私の答えを聞いてからか、頭を抱えてため息をついた。
そして、こちらを振り返り、こう告げる。
「そうか…………。私は、四之宮家でないから口を挟むことはあんまりできんのだが、親戚として、いや、1人の知人として言わせてもらう。そなたがここまで言うのだ。やりたいようにやるのじゃ…………。」
姫様は、こういうことを言える立場ではないのに、私の思いを、1人の知人としてくんでくれた…………?
信じ難いけど、私は、その言葉を他人から聞けただけでも嬉しい。
私の家族には、こんなこと言ってもらえる人なんか一人もいないから。
姫様は、私たちの追手から私たちを隠すように、1晩ここに泊めてくれることになった。
多分玲ちゃんの優しいところって姫様譲りなんじゃ………。
彼方は、そんなことを思い、少し笑みを浮かべる。
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